電子書籍における複雑な印税の仕組みを分かりやすく解説してみる
先週、電子書籍コミックス周りのニュースがポンポンと流れてきました。
猪狩そよ子さんの投稿は、その下のCOMPASSという漫画のプロデュース&エージェント会社COMPASSの紹介ですね。
マンガ図書館Zは言わずとしれた漫画家の赤松健さんが運営するWebサービスですが、自社サービスへの漫画配信だけでなく、このタイミングで配信代行事業を始めたとのこと。
COMPASSについては、元白泉社の花とゆめ編集長だった石原さんが独立・立ち上げた会社です。こちらの会社では、漫画家さんのエージェント(作品作り含め)をやりつつ電子書籍の配信代行(デジタル出版代行)まで行うという、ワンストップでサービス提供を目指しているようです。
元講談社・デザート編集長だった鈴木重毅さんが独立して立ち上げたスピカワークスしかり、歴戦の編集者が独立して新たなキャリアを歩むことそれ自体が漫画業界にさらなる変革をもたらしてくれるのではないかと大いに期待してしまいますね。
それぞれ出自や細かい事業内容は違えど、デジタル時代の漫画業界のあり方についてしっかり向き合い、これから漫画家が漫画で生計を立てるためにどうすべきかを考えているという点は、みな同じなのではないでしょうか。すごくいいことだと思います。
漫画業界の今後の発展を考えると、こうした動きはもっと活発になってほしいです。同業が増えることで競争原理が働き、サービスの健全化が促進され、漫画家にとってより良いサービスになるからです。
では、漫画家は電子書籍配信代行のサービスを利用する時にどこを見て選べばよいかについて見ていきたいと思います。
漫画家が電子書籍配信代行サービスを利用する時に見るべき4つのポイント
この話をする前に、僕自身の立場とこのnoteにおけるスタンスについて表明したいと思います。
僕が役員を務める会社、ナンバーナインでは1年前から電子書籍コミックスの配信代行サービスを展開しています。
本来であればうちのサービスが一番いいよ!と言いたいところです(素直にそう思っています)が、この「令和時代の漫画家たちはどう生きるか」というマガジンのスタンスとしては、できるだけバイアスなく、漫画家の皆さんに正しい知識を身に着けて、自分の目で良し悪しを判断できるようになってもらいたいというのが本音です。
加えて、自分の知っている情報、事実をベースに書く。憶測や想像で書かない、ということも心掛けています。なので、「お前の記事間違ってんで」とか「めちゃくちゃバイアスあるやんけ」とかそういった事があればぜひお知らせください。
さて、ここからが本題です。結論から言うと、漫画家が電子書籍配信代行を利用する際に見るべきポイントは、「電子書籍の品質」と「配信ストア数」と「プロモーション」と「還元料率」の4つです。
最初の3つはシンプルで、「電子書籍の品質」は「電子書籍化したデータの綺麗さ」で比較でき、「配信ストア数」は「配信可能なストアの数」で比較でき、「プロモーション」は「どれくらいの頻度でセールやキャンペーンをするか」で比較できます。品質は世に出ている漫画データを見れば分かるし、配信ストア数は公表している会社が多いので、それを参考にします。プロモーションはちょっと難しいですが、各社の公式アカウントを見てみたりすると発信頻度などで分かることもありますね。
また、少し複雑なのが、最後の還元料率の部分です。電子書籍はひたすらにややこしい。そこで今回は、漫画家が電子書籍配信代行サービスを利用する時に気になるであろう、「還元料率」について少し解説してみたいと思います。
複雑化する電子書籍の還元料率(≒印税)
電子書籍の世界では料率と言われることが多いですが、紙の本でいうところの印税ですね。販売していたのが紙だけだった時代は、発行部数×単価×印税率(10%前後)の計算式のみで算出されていましたが、電子書籍ではそう簡単にいきません。なぜなら、電子書籍ストアのビジネスモデルが復数存在するからです。最近では出版社さんの電子書籍の料率については、「版元に入金された金額の25%」とかそういう計算式が主流のようですね。要するに販売価格に対して10%前後、という感じです。
今の電子書籍ストアのビジネスモデルは大きく分けて4つくらいでしょうか。
1. 巻売り
2. 話売り(待てばタダ)
3, サブスクリプション
4, 広告配信
1は紙の単行本と同じなので説明も不要ですね。2は、一話ごとに課金する仕組みで、ピッコマさんが始めた業界的には新しいビジネスモデルです。3はKindle Unlimitedのような月額定額で対象作品が読み放題のサービス。4は読者は無料で読めるが、作家には広告料として収益が還元される仕組みです。
これに加え、電子書籍の世界では○巻無料や○%割引キャンペーンを定期的に行うことで売上の最大化を実現するため、「合計販売(発行)部数」という考え方自体がもはや意味をなしていないというのが現状です。
このように、ビジネスモデルが多様化することによって、発行部数単位で分配されていた「印税」という概念も再定義が必要になり、登場したのが還元料率という考え方ではないかと思っています。そもそも、印税という言葉自体が「もとは著作権使用料と引き換えた著者検印紙を書籍に貼り付けて販売したもので、その態様から印紙税になぞらえて印税と呼ばれるようになった(Wikipedia参照)」とのことですし、定義が違いますね。
結局の所、一冊売れたらいくら還元されるのか
作家に還元する料率が何%なのか。これについては各社考え方が違うと思うので、今回はナンバーナインを例に説明してみます。
ナンバーナインの作家さんに還元する料率については、「ストア売上に対する料率」と、「会社への入金額に対する料率」の二つの考え方があります。そのため、一口に「還元料率○○%」と言っても、「何に対しての料率か」によって漫画家に還元される金額は変ります。
ナンバーナインでは、Amazonでの売上に対する還元料率は最大30%とし、その他ストアに対しては弊社入金額に対する還元料率が最大80%としています。「最大○%」としているのは、1年間のサービス提供を行った結果として、電子書籍化に必要な作業工程の有無によって、料率を調整させていただいているから(詳細を説明すると長くなっちゃうので、個別にお問い合わせください)。電子書籍化って、意外と大変なんですよ。だから、僕たちは宮崎県日南市にデジタル漫画ラボという制作チームを独自に立ち上げたりもしています。
ちなみに、料率をオープンにしている会社は意外と少なくて、弊社と電書バトさんくらいでしょうか?みんなもっとオープンにしたらいいのに。
先程の最大料率について、具体的に計算してみましょう。例えば500円の電子書籍がAmazonで1冊売れたとしたら、売上の30%=150円が作家さんに還元されます。非常に分かりやすいですね。
※ちなみに、Kindle Unlimitedに関しては「どれだけ読まれたか」や「ページあたりの金額」や「分配するための原資」などについては完全にブラックボックスのため、「毎月○万円入金された」という情報しか弊社には入ってきません
一方で、同じ電子書籍がその他のストアで1冊売れたとしたら、500円からストア、取次、そしてアプリの場合はAppleやGoogleの上代(売上の30%)にマージンを抜かれます。諸々のマージンを抜かれてナンバーナインに入金される金額から最大80%ということになるので、例えば弊社入金額が販売価格の40%=200円だった場合、そのうちの80%=160円(売上の32%)が作家さんに還元される計算になります。
話売りや広告配信については、多くのストアは「今月は○万円くらいの収益です」と一括で提示されるため、その月のナンバーナイン入金額のうちの80%を漫画家に還元しています。この弊社入金額のパーセンテージが、ストアや取次によって微妙に異なってくるため、一律で「弊社入金額から80%を還元します」ということにしているのです。
雑にまとめると、ナンバーナインに漫画を預けた場合、印税換算で最大30%近くが漫画家の収益になりますね。これくらいのイメージで理解してもらっていれば問題ないと思います。ここで、「出版社は10%しか印税くれないのにやべーな!!!」という方もいらっしゃるかもしれませんが、出版社は一つの作品を作るのに、膨大な時間と人とお金をつぎ込んでいることは忘れてはいけません。
最近はSNSで叩かれることも少なくない出版社ですが、やはり0→1でオリジナルコンテンツを作る作業って、本当に大変なのです(だからといって漫画家に横柄な態度をとったり、理不尽な圧力をかける理由にはならないのですが)。逆に、配信代行サービスを提供する会社は既にあるコンテンツに対して原稿料を支払うことがないため、高い印税率で還元することができる。ただそれだけのことです。
最後に
慣れないお金の話に混乱してきた方もいらっしゃるかもしれません。僕もテキストで書いてみて改めて「複雑やなー」と思いました。分かりやすく解説する、といっておきながら分かりづらかったらすみません。
配信可否についてはストアが決定権を持つためすべての作品がすべてのストアに配信できているわけではありませんが(これはどの配信代行サービスも同じ)、弊社が扱っているストアは、170以上(2019年7月時点)あります。すべてのストアの売上詳細を漫画家さんが把握しようとするのは流石に無理があるだろうなぁと思ったりもしますし、だいたい分かっていれば十分だとも思っています。(加えて、細かい分配比率については弊社の都合で勝手に開示できません)
おさらいをします。僕が漫画家で、未電子化作品をどこかの会社にお願いする場合は、「電子書籍の品質」と「配信ストア数」と「プロモーション」と「還元料率」の4つの観点で会社を選びます。そして、このうち重要なのは「還元料率」です。各社様々な料率で提供しているので、ぜひ比較してみてください。
また、個人的には「還元料率」よりも重要だと思っているものが一つあるのですが、ここから先は、電子書籍配信代行サービスを一年間提供してきて感じていることを書くので、有料とさせていただきます。ここまでの情報だけでもかなり有益だと思うので、その先については興味がある方だけ覗いてみてください。
そして最後に、僕はTwitterもやっているのでよろしればフォローしていただけると嬉しいです。
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