「 立花文穂さん 『 印象 』 図録、箔押し加工立ち会い(2023年2月27日) 」
コスモテックの青木です。
今回、アーティスト 立花文穂(たちばなふみお)さんの図録 『 印象 』 の表紙への箔押し加工でお手伝いさせていただきました。
◉ それは突然の出来事
立花文穂さんは、前田が女子美術大学に在籍していた時の恩師です。
前田は普段、大学時代の時の話をしてくれることがよくあり、その時必ず立花文穂さんの製作物や作品について、私も詳しくなってしまうくらい、前田がひときわ熱く語ってくれるのです。
それは突然の出来事でした。
なんと立花文穂さんから今回の図録 『 印象 』 の表紙への箔押し加工のご相談をいただいたのです。
前田によると大学卒業から十余年という長い時を経て、学生時代の尊敬し憧れていた恩師の作品への箔押し加工を自らが仕事としてお手伝いさせていただけることに驚いたそうです。
実は前田はコスモテックに入社後、立花文穂さんの製作物・作品などを自身で少しずつ買い揃えていたり、展示や個展に私を引っ張り出しては連れて行ってもくれました。さらには数年前に一度、立花文穂さんに直接お会いする機会を前田が作ってくれたこともあったのです( 2019年12月 )
いつしか私の中でも、立花文穂さんは前田の恩師 「 先生 」 というどこか身近な存在に感じるようになっていきました。
◉ いつの日か、が今まさに
「 いつか、立花さんの製作物に箔押し加工できる日が来るといいね 」
私はよくそんな話を前田としていました。
昨年、水戸芸術館で立花文穂さんの美術館での初の個展が開催されました( 2022年7月23日〜2022年10月10日 )。 前田は、もちろん足を運びました。
個展のタイトルは 『 印象 』 です。
会期中に、立花文穂さんの初の美術館開催による個展の図録が刊行予定( 2022年10月刊行予定 )と発表があった際には 「 必ず手に入れたい! 」 と前田も私も強く思いました。
立花文穂さんのインスタグラムより
この時は、まさかその4ヶ月後( 2023年2月末 )に 『 印象 』 の図録表紙の箔押し加工を前田にご依頼いただけることになるとはと、想像していませんでした。
◉ 渾身の一撃押しを実現させるために
さて、立花文穂さん 『 印象 』 図録表紙への箔押し加工は本の状態に仕上がった図録にがっつりと渾身の箔押しを表紙に押すというものです。
2023年2月27日。
立花文穂さんが箔押し加工の立ち会いにお越しくださいました。
『 前田の先生のお仕事で、先生自ら加工の立ち会いをしてくださる 』
背筋がビシッと伸びるような緊張感とうれしさを胸に、前のめりになって箔押し加工立ち会いに挑ませていただきました。
「 表紙から本文用紙にかけて、箔押し加工の圧の痕跡が出ても構わない 」 というのが、立花さんからの要望でした。
製本され、仕上がった状態の 『 印象 』 図録からは、紙ならではの物質的存在感がひしひしと伝わってきます。
( ここから先の文章は前田にバトンタッチします )
◉ 箔押しの現場 前田瑠璃より
今回、私が女子美術大学の学生時代に大変お世話になった立花文穂先生の図録の加工に携わる機会をいただきました。
図録への加工は、製本された状態で表紙に 『 印象 』 というタイトルを箔押しします。タイトルの文字は立花先生が文字を組み、活版印刷で刷り上げたタイトル文字をデータ化したものです。データ上の文字の周りには活版印刷のインクの痕跡も表現されています。
加工の際は立花先生が加工に立ち会ってくださり、長時間にわたって箔色や箔押し加工の押し圧加減( 箔押しした部分の凹み具合 )などをコスモテックの箔押しの現場で目の前でご確認いただきました。
立花先生は当初より金箔をご希望でしたので、箔押し加工のイメージをよりつかみやすいよう、加工立ち会い前に透明のフィルムに本番用の箔押し版を使用して金色系の箔を何種類か押したものを準備しました。
この箔押ししたフィルムを図録の表紙に当てがうと実際に箔を押したかのように見えるため、どの箔色が合うかを目で見て確認できます。 先生がいらっしゃる加工立ち会いに向けて、私自身の心の準備も含めて用意しました。
◉ 加工に使用する金属版をその場でカスタマイズ
製本された状態の図録の厚みは約20mm程で、紙はやわらかく、ふかふかしていることから、加工に使用する金属製の版は腐食が深いものを、そして銅製のものをセレクトしました。
加工する製品 / 作品が厚くなると金属製の版の余白部分( 箔を押さない部分 )にも箔がついてしまう可能性が高くなるので、押す素材が何か / どんな状態かを考えて金属版の腐食の深さや金属の材質選びを行います。
そして今回、立花先生との制作過程では、稀にしか見られない試みがありました! それは 「 版をその場でつくりあげる 」 ということです。
前述のとおり、『 印象 』 のタイトル文字の周りには活版印刷の際に刷ったインクが散った跡も金属版にしっかりと表現されているのですが、なんとこの部分( 上の写真参照 点が散っている部分 )をその場でほどよく研磨し、金属版に手を加えカスタマイズしました。
立花先生が 「 ここの点をこのくらい削って 」 という指示を出してくださり、その場ですぐに私が削っていきます。 完全に削り取るものや、中には少しだけ高さを残すような削り方をしているものもあり、削り方とその加減によって箔ののり具合・凹み具合が微妙に変化するため、削る作業は慎重におこないました。
削ったものは修復はできませんので、緊張の一発勝負です!
その場で金属版を削りながら版をつくりあげるという、なかなかない経験に私の緊張感はピークに達しました。 「 先生の話に耳を傾ける 」 「 先生の求める形に寄せる 」 「 先生の感覚に寄りそう 」 など、立花先生との立ち会いの中での会話を大切にし、イメージを共有しながら進めていきました。
張り詰めた緊張感の中、美術大学時代の未熟な自分をふと思い出してしまう瞬間もありましたが、今こうして敬愛する先生に少し成長した私の姿を見ていただきたいという一心で、 『 しっかり聞く 』 ことに注力し、手を動かし、版を削りました。
学生時代に大変お世話になった、尊敬する立花先生の図録の製作で 「 一緒に着地点を探し、手を動かしている 」 ……
先生との一連のやりとりやその場の空気感や空間、瞬間がとてもうれしく、加工しながら熱い気持ちが込み上げてきました。
◉ 押し圧具合は唯一無二
立花先生と一緒につくりあげたオリジナルの金属版を箔押し機にセットし、実際の図録 『 印象 』 に箔を押しながら、どのくらいの凹み具合にしていくか、ちょうどいい圧力の塩梅を会話しながら調整していきます。
「 圧力の強さは強めに、強めに…… 」
「 もう少しだけ弱めてみようか? 」
「 あと気持ち強めに… 」
立花先生にご意見をうかがいながら、絶妙な圧の加減とバランス感覚で、表紙の次のページ(本文)に押した圧の凹み跡が残るくらいの圧で加工しています。 この押し具合が本当に絶妙な加減なのです!
通常の箔押し加工では表紙の下の本文には凹みの影響が出ないように加工することがほとんどなのですが、今回の図録では表紙をめくった次ページである本文には表紙のタイトル 『 印象 』 の圧の痕跡をほのかに感じ取れるという… あまり見かけることのない表紙加工の表現方法です!
「 学生時代には、先生と一緒にお仕事をする機会がくるなんて想像していなかった… 」
今回の加工立ち会い、製作・加工を通して立花先生と心をひとつに臨んだ時間・会話は、私にとってとてもかけがえのないものになりました。
東京TDC賞2024 特別賞
「 立花文穂展 印象 IT’S ONLY A PAPER MOON(球体11号) 」
立花文穂 ゲスト:田中義久
立花文穂先生、今回 図録 『 印象 』 への箔押し加工のお手伝いをさせていただき、本当にありがとうございました! これからも精進していきます。
【 箔押し加工 】
有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362
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