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「コスモテックという、ある箔押し屋の話」

僕がコスモテックという小さな箔押し印刷工房に勤めさせて頂き、十数年が経とうとしています。

入社してから、たくさんの人たちと出会い、そしていくつかの別れもありました。職人の多くは、もちろん職人ではない僕もまた年をとりました。中には、残念ながらお亡くなりなった方もいます。

十数年という年月は、長いようでいてあっという間です。
試行錯誤の日々の中、「 何を感じて・何をどのように実行に移すのか、それが全てでした。 」 たくさんの人たちとの出会いや支えなくしては、今こうしてコスモテックが、さらには僕自身が今の姿でいるということは有り得ないと、はっきり言い切れます。

十数年をコスモテックの営業として過ごした僕の思い、お客様・職人・コスモテックへの感謝を言葉にしたい。今だからこそ伝えられることがあるのではないだろうかと思い立ち、僕なりの文章として残すことに決めました。

会社の門を叩く

僕がコスモテックに面接を受けに行ったのは、今から十数年前。
まだ残暑がきびしい9月のことでした。その日の光景は、いまだに鮮烈に残っています。

額に汗をかきながら、おそるおそる扉を開けると、簡素な作業場で一人、箔押しの匠 佐藤が、古びた機械で黙々と作業をしていました。こちらに気がつくと、佐藤は手を止めて一言、「 よく来たね 」

それが僕と佐藤のはじめての出会いであり、コスモテックという箔押し加工所との出会いでもありました。

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僕が入社した当時のコスモテックは大手の印刷所の下請け会社で、キラキラの豪華な箔押しのイメージとは裏腹に、はっきり言って、ただただ与えられた仕事を淡々とこなすだけ

入社したての僕は、言いようのない違和感を抱えたまま、営業とは名ばかりの使いっぱしりのような毎日を過ごしていました。客先に製品を取りに行き、加工を終えた製品を納品する。お客様に何かを提案するなんてことは、やる必要のないことでした。

ある日、納品に向かう車の中、ふと 「 僕等が加工した製品を、お客様は本当に喜んでくれているのかな? 」 という疑問がわいてきました。

僕らが加工した製品を手に取るお客様の反応を見てみたい、僕らが加工にかけた思いを聞いて欲しいと思いながらも、当時はそのやり方や伝え方が分からなかった気がします。

理不尽な通告

僕が入社して4ヶ月目くらいのある日。
突然、 「 会社、つぶれるかもしれんなぁ… 」 と伝えられた時の衝撃は、今でもはっきり覚えてます。まだ右も左も分からない、印刷加工業界初心者の僕に突きつけられた重すぎる事実。夢や希望に溢れて入社したはずなのに。なんでそんな状態で僕を採用したんだ? 理不尽さを感じました。

入社したてで知識も経験もない。
手取り足取り教えてくれる人もいない。
金もない。社員も少ない。

でも、なんとかしないと、コスモテックにも僕にも未来はない。
ぐるぐると頭の中を真っ黒な塊が駆け巡りました。

しかし、打ちのめされたのは実は一瞬のことで、次の瞬間には何か吹っ切れた感がありました。

素人だからこそできること

僕の知識や経験で役に立ちそうなものは、学生時代にちょこっとかじったホームページ作成の知識くらいのもの。ひとまず、コスモテックがやったことないことをしよう、と思い立ちました。

「 コスモテック、ここに在り! 」 ということでブログを作り、情報発信を開始しました。自分が経験した仕事をブログという形で文章に書き起こすことで、自らの復習にもなるとも考えました。

しかし、ブログ開設当時は、びっくりするくらい誰も見てくれる方がおりませんでした。 

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そして、印刷所巡りを慣行し、たくさんの職人に会い、印刷加工の生の知識を得られるよう努力しました。当時は、今ほどインターネットや書籍で印刷加工会社が取り上げられるケースが多くはなかったので、探し出すのも一苦労でした。

電話を使ってアポイントを取ろうとするも、 「 コスモテック 」 という社名のイメージから通信系企業の勧誘と勘違いされ、取り合ってもらえなかったり、時には怒鳴られることもありました。

無我夢中の日々

経営が厳しいというのに 「 紙の勉強をするから、サンプル帳を自宅用に買って欲しい! 」 と会社におねだりして、やっとこさ買って頂いた宝物のサンプル帳を自宅で触ったり、眺めたり、サンプル帳が枕元に転がったまま朝を迎える日々が続きました。

ブログを書いたり、サンプル帳を見て想像したり、自腹を切って購入した印刷加工の本を読み込むことなどは、仕事が終わった後に家で行うこと。当時は、どんなに疲れていても 「 やらねば潰れる 」 と自分に言い聞かせ、奮い立たせ、休むことを許しませんでした。

危機的状況の中ではあったものの、自宅で自発的な勉強と位置付けて開始したことなので、もちろん残業代は出ませんし、時間外労働の対価としてお金をもらう発想もありませんでした。

会社にいても自宅に居ても仕事と勉強に明け暮れるなんて、ワーカホリックだとか、ブラック企業だとか、努力家で熱心だという印象を持つ方もいるかもしれません。その時の僕はがむしゃらで、必死で、生活の全てが仕事と結びついていたように感じます。今振り返ってみると、まるで子供が何かに夢中になるような感覚だったなと感じ、少しこそばゆい気持ちになります。 しかし、その時の湧き上がる馬力と感覚、瞬発力は、十数年経過した今でも僕の大切な経験です。

そして、何年か掛けて知識や経験を得るにつれ、コスモテックを取り巻く世界は加速度的に広がり、目まぐるしく景色が変わり、どんどん仕事がおもしろくなっていくことを実感しました。そして当時、MUST にしていたことが、今や自分のライフワークであり、趣味のようなものになろうとは… 今でも不思議でなりません。

自分のため、そして誰かのための記録

コスモテックにご依頼いただく仕事や他社の職人との交流をとおして、お客様が求める世界観を箔押し加工に落とし込むためには、ただ綺麗に丁寧に仕上げる以上に必要なものがあると学びました。 僕らがどのような気持ちで仕事に接するのか、どのように向き合っていくのかは、永遠の課題であると感じています。

これから、少しずつではありますが、コスモテックと僕が体験したたくさんの出来事、感じたことなどを、僕の視点から文章にまとめていきたいと思います。自らの記録として、そして、いつか誰かのために役立てるかもしれないという淡い期待を込めて。どうか気長にお付き合いくださいませ。

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