大雨大風、三時間前後不覚の夜に。

画像1 眩しい朝日に雲がなだれ込み、うす明るい景色の膝丈あたり、虫の音が薄い層を広げていた。それが耳の後ろ、頭蓋の内側を滑り、もつれては解けて消える。生き物の気配は穏やかで、これから荒れ模様に転じるなんて、信じがたい。
画像2 子どもの頃、台風が楽しみだった。半ドン上がりの帰り道、幼なじみと傘で風を捕まえ、力が釣り合った瞬間、どたどた赤い長ぐつごと何度も飛び上がった。ドロシーみたいに家ごとなんて言わない。黄色いカッパに傘と長ぐつ、雨と風に押し上げられて、まるまる全部、このものすごい力を蓄えた勢いの先の先まで、見てみたかった。今でもでんぐり返る風景と、徐々に脱力して行った後の果ての果てを見てみたい。…吐くか。
画像3 それどこじゃない。町内全域避難勧告出ちゃったよ。小川は最高潮。今にも溢れそう。道路をしたたかに打つ変幻自在の白い波と形にならない影が次々と、真横・斜め・真正面からぶつかり、通り過ぎていく。フロントガラスに線香花火の火花が散っている。車の腹も打たれ続けた。なんて賑やかな夜。重くなった上着を脱いで、冷えたからだにたっぷりのお湯。だばんっと浸かって、窓を揺すり、空で唸る風と一緒に飛び上ろう。あ、溺れんようにせんとね。うっかり眠気に足をとられた。記憶がない。避難はしない。ちゃんと眠ろう。…お休みなさい。

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