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(なんでもない、なんでもないよ。)
その昔、僕はとっても夢見の悪い子でした。
だいたい何者かに追われていて、捕まったら殺される状況のなか、紙一重で伸びてくる手を避けながら、ひとりきりで逃げ回っていました。
吹奏楽を始めてからは楽器を弾く夢もよく見るようになったけれど、小学校に入る頃にはもう逃げ回る夢を見ていたような記憶があります。
(もちろん毎晩見るわけじゃないし、見る頻度も時期によって差があるけど。楽しい夢もちゃんと見てたよ)
どれだけ逃げても追っ手を振り切れず、休もうとすれば見つかり、息を整える暇もなくまた走り出す。
もういっそ捕まったほうがましだと思うくらい身体も精神も疲弊して、それでもまだ逃げ続けて、だから目が覚めればどっと疲れていることも多かった。
でもそれは私にとって当たり前のことだったから、とりたてて誰かに訴えたりもせずに、そのまま大きくなりました。
怖い夢ってほんとに怖いなぁ、くらいの感覚しかなくて、それがどんなものなのか、考えたこともなかったのです。
その私が怖い夢を見なくなったのは、25歳になる ちょっと前。
20年ほど毎回ひとりで逃げ続けてきた私が、初めて誰かに助けてもらえたのです。
手を繋いで一緒に逃げてくれて、腕の中に庇って匿ってくれて、それでどれほど安心したか、心強かったか。
その時にはじめて、「私こんなに怖かったんだ」って気付いたのです。
追い詰められることが普通になっていた。怖いのが当たり前だと思ってた。だから知らなかったけど、私いっつもすっごく怖くて、誰かに助けて欲しかったんだ。
ひとりぼっちじゃないってことは、奇跡でした。
それ以来、私の『怖い夢』には仲間が現れるようになりました。
絶対に一緒に立ち向かってくれる人がいるし、誰かが私を助けてくれる。
だから怖い夢も、もう怖くないです。
怖くないよ、平気だよ、慣れてるよ、いつものことだよ。だから救われなくたって大丈夫。
私は本気でそう思っていたけど、いざ救われてみたら、どれほど救って欲しかったのかよく分かった。救われてみなきゃ分からなかった。
それから私は自分が救われることを許してみたいって言えるようになったし、どんなに変わらないって思ってたことでも変わるかもしれないんだって思えるようになった。
そして3年くらいかけて、ようやく人間になれたわけです。
Orbital Periodの28年目に、ようやく生まれることができて、そこからやっと1歳です。
どうしてあの時 助けに来てもらえたのかは今でも分かりません。
私がやっと何かを認められた結果なのかもしれないし、誰かにかけられた呪いの効力がそこで切れたのかもしれないし、何だったら、僕に悪い夢を見せていた星が爆発したのかもしんない。
でもとにかく助けてもらえた。助けてって叫ぶ概念すらなかった私にも、ちゃんと手は伸ばしてもらえた。
だから今度は私が誰かを助けに行きたいし、私が私を助けたい。そういう人間になりたいです。
と、思った誕生月の1日目。
28歳で死ぬと思っていた私が、もうすぐ29歳になります。わーい。
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