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#26 求めよ、さらば見つからん

かつて若かりし頃の私のアメリカ一人旅の記録です。
前回の更新から何ヶ月も経ってしまっているので、全然わからんちんになっているかと思いますが、下のリンクで復習してみてくださいね。復習するにしては重たすぎる文字数ですけどね。しかも、さっき気がついたのですが、前回の旅日記に貼っていたリンク先がうんとこさ間違っていました。先程、しれっと直しておきました。

さぁ、気を取り直していきましょう。
前回はアメリカのパワースポット、セドナでの不思議体験を記録したものでした。この日、不完全燃焼だった私は、更なる不思議体験をするべく ”サイキックリーディング” をしに行くのでした。

サイキックリーディングとは、日本でいうところの ”スピリチュアルリーディング” と同等のものかと思われます。占いをしてもらうことはあっても、いわゆる視える人に視てもらうことは初めての体験でした。

当時、私はずっと心の中で悩んでいることがあって、その答えを求めていたのです。考えても考えても見つからない答え。この日、私は悩みを解決することは出来たのでしょうか。


ツアーの出発前にほんの少しお話した、アメリカンインディアンのおじさんにこの辺りの霊能者について、聞いてみることにした。

「うーん、この辺にはそんな人達ばかりがいるからねぇ。あまりよく知らないんだよ」

彼はまっすぐに私を見つめてそう答えた。彼の目は誠実で、知的な光をたたえていた。静かで抑揚のないその口調は、こんな下賎げせんな質問にはふさわしくないように感じた。だけど、他に聞けるような人もいない。私は質問を変えてみた。

「街で評判の占い師は?」

彼は黙って少し考えた。

「そうだな。ここの裏にある建物の2Fにカフェがあるんだ。そこのカフェにいる占い師は当たると評判になってるね。でも、僕は占ってもらったことはないし、彼と話したこともないから知らないよ。ただ、評判にはなっている」

彼の低い声が、私の質問にまっすぐ答えてくれた。心と心が直線で結ばれたような会話。問と解の間に、余分な雑念は何もない。

少し世間話をした後、私は教えてもらったカフェへと向かった。ああ、彼とはもっと深い会話をしてみたかったな。きっと学ぶことが多かったに違いない。私はほんの少し彼に対して未練を残しつつ、建物の裏手へと回った。

そこは、ロマンチックな石畳の小道沿いに、小物ショップや民芸品屋が建ち並んだ一角だった。ところどころに、宇宙人の絵やUFOのポスターが貼ってあり、それらは不可解なミステリーに強烈な憧憬を抱く人々のメッカであることを再確認させた。どこもかしこも、UFO、サイキック、ヒーリングという言葉であふれている。ようやく頭上に小さなカフェの看板を見つけ、階段を上がった。カフェはオープンテラスとなっているのだが、階段を上る前から、大きな男性の声が聞こえてきていた。

カフェの隅に、パラソルのついたテーブルがあった。そこに中年の女性と口ひげを生やした初老の男性が座っていた。女性の後ろには、数人の女性が並列して座っていた。順番待ちなんだろうか? テーブルにはカードが並べられていた。初老の男性は、大きな声で女性に何か指示をしていた。女性は真剣な顔をして頷いている。胸の中で期待に膨らんだ気持ちが一気にしぼむ音が聞こえた。

やめた。せっかく教えてもらった場所だったけど、私はあのおじさんに占ってもらうなんてまっぴら。もっと他の場所を探してみようっと。

私は階段を駆け下りて、小さな看板も見逃さない勢いで辺りを見回した。すると、すぐ目の前に明るい感じの小物ショップが目に入った。ドアの横に下げられている小さな看板は、『サイキックリーディング』と書かれていた。一見お土産屋さんのようなのに、占いなんてやってるのかな?

店内は外から見ても明るく、ドアは入りやすいように明けっぱなしだった。
店に入ると、エキゾチックなお香の香りが鼻をくすぐる。右手にはきれいな宝石の原石が並んでいて、ローズクォーツや水晶、タイガーズアイなど、『幸運を呼ぶ石』として有名な原石が目に入った。店の一角から女性の声が聞こえてきた。笑い声も聞こえてくる。どうやら、その一角が占いコーナーとなっているらしかった。15分ごとの料金が貼り出されている。

私は店員さんに、ここの占い師について質問してみることにした。私の呼びかけに振り向いた女性は、なんとも清楚な笑顔の美人だった。彼女は絶対にベジタリアンだ。ベジタリアンはなんともきれいな肌をしている。肌がきれいというわけではなくて、その下に流れる血がサラサラしているような感じがするのだ。力強さは感じないけれどね。逆に、油好きのヘビースモーカーは、よどんだ肌をしていて、いかにも血がドロドロという気がする。すごく生命力は感じるけれど。もっとも、まったくの私の偏見だから信憑性はない

「彼女はユーモアのあるとっても素敵な女性よ。誠実で親身になってあなたの悩みに応えてくれるわ」

なるほど。じゃあ、私も彼女に会ってみようかな。聞けば、あと10分も待てば彼女に会えるという。

「何分コースにしますか? 15分、30分、45分とありますよ。」

えー、そんなの彼女と会って話してみなくちゃわかんないよ。彼女に相談してみてから決めるんじゃダメ?

「もちろんいいですよ。彼女ならあなたと話すのにどれくらい時間がいるかわかると思うもの」

にっこりと笑う。なんだか雰囲気いーなー。何もかもがラブって感じに包まれているよ。それは、本当の愛ってわけではなくて、人間の汚い部分を見ることを拒否した、きれいな部分だけを見つめて幸福に浸っている者の持つそれに似ている。きれいなものばかりで世界が完成することはないと思うけれど、今はこの雰囲気に甘んじよう。

「次の方はあなた?」

店内を見ていると、実に小柄でぷっくりした女性が話し掛けてきた。にこにこ笑っていて、幸福感しかこの人からは感じない。

「そうね、30分って時間を決めておいて、もしも時間が延びたらその時考えましょうよ」

私は店員さんに、30分の料金を支払って、占い師と一緒に店の一角へ入っていった。

彼女の名前は、シェリア。少し白髪の混じった長い髪の毛は、くしゃくしゃに乱れていた。服装も、日本の占い師によく見られる豪華さやミステリアスな雰囲気とは無縁の、Tシャツとパンツ姿だ。牛乳瓶の底のようなメガネの奥には、にこにこと微笑んでいる小さな目があった。

「さぁ、あなたは何を悩んでいるのかしら?」

実は私には、ずっと頭を抱えている悩みがあった。悩みというよりも、それは自分への問い掛けだった。自分で自分に問い掛けているのに、自分では答えが出せなかった。ぐるぐる考えて、もう何がなんだかわからなくて、自分で何をどうしたらいいのか、まったく路頭に迷った状態まで自分を追い詰めていた。救いを求めようにも、自分で自分を救う以外、どこに救いがあるというの? これを機会にこの問いの答えを尋ねてみよう。答えじゃなくても、ヒントでもいい。答えを見つけるための知恵でもいい。今の私には誰かの助言が必要なんです。私には、なんの答えも出せません。

私の真剣な告白とは裏腹に、シェリアは大声で笑い始めた。

「なんて素敵なの! 私、こんな素敵な悩みを告白されたのは始めてよ! 素敵だわ!」

ひとしきり笑った後、彼女は真剣に私を見つめてこう言った。

「あなたはとても幸せな人よ。多くの人があなたの悩んでいるようなことを夢見るわ。あなたは、誰もがあなたをうらやむくらい幸せなのよ。いい?」

黙って頷いたが、私はちっとも幸せなんかじゃなかった。少なくとも、私には幸せなことではなかった。自分への問い掛けは、もはや私の心の重圧となっていた。でも、この重圧から逃げることは出来ない。この問いの答えが導く結果は自分で受け止めるしかない。痛いくらいにわかっているから、逃げ場がなかった。

「さぁ、手を私の掌の上にのせて」

言われたままにすると、おもむろに小さなカセットデッキに向かってボソボソとつぶやき始めた。

「今から、Noriko Onuki のサイキックリーディングを始めます」

彼女は自分の話をひとつのテープに記録しているのだった。なるほど、そしてそのテープを持ちかえって、聞きなおすことも出来るんだね。じゃあ、メモを取る必要はないか。

「今から私の精霊に呼びかけます」

彼女は目を閉じて、祈りを始めた。依然として私の両手を軽く握り締めていた。

しばらくすると、彼女は私のことを話し始めた。それはシェリアとはまったく違う人格がものをしゃべっているのではなくて、彼女自身が精霊の声に耳を傾け、それを彼女の言葉で話しているという感じだった。彼女はまず、私の性格について語り始めた。

私の性格は私が一番よく知っている。それは私の知りたいことじゃない。彼女はいったいなんのために私の性格などを語っているんだろう。

「でしょ?」

と聞かれても、私は当惑するばかりだった。彼女の言っていることは、ほとんど当たっていた。しかし、彼女は霊能者なのだ。当たって当たり前じゃないか? 私の当惑は彼女に伝わったようだった。彼女は言い訳をするように「これはただの確認作業なのよ」と答えた。ああ、なるほど。彼女の能力を信頼させるためのものなのか。私には無意味なのに。

彼女は何かを話すとき、必ずカセットデッキに向かって話していた。時折、彼女は自分のビジョンを確認するかのように目を閉じ、一瞬考え込む。彼女が録音をしている時、私が他人の名前をしゃべるのを静止した。証拠を残したくないという。なんとなく、そこに彼女の暗い過去を見たような気がした。勝手な憶測だけど、彼女はきっとデリケートな人間で、子供の頃はいじめられっこだったんじゃないかな。今も自分のやっていることに対して、斜めに見る存在を意識しながら仕事をしているのだ。ふむ。勘のいい人のそばにいると、私まで勘が鋭くなったような気がするな。頭の中が今までになく冴え冴えとしてるよ。え? 私の勝手な決めつけだって? うん、そうかもね。たぶんそう。

シェリアは、私の性質を調べるためにカードを引かせた。デイビットが川沿いでやった、あのカードに似ている。

カードを引くと、イーグル(鷲)の絵が出てきた。うん、白鳥よりもずっと私っぽいと思うぞ。シェリアは私のカードを見ると、くすくすと笑い始めた。ほんとに幸せな人だな。いつもウキウキしてるんだな。

「イーグルなんて、あなたにぴったしね!」

彼女は言った。うん、白鳥よりはマシだよね。

「イーグルは森の王様なのよ。いつだって高いところから森を守っているわ。高い位置にいると、すべてが見渡せるからよ。あなたは直感的に物事の全体を捉える能力を持っているの」

ほほぅ。私もそうありたいと願っているよ。

「...あなた、本当は今の悩みの回答を知っているんじゃない?」

それがわからないから、ここへ来ているんだよ。

「いいえ。あなたは知っているわ。今はわからなくても、いずれ知ることになるわ。ただ、それを行動するだけよ。ほら、この袋から木片をひとつ引いてみて」

麻布あさぬので出来た袋に手を入れると、柔らかい木片がいくつも入っているのがわかった。その中からひとつを取り出した。シェリアが裏返すと、そこには "Decide it! and do it!" と書かれていた。彼女は再びくすくす笑った。

「ほらね」

私は納得しなかった。答えが見つかっていれば、私は躊躇もしないさ。悩みもしないさ。「決断せよ!行動せよ!」と言われても、どうやって決断して、何を行動したらいいのかわからないよ。なんだか私は哀しくなってきてしまった。

シェリアは私を見つめた。私の瞳から何かを読み取ろうとしているのかな。

「私から見て、あなたはとても人とは違うの。特別な何かを持っているのよ」

今まで路上の占い師を含めて、ほとんどの占い師に言われた言葉だった。けれども、私には少しも特別な何かなんてなかった。幽霊も見たことがないし、宇宙人に連れ去られた経験もないし、未来が予知できるわけでもなかった。それどころか私はまったく勘が悪い。

「今、私はあなたについてのビジョンを持っているの。それをあなたに思念で伝えるから、受け取って。あなたならそれが出来るわ」

そう言って、私の両手を軽く握って、頭を垂れた。しばらく沈黙が続く。私の頭は混乱していて、ビジョンなど何も浮かんでこなかった。

「見えた?」

いいえ、何も見えません。何も伝わってきません。
シェリアはがっかりした表情を浮かべた。その後、深く深呼吸をすると、再び瞑想に入った。しばらくすると、彼女は自分のビジョンと感じたことを説明し始めた。彼女は私の人間関係について触れた。確かに彼女は何かを感じているようだった。しかし、なぜ彼女がそれを感じているのか、私には説明することが出来た。彼女は、時間的側面から私の人間関係を見ているのだ。知り合ってから期間が長い人を「深い絆を持っている人」と表現していた。しかし、それは私が解を見つけるヒントにはなり得なかった。(ちなみに、私は彼女に私の人間関係やそれぞれとの付き合いの期間などは説明していない)

彼女は一生懸命やってくれた。彼女が繰り返し言っていた言葉。それは「あなたは既にその答えを知っている」だった。ということは、私はやはり、助言なしで自分の答えを自分自身で見つけなくてはならないということだ。ああ、やっぱりそういうことなのか。

店を出るとき、彼女は私を抱きしめた。そして、「あなたはもうわかっている」と言う言葉を何度も繰り返した。

ありがとう、シェリア。本当に私がその答えを見つけたときは、ちゃんとお手紙で知らせるからね。一生懸命やってくれて、どうもありがとう。

外へ出た。低かった空はいつの間にかずいぶん高くなってしまっていた。西の空に浮かぶ雲が、金色に反射してまぶしかった。足元の自分の影が、通りの向こうまで伸びている。

さぁ、一晩眠ったら、再出発だ。
これから先、何が起ころうと私は決して何も見逃さない。きっと、すべてが私の問いへのヒントであろうから。

(つづく)


この日のことは今でもはっきりと覚えています。答えを求めていったのに「あなたはその答えを知っている」と100万回くらい言われたんですから。その後も私は何かと「答えは知っている」みたいなメッセージを目にしてました。

今考えると、本当にそうだったのだと思います。
ただ、決断するのが嫌だったのです。決断して行動することで見えてくる結果から逃げたかったのです。そのことで、私は人生の遠回りをすることになるのですが、それすらも織り込み済みだったように今では思えます。

本当に、人生は選択と結果の連続ですが、うまいことできてるなと思います。

さて、次回の旅日記でセドナを後にした私は、ニューメキシコ州に入ります。そこでの体験はいったいどんなものなのでしょうか。

気長にお付き合いください。

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