音楽講師として最も幸せなこと―ピアノレッスンも心理セラピー

2022.09.27.日記

発達障碍という目で見られる女の子。

最初は、母親にも「本当にやりたいのかもわからないしもしかしたらピアノが目的じゃないかもしれない。続くかどうかもわからないから様子を見ながら」と言われて、しかも緊張しいでおずおずと8月からピアノレッスンを始めた小学5年生の女の子。

しかも一番最初は、これはどちらかというとお母さんがなあなあだったのだが、最初のレッスン日をいつにするか、二転三転した。その上、最初は私達の家族(器の母親)に習いたいと言っていた。つまり、見晴らしの良いあの家に行きたいのではないか、そしてその子のお母様はお母様でこちらの器の母親と話したいのが実は目的なのではないか、と、私達と母は話し合っていたほど、はっきりしない話だった。

そしてピアノも自宅にないので練習ができない。
そんな中、女の子本人が、私でもいいし見晴らしの良い家のグランドピアノでなくとも良いと言っているらしいと聞き、8月から始めてみたのだった。
しかも最初にお母様と3人で音楽教室の説明なども含めて話をしていた時、本人に話を聞けば、音楽の授業が大嫌いだと言う。そして音楽の先生が大嫌いなのだと。

それなのになぜピアノをやりたいと思ったのか。
私達は心理セラピストでもあるため、生徒さん達の発達状態や心と身体のバランスも常に見ていく。
少し導入にさりげなくカウンセリングをしていくと、本人から驚くべき言葉が出てきた。

「ピアノをやることで、もしかしたら音楽の授業を好きになれるかもしれないから」

この子は、お母さんが思っていたような「何となく」や「好き嫌い」などの理由ではない。
立派に「音楽の授業を好きになりたい」「苦手意識のあるものを克服したい」のだ。

何とも立派な意志と表明を聞き、それから、レッスン中にいろいろな話をして彼女の心と身体を観察しながら、レッスンを開始して行ったのだった。

最初は緊張していたし、数回後には「何か自分ができていないような気がする」「これが難しい」などとも言いながら(これも本人から出てはこないのでカウンセリングしたわけだが)、それでも私のレッスンをとても楽しいと言って、ピアノもない中、机の上や鍵盤ハーモニカを使って練習もしてきてくれていた。
ご両親にも彼女の意志が伝わり、ではピアノ(電子ピアノかキーボード)も調達しようという話に。

鍵盤を手に入れる予定があるならと、ついに練習曲の楽譜を準備してもらい、楽譜に突入。
楽譜の読み書きも教え、実際に楽譜も弾いてみる。
右手の練習、左手の練習。
始めたばかりは指を動かすことにも慣れていない。1時間ぎゅう詰めでやれば頭が一気に疲れてくる。
それでも、彼女はなかなか面白がってチュートリアルのように進めていく練習曲を、もうちょっとやってみたいと、結局1時間いっぱいやる。

音の高低判断に弱い部分があると判明したため、真ん中のドとそこを起点にオクターヴ下のド、オクターヴ上のドを鳴らし比べ、どう感じるか感想を述べてみたり、後ろを向いてもらってどのドか当てるゲームなどを取り入れる。

最初、1か月毎に相談しようと言っていたのが、あっという間に来週3か月目に突入する。
夏休みが終わって学校が始まった最初の週、レッスンの時間が大幅に変わった時に、1回だけ来るのを忘れて時間が遅れた(お母様が仕事で家にいないため、本人ひとりで家を出てくることになる)が、他は一切遅れずに元気に来る。

そして2か月目最後の本日、いつものように1週間どうだったか聞いてみると、何と、「学校が楽しくなってきました」と。
そして、何とも嬉しいことに、「ピアノを始めてから、音楽の授業が好きになりました」
これには驚き、では先生はと聞くと、音楽の先生はやはり何やら年配の先生で妙に厳しくて説明も良くわからない、やはり先生は嫌いだという。
それでも、音楽の授業は好きになり、しかも最初に言ったことも覚えていて「夢がかなった!」と、両手を上げて嬉しそうに呟いた。

こんな嬉しいことはない。

そして、楽器を鳴らすことも苦手で嫌いだったのが、鍵盤ハーモニカとリコーダーとその他の色々な楽器を選んで合奏をするような授業で、自ら鍵盤ハーモニカを選び、ピアノレッスンで鍵盤がわかるようになったので、周りの子たちからも、「すごいね」と言われるようになったのだと。

しかもレッスンでは、最初のうち一生懸命、大人しく大人らしい物言いをしていたりシールを出してもどっちでも良い、というような素振りをしていたのが(小学校高学年を教えるのは初めてであったし、もしかしたら子供っぽくて本当にあまり気乗りがしないのかと思ったほど大人びた態度を取ってきていた)、今や「次、シールですか♪」と自分からねだるように。

今日など、シールを1回しか貼る時がなく、「あれ、いつも2個くらい貼るとこあった気がするんだけどな」という話をお互いしながら、それでも他に貼るところがなかったので、レッスンノートの本日の曜日のところにシールを貼ってもらうことに。

本当に素直で、いろいろなことを話してくれるようにもなった。

この子が翼を広げたら、一体どこまで翔ぶだろう。

ひとは、自分の可能性さえ知れば、いや、自分にはどんな可能性でもあるのだと知れば、その可能性を能動的につかんでいくことができるのだ。


…そして…
もしかしたら印象として驚かれるかもしれない。
しかし、知る人は知ることでもあるのだが。
我らが主軸である凘銀は(単発の確立当初から)、子供に弱い。そして子供の扱いがうまい…


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