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手間暇


今の世の中は便利になった
スマートフォンという機械によって...


話したいときにいつでも話せるSNS
時間を気にせずに見てしまう動画配信サイト

調べたいものがあればその場で調べられるし
ご飯を作るのが億劫な時には、出前を頼める...


スマホにできないことはないんじゃないかと思えるぐらいに便利になった






でも...それだけじゃ得られない要素もある



茉央:ただいま~

茉央母:おかえり
あっ、いつもの届いてたわよ?

茉央:ほんと!?
ダッ

茉央母:手を洗ってからにしなさい!

茉央:わかってるって!


母にぶっきらぼうに返事をしながら、自分の部屋へと走る



『茉央へ』


小さく表に書かれたその文字は
達筆...とは言い難いが一生懸命書いたんだろうなっていう字


でも...
それを見るだけで心が暖かくなる



茉央:ふふっ、○○も変わらんなぁ~


大人に近づくにつれて、書く字体も変化していく
そう思っていた

でも、変わらないことに嬉しくなる


封筒を丁寧に開けて、中身を見る


『茉央へ

誕生日おめでとう

直接言えないことがもどかしいけど

元気かな?
こっちは相変わらずだけど元気にやってるよ

大会でもしばらく会えてないから、今年こそは会おうな
俺も剣道頑張るから

じゃあ、またな

                  ○○』

茉央:ふふっ、あいつそんなに書くことなかったん?笑



もう一度見返して心の中で一文一文に返信しながら読む

でも...
読み終えると必ずと言ってもいいほど、笑顔になってしまう


ピラッ

そしてもう一枚...



『茉央姉ちゃんへ

やっほー、奈央だよ!
覚えててくれてるかな~?

お誕生日おめでとう!
茉央姉ちゃんももう高校生になったんだもんね~

茉央姉ちゃんと離れてもう結構経つけど、奈央も大きくなったんだよ?
この前身長測ったら、158㎝だったんだ!
1年間で3cmも伸びたの!すごくない!?

私も茉央姉ちゃんに会いたいな~
こっちに来ることがあったらうちに寄ってね?
必ずだよ~?


PS お兄ちゃん、まだ彼女つくってないから安心してね

                  奈央』


茉央:な、奈央//


最後の一文に赤面しながらも、その情報は嬉しかった



茉央:それにしても...
奈央も成長しているんやなぁ....
こんなにかわいらしい字を書けるようになって


あのふわふわした話し方がそのまま乗ったような書き方
ほんとに可愛いなぁ...

私もお返し書きたいな…



茉央:お母さ~ん、可愛い便箋ってある~?

茉央母:あるけど...
あんた、時間みなさい?

茉央:ん~?...って剣道の時間じゃん!!
なんで早く言ってくれんかったの!?

茉央母:あのねぇ...高校生にもなって親に頼るんじゃないよ!
自己管理しなさい!

茉央:早くいかんと...また怒られる...

茉央母:もう...



私が通っている高校に剣道部はなかったから、
近くの剣道クラブに入った


剣道は夏は暑さでやられるし、冬は足の感覚がなくなるくらい寒い

でも...剣道をやめたいと思うことはなかった
あの約束をしたから...





奈央:お兄ちゃ~ん、水筒忘れてるよ

○○:おっ、あぶねぇあぶねぇ
じゃあ行ってくるわ

奈央:いってらっしゃ~い



俺が剣道を始めたのは、小学校4年生の頃
近くに住んでいた女の子に誘われて始めた

人付き合いが苦手だった俺は、唯一の友達から誘われたことが嬉しかった


道場に連れていかれ、作法を学び実際に竹刀を持ってみた

男の子なら誰にでもあるのかな
剣を持って戦うことへのあこがれ

その憧れがこうして形になったとき、嬉しいが勝つ



...はずだったんだけど

剣を振れた時の楽しさよりも、誘われた女の子にボコボコにされた悔しさの方が強かった


小学校の時は女子の方がはやく背が伸びるから、高身長のあの子には一回も勝てなかった

そして結局、小学校卒業と同時に引っ越ししてしまったことで、
あいつに一回も勝てずにお別れをすることになってしまった




茉央:...なぁ...○○

○○:ん?

茉央:茉央、最後まで勝ったやんな?

○○:うっ...悔しいけどそうね...

茉央:じゃあ茉央と2つ約束して

まず1つ目は...
"なにがあっても剣道をやめないこと"

○○:えっ?

茉央:○○はさ、茉央に無理やり連れていかれて剣道始めたやん?

○○:別に強引だとは思ってなかったけど...笑

茉央:でも○○は茉央に勝てんかった

○○:...何回も言うなよ...

茉央:ごめんごめん笑
でもだから、剣道あまり好きになれなかったんちゃうかなって...

○○:...別にそんなことないよ
茉央に勝ちたかったから、きつい稽古も頑張れた
それはこれからも、ね

茉央:...ふふっ、ならよかった
茉央も続けるから、続けてたらまた会えるね

○○:...うん...
それで2つ目は?

茉央:2つ目は...

"毎年お手紙書いて!"

○○:手紙?

茉央:そうお手紙!

○○:なんで?
LINEでいいじゃん

茉央:いいじゃん!お手紙書いてや~
茉央、そんなに携帯見ぃひんし...

○○:まぁそこまで言うなら...

茉央:ほんま!?

○○:うおっ...そっちがお願いしてきた事じゃんか笑

茉央:よし!それなら茉央も向こうで頑張れる!

○○:...そっか...


『向こうで頑張れる』
この言葉を聞いた時、実感した
茉央が...唯一の友達が、引っ越してしまうことを...


茉央:なんや~○○、寂しいんか〜

○○:...べ、別に、そんなこと....
そんな...こと...グスッ

茉央:あぁ...泣くのはなしやって...グスッ
せっかく...泣かんように我慢してたのに...グスッ

それから二人で抱き合って、泣いた
今思えば恥ずかしいけど...


それから毎年、お手紙を書くようになった
最初はいっぱい書いたけど、最近はあまり書けなくなった

共通のネタが無くなってきたから...ね


でも、手紙を書いている時はいつも茉央の事を考えられる
余計なことは、浮かんでこない

あいつは今元気なのかな...とか
剣道どんな感じなのかな...とか
...彼氏できたのかな...とか


最後のはあまり聞きたくないんだけど...



でも気がついたんだ

SNSで繋がれば、すぐに届くし手間もそんなにかけない
でもなんか言葉が軽く聞こえてしまうなぁって...


手紙に書いて切手を貼ってポストに投函する
手間がかかるよ、確かに

でも、その手紙には感情が乗る気がするんだ

茉央みたいに達筆で、上手い字では書けないけれど...
でも文字に感情が乗って、相手に届いているんだと...

この手間暇は、"愛"だと思う
自惚れかもしれないけどね...



それに...


奈央:ただいま~

○○:おかえり

奈央:ねぇ、お兄ちゃん聞いて!
今日、奈央ね........


兄妹間の会話も、親との会話も同級生に比べたら多いんじゃないかなぁ
仲も悪くないし...

携帯を見る時間がほとんどないからさ
その分家族とコミュニケーションをとれる時間があるんだ


考えすぎなのかもしれないけど
茉央はそこまで考えていたんじゃないかなって今でも思う

『仲の良いままであってほしい』って



だからこそ早く茉央に会いたい

大切なことに気がつかせてくれたことへの感謝も
今まで伝えられなかった想いも

全部伝えたい


そう思って過ごしてきた



そしてそれを伝えられるチャンスが巡って来た

初めて....剣道を始めて、初めて全国大会に出れることになったんだ!


勝ち抜いた県の予選
簡単じゃなかった

皆が死に物狂いで挑む県の予選
必死だった


でも、俺はあいつに会いたい
自慢できるようになって会いたい

その一心だけで勝ち進んだ



そして迎えた全国大会
プログラムを見ると...



奈央:お兄ちゃん!茉央お姉ちゃんも出てるっ!

○○:マジ!?

奈央:うん!ほらっ!


そこには...

○○:兵庫県代表...五百城茉央
ほんとに出てるじゃん...

奈央:よかったね!お兄ちゃん!
ようやく会えるね!

○○:うん...


やっと会える
あの頃のように弱い自分じゃなくて、強い自分で




そう息巻いて挑んだけど、結果は1回戦敗退

面あり、一本


悔しかった

油断したわけじゃない
攻めていった結果


悔し涙があふれてくる
奈央も背中をさすってくれて、一緒に泣いてくれた

情けない兄貴だよ


誰にも見られたくなかった
でも...


茉央:...○○と...奈央?



運命はいたずらだ、いじわるだ

会いたいって...一緒に居たいって、
そう思う時に会わせてくれなくて

会いたくないときに会わせてくる



奈央:あっ、お兄ちゃん
ほら...

○○:.........茉央?

茉央:...○○

○○:ゴシゴシ
久しぶり...


茉央:無理して笑わんといてや...
悔しいよな...グスッ


○○:...なんで茉央も泣いてるのよ...笑


茉央:...だって...一生懸命やってきたんだなって言うのが伝わって来たからこそ...
悔しくて...


○○:...グスッ
見てて、くれたんだね

茉央:当たり前やんか!
かっこよくなったね....

○○:///ありがと





奈央:な、奈央飲み物買ってくるっ!


空気を察したのか、パタパタと走っていく奈央


茉央:毎年、手紙ありがとな
約束守ってくれて嬉しかった

○○:ううん...
手紙書くのももらうのもこんなに嬉しいんだなって、わかったよ

茉央:ふふっ、良かった
まだ奈央とも仲良しそうだし...

○○:そうだね、それも茉央のおかげだよ

茉央:そっか...



そういってはにかむ君は、あの頃と何も変わらない

変わらないんだけど、どこか大人っぽくなっていて...


一方の俺は...
負けた後だし、涙流した後だし...
かっこ悪い所しか見せてないけどさ...




○○:...あのね、茉央....
君に伝えたいことがあるんだ...






"無駄を省こう"
"効率的にやろう"

そんなことがよく言われる世の中だけど...


相手を思う時間をわかりやすく表現できる、そんな手間暇は『愛』であると
断言できる

あれから手紙を書くことは少なくなったけど...





茉央:ご飯できたよ~


今は手料理で感じるんだ
その『愛』を感じる幸せを...




...fin

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