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縁日、というからにはナニかしらご縁があるものなんですかね?

いらっしゃい

また来てくれたんだね

今日も怖いお話が聞きたいの?

そうだね じゃあこんな話はどうかな?

友達のあまめちゃんから聞いた話


テキ屋というのをご存じだろうか?

お祭りや縁日で屋台を出す商売人のことだ。

よくヤクザがやっていると思われがちだが、専門の香具師(やし)と呼ばれる人達がほとんどで、俺のようにアルバイトでやってるやつもいたりする。

飲食の露店をジンバイ(人売)、似顔絵とか占いとかはコロビ、金魚すくいや風鈴売りはアカタン、くじ引きはアテモノ、大道芸とかは興行なんて専門用語があったりする。

俺はジンバイ専門で、アルバイトは日給1万円ぐらい。不定期だけど、何回かやると自然と声がかかるようになる。

顔なじみにもなってくると日給も上がるし、売り上げによってはボーナスも出たり、昼食付で交通費支給、たばこ代なんかもでたりする。

楽しくて稼げるバイトだった。

ちなみに祭りと縁日って何が違うか知ってる人はあまり少ないと思うけど、縁日は神社やお寺で行われる神仏関係のイベントで、代表的なので言えば浅草寺のほおずき市とか。

お祭りは豊作祈願とか収穫祭なんかで地域の夏祭りなんかはこっちにはいる。

今日はその中でも印象的だったM寺の縁日で体験した話をしたいと思う。


M寺は有名な武将をお祀りしている寺で、夏に大きな縁日がある。

俺もそこにたい焼き屋として出店していた。

M寺の縁日に参加するのは当時三度目で、他の露店とも顔なじみになっていた俺は、準備を終えると周りの香具師(やし)に挨拶をして回った。

意外かもしれないが、実は露店は横のつながりが強く、競争相手や客の取り合いなんてことはあまりない。(そもそも同じ商売が近くにならないように店割している)

トイレ行くときには店番をお願いしたりもするので、人間関係を疎かにはできないのだ。

そのなかに前回、このM寺の縁日で仲良くなった一人の老人がいた。

70代くらい、名前は知らないけど皆おいちゃんと呼んでいた。

おいちゃんは左手の指が親指以外ない。

その手で上手にへらを挟んで焼きそばを作っている。

何度かごちそうになったがおいちゃんの作る焼きそばは、まじでうまい。

午前中は人もまばらなので、左手の不自由なおいちゃんの店の設営を手伝いながら話をしているとこんなことを言い出した。

「ここには神様の使いが来るから気をつけろよ」

神様の使い?と聞くと、まあ座れやと言い、たばこをふかしながらこんな話をしてくれた。


おいちゃんがまだ若かったころ、このM寺の縁日でやきそばの露店を出していた。

その日は気温も高く、ビールによく合うおいちゃんの焼きそばが飛ぶように売れた。

夕方になりそろそろ畳もうかとしていると、十数メートル離れた境内入口の山門からこちらをじっと見てくる子供がいる。

がりがりにやせ細り、白いランニングにベージュの汚れた半ズボンを履いている。

こちらを見る目がぎょろぎょろと異様に大きく感じた。

変な子がいるなと、少し視線を外すとすぐ横で「なあ」と声をかけられた。目をやるとすぐ横にその子が来ている。

びっくりして悲鳴が出そうになったが、うまく呑み込んで「ど、どうした坊主」と答えた。

「これうまいのか?」屋台の看板を見ながらそう聞かれた。

しかし、この日は材料を使い切り、自分の夕飯用につつんだ分しか残ってなかった。

「坊主、ごめんな。もう売り切れで残ってないんだ。」おいちゃんはそう言ったが、その子供は構うことなく「半分くれんか?」と言ってきた。

「半分も何ももうないんだよ。ごめんな。」 そういうが、その子供は何度も「半分くれんか?」と聞いてくる。

おいちゃんも疲れていたし、早く帰って晩酌を始めたいと思っていたので少し強めに「半分半分うっせえわ。早く帰れ!!」と怒鳴った。

その子は「じゃあ、いいや。半分もらうから」といいまた山門のほうに消えて行ってしまった。

へんなガキだなと思っていたが、その直後、おいちゃんはトラックに荷物を積み込む際、滑り落ちてきた鉄板に左手を挟まれ指を4本失ってしまったそうだ。

おいちゃんはその出来事を神様の祟りだと思ったらしい。

それはおいちゃんが子供に怒鳴ってた時、周りの人間にその子が見えていなかったとあとから聞いたからだ。

おいちゃんはその時、取っておいた自分の焼きそばをあげなかったことを後悔したそうだ。

見るからにみすぼらしかったあの恰好から察するに、よほど神様の使いは飢えていたのではないか。

それ以来、このM寺で縁日があるときは焼きそばを必ずお供えするようになったそうだ。

俺はそれを聞いて、「確かに。祟りとか怖いですよね。」と言ったが、おいちゃんは「違うよ」と答えた。

「だってよ。半分持ってくって言って親指は残してくれたんだぜ?この指一本残ったおかげで露天続けてこれたんだ。神様には感謝だよ。ありがてぇ話じゃないか。俺は年取ったしあと何年もできねぇ。そん時はお前んとこのたい焼き供えてくれよ。」 おいちゃんは笑いながら言った。 そんなポジティブなおいちゃんが俺は大好きだった。

それから数年。 定職に就いた俺はしばらくこのバイトから遠ざかっていたが、なじみの香具師から、どうしても手が足りないらしく翌週にあるM寺の縁日のヘルプができないか、と電話がかかってきた。

おいちゃんにも会いたかったし、やってもいいかなと言うと

「おいちゃん?去年死んじゃったよ。片付けのトラックに半身つぶされて。」


どうだった?

あ 今日は近くの神社で縁日らしいよ

行くなら気を付けて

それじゃまた

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