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GMOフィナンシャルゲート法務部が挑む「AI活用とガバナンス」戦略

こんにちは、株式会社コーポレートGPTの照山浩由です。

今回は、法務DXの最前線で活躍し、生成AIでも先駆的な取り組みを続けているGMOフィナンシャルゲート株式会社法務部長の西澤朋晃氏に、法務部におけるAI活用の展望についてお話を伺いました。

「AIを使う」から「AIを従える」というステージへ。

法務部がAIをどのように仕事の中に受け入れ、統制し、活用していくべきか。その実践と未来像について語っていただきます。

以前のnote記事で同社法務部の生成AI活用について紹介しておりますので、あわせてご覧ください。


法務部門のAI活用、その現状と課題

――現在、様々な部門でAI活用が進んでいますが、企業のコーポレート部門ではまだまだこれからのように感じます。法務部門でのAI活用の現状について、西澤さんはどのように見ていらっしゃいますか?

西澤:現状を率直に申し上げると、各社法務部でAIを組織的に活用している例はまだ極めて少ないのかなと感じます。個人レベルでChatGPTなどを試している段階で、当然のようにみんなの「仕事の仕方」にAIが組み込まれているというような、組織的な活用にまでは至っていないのではないでしょうか。その理由の一つは、「AIに何をさせるのか」という要件定義が明確に言語化できていないことにあると思います。

私は以前からチャットボット等の出口に向けて「DXやAIでナレッジ活用をスマートに行える形」を想い描いて準備を進めてきましたが、今後は次のステップとしてAIエージェントの活躍場面も見据えています。ただし、そこに至るまでには避けては通れない重要な準備(仕込み)があります。

AI活用の基盤作り:データベース構築の重要性

――その準備とは具体的にどのようなものでしょうか?

西澤:最も重要なのはデータベースの構築だと考えています。よく「AIを活用したい」という声を聞きますが、真の意味で役に立っている、と言えるレベルでAIを活用するには、まず読み込ませるデータが必要です。これは多くのケースで見落としがちなポイントだと思います。色んなAIツールがありますが、そのAIを支えている裏のデータベースは何か、という視点が、適材適所でAIを使いこなすコツなのだと考えてます。

現在、我々は法務関連の知見、対応事例やノウハウ、契約書、業務プレイブック集などのデータベース構築を進めています。これは地道な積み重ね仕事ですが、将来的なAI活用の基盤として不可欠なものであり、先を見据えて戦略的に進めていく必要があります。

解決したい課題や目的があってそれをクリアするために色んなツールを導入するのですが、「導入して工数削減したから完了」ということではないと思います。当該ツールを導入して実現していくことには段階があり、入口は工数削減や最適化かもしれませんが、その先にも目指すべきポイントがあり、いくつかステップを駆け上がって行くと、一見関係のないツール同士も、数年後には相互に関連性が深まる形で実は一体化していく、というイメージでしょうか。

AIの2つの活用方向性

また、既存の業務フローを細かく分析し、どの部分にAIを活用できるのかを検討することも重要です。私たちは契約審査業務を詳細に分析した結果、AIの活用には大きく2つの方向性があることが分かりました。

1つは「業務の効率化」。これは仕事の時間や仕事にかかる工数を削減する部分です。もう1つは「業務の高度化」。これは業務の質を向上させ、より高度なクオリティを仕事に付加していく部分です。

これらは二者択一ではないですし、両方の側面を有するツールももちろんありますが、この2つの軸で考えることで、より業務にフィットした効果的なAI活用が可能となり、普段の法務業務に取り入れられるようになると思います。

真の意味で、業務が効率化・高度化するAI活用法であれば、「たまに使うこともあります(でも別に使わなくても大差ないです or 本当は自分でやった方が早いです)」というレベルではなく、「むしろその業務工程には必ず使うのが普通です」というレベルまで『仕事の仕方』自体が発展していくのではないでしょうか。AIを使った仕事の仕方が、『常識』となる瞬間であり『再構築』されるときですね。

実践的なAIツールの活用事例

――具体的にはどのようなツールをどう活用されているのでしょうか?

西澤:例えば、リサーチ業務ではまずリーガルスケープを活用します。「これスケープかけた?」という用語が飛び交います(笑)。従来のGoogle検索でとりあえず結論や調査対象のあたりをつけてみるというネット検索レベルの工程が、リーガルスケープによって専門的な法律書(エビデンス)が揃っているデータベースを活用できるようになり、あたりをつけるという工程の確度が飛躍的に向上し、リサーチ業務が高度化&効率化しています。

重要なのは、単に検索するだけでなく、どこでどう調べてその判断に至ったのかというエビデンスを残すプロセスを確立できたことです。AIに読み込ませている「データベース」あってのサービスです。

当然ダブルチェックや決裁者にも同じエビデンスを示せるようになりますので、法情報調査担当者の「思考過程」も後追いできる、ということになります。後追いできるということは、どこがどう違って認識相違になったのか若しくは評価が異なったのか、分析して振り返りも可能ということです。二次的効果としてPDCAのCのクオリティが格段に上がります。

各ツールの具体的な活用に至るまでの過程

西澤:どこの工程で、何のAIツールで、どういう目的で、どんな意図をもって、何をさせたいのか、を事細かく業務を分解して各々行為ごとに検討します。AIがはまるもの、AIが上手く機能しないところ、RPAがフィットするところ、他のツールがフィットところ、人が考えた方がよいところ等、それぞれの工程で最適解を分類可能だと思います。果てしない工程ではありますが、思考プロセスを言語化できればこれは実現できます。必要なのはこの過程に向き合う勢いと根気だけです(笑)。

「AIを従える法務部」という考え方

――「AIを従える法務部」というフレーズがとても斬新でした。この考え方について詳しく教えていただけますか?

西澤:これは非常に面白い考え方かなと。世の中には「AIツールを使ってみました」という活用事例は数多くあると思いますが、「それ本当か?」という突っ込みを入れたくなるのは法務のサガですよね。

我々が目指しているのは、「AIをどこでどう使うか適切にコントロール(統制)し、法務部門の業務の在り方をも本質的に進化させること」です。そのためには、単に「使う」のではなく「従える」という表現の方が適切だなという意図を込めてこのフレーズが思いつきました。

照山さんとよく議論させていただくことですが、AIをガバナンスする部門として法務がリスクマネジメントの視点を持つことはとても重要だと思います。なぜなら、法務部門は組織におけるリスク管理の要であり、AIの利用にも一定の枠組み・ルール化が必要だからです。「従える」という表現は少し強いかもしれませんが、AIはあくまでもツールであり、それを適切にコントロールする主体は我々人間であるという認識が根底にあることが重要だと思います。

そして、企業の中でそれを実践できるのは、ルールや仕組みを作る側である我々法務が一番最適だと言えると嬉しいですね。ひとまず静観、ではなく、最適解はどこにあるのかと道を切り開いてこそ先駆的な法務組織になれるのかなと考えています。

こういう過程は、その当時は大変さが占める割合が多いのかもしれませんが、ワクワクする好奇心とアドレナリンで乗り越えると、結果的にすごく楽しかった時期、と記憶の中では位置づけられるものですよね。

法務DXの未来像:ナレッジベースのAI活用へ

――西澤さんは以前から野心的な取り組みを続けられていますが、今後の展望についてお聞かせください。

西澤:詳細はまだ内緒です(笑)。もともとは、ナレッジを自在に引き出す形で利用できるようなデータベースを創ろうと思っていて、これは実はDXの文脈で2020年から準備を進めていたことでした。このデータベースの構築・整備から始めて、DXによる抜群の検索性を確保しようという目論見が、AI時代に入るとともに、DXを通じて、段階的にAI活用の構想になり、結果的にAI活用の文脈でも役立つ資産になっていくだろうと思っていました。今思えば、5年前の当時見据えていた方向性にそんなに誤りはなかったかなと。

データベース構築の重要性

特に重要なのは、データベースの質と量の両方を確保することです。これは一朝一夕にはいかない取り組みで、データベースが大きければ大きいほど、構築には時間がかかります。しかし、この基盤を構築して初めて、真の意味でのAI活用が可能になるのです。

将来のビジョン

将来的には、チャットボットやAIエージェントが法務部門の業務を支援する世界が到来すると考えています。いわゆる出口のレベルが格段と上がるわけです。その出口から出す中身を、現在人の頭にしかない知見や、属人化しているノウハウを、いかに整理整頓しておけるか、が適応スピードに影響すると思っています。出口ができてしまったときに重要なのは、AIに何を読み込ませるかという入口地点の「インプットの質」です。だからこそ、今からデータベースの構築とナレッジの蓄積を進める必要があると思っています。

これからの法務部門に求められること

――最後に、これから法務部門でのAI活用を検討している方々へメッセージをお願いできますでしょうか?

西澤:法務部門におけるAI活用は、確かにまだ始まったばかりです。しかし、ただAIツールを導入すればいいというものではありません。これはDXの文脈でも指摘されていたことですね。重要なのは、しっかりとした基盤創りと、AIを適切に統制する視点を持つことです。

特に強調したいのは、まずは自分たちの業務を細かく分析し、どこにAIを活用できる可能性があるのかを見極めることです。これはAIについて無知だとできません。その上で、必要なデータベースの構築を進めていく。この地道な作業が、将来的な成功の鍵となると思っています。

法務部門は、単なるAIの利用者ではなく、AIを適切に統制し活用していく主体となるべきだと思っています。そのためには、法務の専門性とテクノロジーの理解の両方が必要になります。これからの法務部門に求められるのは、AIを従えながら、より高度な法務サービス(付加価値)を提供していく力になるのではないでしょうか。

幸いなことに、当社の法務部のメンバーは、入社前からかなりの熱量で語り尽くしてきたこともあり、私の考えをしっかり受け止めてくれて、先駆的な新しい法務部門の在り方を積極的に推進してくれています。

照山さんにご指導いただいたAIトレーニングについても、唸りながら仕事と思考プロセスに向き合い、最適解を模索しながら業務に積極的に取り入れていこうとする姿勢はとても頼もしかったです。まだまだ私の期待値には届いていませんので、これからも自らをビシバシと鍛え続けて欲しいと願っています(笑)。

最後になりますが、AI×法務の辺りを最先端で突っ走って行く予定なので、ぜひコーポレートGPTさんに引き続きご支援をいただけると嬉しいです。

――本日は、ありがとうございました。

法務部メンバーからの一言

GMOフィナンシャルゲート株式会社法務部の皆さんから熱意溢れるコメントをいただきましたので、こちらに掲載いたします。

【中島 聖也さん】:
契約審査をAIに依頼するにあたり、依頼内容の具体性や細分化を意識するだけでは限界があって、その目的や背景を伝えることの重要性を強く実感しました。 「有利に条項を修正してほしい」と端的な説明に終始するだけでは、成果物のイメージが一致しないことが目の前で起こりましたし、「条項を修正する」という1つの行為に着目しても、目的が多岐にわたります。

例えば、ヒアリングした案件の実態を反映するためなのか、本案件での特殊事情を反映するためなのか、ひな形や契約類型一般で求められる条件に合わせるためなのか、法律に照らして公平性を確保するためなのか、文言を明確にするためなのか、誤字脱字を直すためなのか、その目的は複数存在しています。その目的が正確に伝わらなければ、受け手としては、「有利って何のことだろう?」となりかねないのだ、ということに検証してみて気付きました。

契約法務という業務領域やAIとのコミュニケーションに限らず、特にスピード感が求められる現場で成果物のイメージを一致させながら進めるには、当事者間で目的意識を共有する必要性がかなり高いものだと感じました。改めて、常に目的を意識して仕事ができる人材に成長していきたいと思いました。

【鈴木 遼さん】:
コーポレートGPT照山さんと法務メンバーでAIトレーニングを行わせていただきましたが、正直「大変だったな」というのが率直な感想でした。AIトレーニングでは、契約審査工程を70項目以上に細分化したリスト(西澤部長にて作成)という土台がある状態でスタートしたのですが、当該工程にAIを利用するべきなのか、利用するとしてどのようなアプローチで利用するのかを超具体的に考えるのが予想以上に難しかったです。

というのは、AIを活用するべきかという検討には、まず自分たちの業務を理解して、その意味合い・重みを再確認するといった各工程の再定義が必要なのですが(これも気付きです)、法務メンバー間でもそれについての捉え方が微妙にズレていて、まずその目線をクリアにする必要があったためです。メンバーで業務の合間を縫って検討を重ね、適切なアプローチを探って試行錯誤して徐々に形にしていきました。

とはいえ、結果的には大変さよりも、やはり「最先端のことをやっている」という感覚が楽しかった、という感想の方が強いです。生成AIに対して、業務工程ごとに色々なパターン(オープンクエスチョン・クローズドクエスチョンどちらがよいか、具体例をどの程度与えるか等)を試してみて、自分たちが意図したような回答を導けるプロンプトにたどり着いた時の達成感は、未開の領域でこそ味わえるものだったと思います。

また、リスクアセスメントの考え方を取り入れてみたり、法務ならではの知見を活かした創意工夫を加えて検討するのは非常に楽しかったです。AIを駆使した業務効率化、といったフレーズを耳にするようになりましたが、AI活用の真価は、「人にしかできない創造的な仕事を、メンバーそれぞれの個性や強みを存分に活かしつつ全うする」ということにあると思います。まだ道半ばですが、チーム一丸となってこれからもワクワクしながら試行錯誤していきたいと思います。

【溜 翔貴さん】:
生成AIの活用というと、普段の業務の中で知らない言葉が出てきたときなどに、ChatGPTに「●●って何?」と聞いてなんとなく使うだけでした(まさにグーグル検索の代わりです)。また、初めて契約審査工程を検討しましたが、私の考えたプロンプトは「この契約の条項は自社にとってリスクがあるか」など、漠然としたものでした。

今回のトレーニングで一緒に考えて、各工程の意図を推察して、なぜここでやるのかを分析していくにつれて、当初のような抽象的な質問で終わらせず、どんなケースでどんな目的でこのタイミングで何を聞きたいのか、を明確に言語化することが必要なのだと気づかされました。

試行錯誤した結果、自分の中でもある程度ルールができました。例えば、「●●を素人にもわかるように教えて」とまず条件を付けつつ概要を聞き、その上でさらに知りたい部分について一問一答形式で問答していくという使い方に変わりました。

また、契約書審査工程では、まだ自分がどの条項が法的に有利か不利かを一瞬で判断できるレベルではないので、ChatGPTに一般論として法的な有利不利をとりあえず聞いてみてあたりをつけてから、具体的事例で本当にそれが妥当するのかを考えるきっかけにも使っています。

日々の仕事を通じて、何をどんな目的で行っている工程なのかを言語化できるようにしたいですし、AIに何をさせたいのかを明確に自分で定義できるまで使いこなして、AI×法務人材へと成長して飛躍したいと思います。

【本間 星さん】:
私は転職してすぐに、今回のコーポレートGPTのAIトレーニングに参加いたしました。今回のトレーニングを通じての私自身の一番の気づきは、AI活用への取り組みは、業務の効率化・高度化につながることはもちろんですが、その検証・思考・議論過程自体も日常業務の効率化及び高度化につながる重要で魅力的なものであるということです。

AIトレーニングでは、AI活用の前提である業務フローを言語化して分析し、AI活用できると判断した工程については具体的なプロンプトを考えていったのですが、特に業務フローを言語化して分析したうえで、どこでAI活用するのが最適かを判断する過程でそのように感じました。

まず、業務フローを言語化して分析する過程で、西澤部長が作成した契約審査工程と、自身の今までの契約書審査方法を比較する必要がありました。実際に取り組んでみると、自身の今までの方法がOJTを通じてなんとなく形になった自己流契約書審査方法でしかないため、体系立てられていないどころか言語化もできておらず、そもそもの比較対象が自分の中にないに等しい状況で愕然とし、自身の今までの穴だらけの契約書審査方法を見直すきっかけになりました。

また、当該工程をAI活用するかを考える段階でも、安易にAIを使おうと考えてしまい、本当にAIを使う意味があるのか又は使える工程なのかという意味で、当該工程の位置づけや重みを理解できていないと再認識させられることもありました。

弊社法務部が目指す「AIを従える法務部」への道のりは、契約ポリシー、契約データベースの設計構築、AIが適切な業務工程でのプロンプト集の作成等、まだまだステップアップしていく必要があります。もちろん、ステップアップすることで、仕事の仕方も高質化・高度化することも魅力的ですが、私は目先の利益にも目がいってしまうタチなので、研鑽している過程で自身の改善点が発見できることにもっとも魅力を感じており、その意味でもプロセス自体を楽しみながら、これからも積極的にAIを仕事に取り込んでいこうと思っています。

GMOフィナンシャルゲート株式会社 法務部の皆さん
法務部長 西澤朋晃さんを中心に
溜翔貴さん、中島聖也さん、鈴木遼さん、本間 星さん

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