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アスタリフトジェリーの真実【前編】:富士フイルムの挑戦とジェリー創世記

はじめまして!コスメ学長です。

私はスキンケア分野で20年以上にわたり、処方開発や基礎研究に従事している現役の化粧品技術者です。また、化粧品業界の学術団体にも所属して、若手の化粧品技術者の育成や学会活動にも積極的に取り組んでいます。

コスメ学長👨‍🎓

さらに、化粧品技術に関する専門書の執筆や、講習会・セミナーでの講師活動など、多くの貴重な経験を積ませていただきました。

これまでの経験を活かして、化粧品に関する知識や技術をわかりやすくお伝えし、これからも皆さんのコスメ・リテラシー向上のお手伝いができればと思っています。皆さんに「なるほど!」と思っていただけるよう、信頼性の高い情報発信を日々心がけていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

…と言いながらも、研究開発に追われる日々が続き、近ごろは情報発信の頻度が減ってしまっていました。

そんな中、光栄にもみついさんからお声がけをいただき、この『コスメの森』で新たに情報をお届けできる機会をいただきました。
ここでは、化粧品技術者としての視点から、他の執筆者の方々とは少し違った角度で、皆さまのお役に立つ情報をお届けできればと思っています。

初投稿となる今回は、富士フイルムの「アスタリフト ジェリー アクアリスタ」をテーマに、この製品の魅力を余すことなくお伝えできればと思っています。

出典:富士フイルム公式サイト


「アスタリフト ジェリー アクアリスタ」は、先進的な技術と特徴的なテクスチャーで大ヒットを記録し、今も多くの方に愛され続ける人気の定番アイテムの1つです。発売当初、化粧品技術者の目から見てみてもその技術に「すごいなぁ!」と感心してしまいました。私自身にとっても、お気に入りの1品となっています。

本編の内容は前編と後編の2部に分け、前編では「ジェリー創世記」として、アスタリフトシリーズの誕生からジェリーの登場までの背景を掘り下げ、後編ではジェリーの革新的なテクノロジーに迫り、その秘密を解説します。

よく知られているロングセラー製品ですが、この内容を読むと、前後編ともに新たな発見があるはずです!ぜひお楽しみください。


アスタリフトシリーズ立ち上げまでの歴史

富士フイルムは、長年にわたり写真フイルム分野をリードしてきた企業として広く知られています。しかし、デジタル化の進展でフイルム需要が急激に減少。

この変化を受け入れた富士フイルムは、1988年に世界初のデジタルカメラを自ら開発し、時代の変革に乗り遅れるどころか、その先頭に立って新たな道を切り拓いていきました。そしてさらに新たな挑戦として、これまで培ってきた分野の技術を活かし、事業の幅を広げていきました。

現在では、機能性化粧品やサプリメントといったウェルネス分野、医薬品や医療機器を中心とするメディカル分野へと事業を展開しています。創業当時から手がけてきたX線フィルムなどの医療診断ツールも、医療分野の進化を支えています。

出典:樹木希林さん出演TVCM – 富士フイルム

昔は樹木希林さんが出演していたお正月の定番CM(「お正月を写そうっ!」のやつ)などが印象深かったのですが、今では同社のCMもすっかり様変わりしましたよね。もはや写真フイルムの会社っぽくはない。

富士フイルムの変革が始まったのは、2006年。社名を「富士写真フイルム」から「富士フイルム」に変更し、技術とアイデアが融合する「富士フイルム先進研究所」を神奈川県足柄上郡開成町に設立しました。

同社が会社全体で大きな変革期を迎えていたその時期、化粧品事業もまた並行して劇的な変化を遂げたと言えるでしょう。フイルム事業以外への事業展開において、化粧品事業は重要な柱の一つであったことは間違いありません。

アスタリフトジェリーはもちろん、アスタリフトラインさえまだ存在しなかった時代。富士フイルムがヘルスケア分野に初めて参入したのは、そんな2006年のことでした。

この年、同社は機能性スキンケア化粧品「f²i(エフスクエアアイ)」と機能性食品「f3i(エフキューブアイ)」を発売し、化粧品業界への第一歩を踏み出していました。

機能性スキンケアf2i(エフスクエアアイ)
出典:当時の富士フイルム公式サイト

当時、化粧品業界では、2005年11月16日に発売されたコーセーの「アスタリューション」が、アスタキサンチンを代表するスキンケア製品として先行していました。

しかし、あのように濃く着色されたスキンケア製品が大手ブランドのアイテムとして消費者に受け入れられるかについては不安の声もあり、アスタキサンチン押しのスキンケアが受け入れられるかどうかは不確かだったのではないでしょうか。アスタリューションを発売したコーセーも不安を感じていたことが、サイト上の表現からもうかがえます。

当時配合されていたアスタキサンチンが甲殻類(エビやカニ)由来であったこともあり、なんか・・・うん、独特の磯の香りがありましたねぇ。

2005年発売 アスタリューション
出典:コーセー公式サイト

富士フイルムはf²i(エフスクエアアイ)ブランドを立ち上げたその翌年、2007年1月15日には、アスタキサンチンを配合した浸透型美容液「f²i インフィルトレートセラム リンクルエッセンス」を発売。

この製品が、富士フイルムとして初めてアスタキサンチン市場に参入した化粧品となりました。個人的な感想ですが、この時点ではまだブランドの統一感が感じられませんでしたね…。

富士フイルム初のアスタキサンチン配合化粧品
f²i インフィルトレートセラム リンクルエッセンス
出典:当時の富士フイルム公式サイト

当時、「真浸透美容液」として登場したこの製品には、自社技術を活かして高い効果を持つ化粧品を届けたいという富士フイルムの強い思いが込められていました。

ただ、アスタキサンチンというクセのある美容成分を有効濃度で配合することで、濃い赤色に染まったスキンケア商品が、果たして多くの消費者に受け入れられるのか。また、競合がすでに存在するアスタキサンチン市場でどう戦っていくのか。同社にとっても、これらの課題にはまだ明確な答えが出ていなかったと思います。

しかし、この初めての製品を通じて得られた経験を活かし、富士フイルムはさらなる技術開発と市場分析をおこなったのでしょう。アスタキサンチンの魅力を最大限に伝える方法を磨き上げ、より進化したスキンケアブランドを誕生させます。

こうして生まれたのが、「アスタリフト(ASTALIFT)」シリーズです。

ローション・エッセンス・クリームの 3アイテムでデビュー
出典:当時の富士フイルム公式サイト

アスタリフトシリーズは、2007年9月12日にローション、エッセンス、クリームの3つの製品で販売を開始しました。その後、勢いに乗り、2008年2月19日には別の新シリーズ「nanofilt(ナノフィルト)」を発売。このシリーズは、クレンジングジェル、固形石鹸、ローション2種類、クリーム2種類、デイプロテクターのラインアップで、緑色をブランドカラーにしていました。

nanofilt(ナノフィルト)シリーズ 出典:当時の富士フイルム公式サイト

しかし、2つのブランドを同時に展開するのは難しいと判断したのか、その後はアスタリフトシリーズに再び注力することになったのです。

2008年3月には3品だったアスタリフトラインにデイプロテクターやクレンジングジェルなど5品目を、2009年2月にはローション(さっぱりタイプ)や、初の医薬部外品となる美白美容液「ホワイトニングエッセンス」を追加。
こうしてアスタリフトは、多彩な製品群を備えた信頼性と実力を兼ね備えたブランドへと成長し続けたのです。

アスタリフト(ASTALIFT)シリーズ
出典:富士フイルム公式サイト

しかし、製品を実際に見てみると、自社の技術がどのように化粧品に応用されているのかがしっかり説明されており、「なるほど!」と納得しました。

異業種から化粧品業界に参入する例は少なくありませんが、自社の高度な技術を化粧品の美容効果にどのように活かしていくのかを、消費者が納得できるレベルで明確に説明している例は珍しかったのではないでしょうか。

ただ、ここに至るまでには試行錯誤の時期があり、現在のアスタリフトラインの形にたどり着くまでには時間がかかったことも分かっていただけたのではないでしょうか。

アスタリフトシリーズのブランドコンセプト

赤を基調としたブランドカラー

アスタリフトシリーズのテクノロジーの中心となるのは、ビタミンEの1,000倍ともいわれる高い抗酸化力を持つアンチエイジング素材、「アスタキサンチン」です。

注目すべきは、アスタキサンチンを有効濃度で配合したことで生まれた特徴的な外観です。着色料ではなく、有効成分そのものが生み出す鮮やかな赤色はブランドカラーとしても定着し、ひと目で「アスタリフト」とわかる独自の存在感を築き上げました。また、無色~淡い色が主流だった日本のスキンケア市場に、新たな価値観をもたらしたとも言えます。

抗酸化技術

富士フイルムと化粧品を繋ぐキーワードの1つは「抗酸化」。同社はプリントした写真をいつまでも鮮やかに保つために、色あせの原因となる紫外線による酸化を抑制する技術を徹底して研究してきました。肌のシミやシワの原因も「酸化」で、紫外線からのダメージがその原因となる活性酸素を引き起こします。

そこで同社は、写真フイルムの研究を通じて活性酸素に対抗する抗酸化技術を開発し、約4000種類の候補成分を発見しました。この技術を応用し、肌にも効果的な抗酸化成分をさらに選定し化粧品に搭載しています。

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