見出し画像

「地中海世界」(フェルナン・ブローデル編)−海−

今回で2回目の「文化の読書会」。-陸地-に続いて、地中海の-海-について。

地中海は、現代の私たちの感覚だと「湖」くらいの感覚になっているが、古代や中世の時代の人にとっては、とてつもなく広く、まさに「一つの世界」「一つの惑星」だった、というくらいそれが全てだったのだ。

この地中海は、-陸-でも触れられていたように切り立った陸地で囲まれているため、大陸棚のような遠浅の海がないため、海の幸は種類は多いが量が乏しい。地中海合わせてノルウェー1カ国の3分の1程度だ。そのため、大型かつ近代型の漁船はジブラルタル海峡から出て大西洋に行く。今は資源の枯渇も危惧される中、地元の漁師は古来からの方法で農作と兼ねながら生きてきた。そのため地中海の漁業は、ほとんど市場に供給しておらず、他地域からの輸入に頼っている。例外は、古代から続くまぐろ漁だが、これも近代化による海洋汚染で可能な地域は減ってきている。

地中海は、交通網として大きな役割を果たしてきた。とはいえ、長い間沿海伝いで人々は海を行き来し、沖まで出ることは長い間稀だった。外洋航海が増えたのは16世紀だが、それでも中心は沿海の近距離移動だった。戦争も経済も長い間、この前提で歴史が紡がれていった。
季節によって、地中海は大きく姿を変える。夏は青く静かで輝くような水面に油を流したように光を反射する海であったため、経済も戦争も盛んとなった。一方、秋・冬は大荒れとなり、航海は行われなかった。

こういった状況を大きく変えていったのは、やはり技術の進歩だ。手漕ぎメインのガレー船から外洋航海も可能な大型丸胴帆船へ、さらに18世紀になると銅板も張って100門以上の大砲を備えた大型船へと移行していった。当然ながら建造費用も高額となるため、国の単位は近代国家の富・野心・狂気が必要となった。こういった木造船の需要と燃料等への使用により、森林は荒廃し、それが造船基地の移動、さらには地中海における制海権の移行も促進した。

地中海の大きな役割は都市間や国家間、大陸間を結ぶ「道」であった。物流網として、そして文化交流の促進の場として。中国を含めた途方も無い広さにわたって東西の物や人の交流を促進し、陸側との中継地としての機能は莫大な富を生んだ。だからこそ地中海の覇権は目まぐるしく変化していった。そして、こういった繁栄も外洋中心のイギリスが覇権を握ってから終焉を迎えていった。

よろしければサポートお願いします。日本各地のリサーチ、世界への発信活動に活用して参ります。