井登友一(YuichiInobori)

デザイン実務家/研究者。演奏家。美しいもの、品のよいこと、そして慎み深い所作を愛する者…

井登友一(YuichiInobori)

デザイン実務家/研究者。演奏家。美しいもの、品のよいこと、そして慎み深い所作を愛する者。いろいろなことを解釈し、意味を見出し、カタチにすることが仕事です。 イノベーションとエステティクスを主題にした博士論文で学位取得しました。博士(経営科学)

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「知る」ために「離れる」:探索的なリサーチのための視点

新しい「価値」を探索するリサーチ活動 サービスデザインやUXデザインを行う上で、デザイン思考のダブルダイアモンド・モデルのスタート地点(※注)である「探索(Discover)」ステップにあたるリサーチを起点に進めていく場合が少なくないでしょう。 いわゆるユーザー中心リサーチや、UXリサーチ、昨今ではデザインリサーチと呼ばれるような探索活動がそれにあたります。 (※注:便宜上「スタート地点」と表現しましたが、デザイン思考を体系的に提唱している英国デザイン協議会や、世界的に著

    • D.A.ノーマンの近著から考える「人間中心デザイン」から「人間”性”中心デザイン」へのモード転換

      D.A.ノーマンの近著『より良い世界のためのデザインー意味、持続可能性、人間性中心』 昨年10月に、ドナルド・A・ノーマンによる近著"Design for a Better World-Meaningful, Sustainable, Humanity Centered."(MIT Press, 2023)の和訳書『より良い世界のためのデザインー意味、持続可能性、人間性中心』(新曜社、2023年)が出版されました。 「人間中心デザイン」という概念の提唱者でもあるノーマンは

      • CXデザインのための横断チーム『CCXOコレクティブ』をつくる

        近年、顧客体験(CX=Customer eXperience)が企業活動において重要視され、その理想像を実現するための戦略が求められています。 けれども、どのような業種・業態の企業にとっても共通かつ重要な問いである、「自社の重要な顧客が誰か?」「顧客体験の理想像はどのようなものであるべきか?」についての明確な答えを見つけることは簡単なことではありません。 このような難易度の高い、包括的CXデザインを実現するために求められる存在が、CXデザインを統括するマネジメント人材である

        • [UX小話]サイゼリヤの新オーダーシステムの話

          あたしは自他ともに認めるサイゼリヤエンスージアストなんですが、昨夕、出先でWiFiが使いたくなって近くにあったサイゼリヤに立ち寄った際、なんとオーダーシステムが顧客自身のスマホを使ったセルフオーダーシステムに変わっていました。 (店員さんにお聞きしたところ、現時点では全国で数店舗だけの試験導入段階とのこと) あたしが体験したオーダー手順は以下のとおりです。 1.席に設置してある電子棚札(※)に表示された席番ごとのQRコードをスマホで読み取る ※電子棚札:スーパーにあるよう

        「知る」ために「離れる」:探索的なリサーチのための視点

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        記事

          創造性は組織の至る所に存在する

          ドイツの社会学者であり文化理論家のAndreas Reckwitzというひとは、著書 ”The Invention of Creativity”で だと言っています。 ここで言うエステティクスとは感性や感覚のことを指していて、必ずしも表面的・視覚的な美しさを意味しません。エステティクス概念の源流にはカントなどの西洋哲学があるのですが、かなりざっくり説明すると、既存の合理性や意味体制を疑って一旦棚上げし(中断とも言います)新しい意味を問い直す、純粋に感性・感覚的な行為とでも

          創造性は組織の至る所に存在する

          「デザインにおける倫理」について考える

          いわゆる「デザインの倫理」についてのトンキンワイズ先生の論考というかエッセイ。 デザインの倫理ついては以前から行動経済学的なものを悪用?したUXデザインのダークパターンに関する議論などが盛り上がりを見せているけれども、このエッセイはさらに数歩踏み込んでいて、とても興味深いです。 UXデザインのダークパターンについては、デザインを悪用してユーザーや関与者に不利益を与えることだけでなく、不利益を与える可能性に気づかないことや、意図せず無意識に不利益を誘引することすらも企業が配

          「デザインにおける倫理」について考える

          DtRとRtDの差異私感

          DtR(Design thorough Research)と、RtD(Research through Design)は混同されがちだけど、 前者は リサーチ活動によって「何がどうあるべきか」という実践目的そのものを見出すこと。 後者は 人工物との相互行為を通して疑問を生成し、実践に先立ち「なにを知るべきか」を見出すこと。 つまり、前者と後者はともに実践を重要視していつつも、起点とする実践の役割と意味が異なる。とか。 ※ここでいう「デザイン」はSimon(1996/

          DtRとRtDの差異私感

          闘争としての多様性 (Diversity as Struggle)

          自身も時折愛用しているスープストックトーキョーを取り巻く一連の炎上騒動について、同社が騒動から少し時間を置いて表明した下記の声明がニュースメディアやSNSを中心に大変ポジティブな反響を得ています。 あたしも世間の評価に異論はないし、このよう経営姿勢は大好きです。 他方で、この企業の本声明の本意は、自分たちの顧客としてふさわしい人たちは、どのようなエステティクス(美学=感性論)をもったひとだ、ということを明確に宣言したんだ、とも感じました。 つまり、何が言いたいかというと。

          闘争としての多様性 (Diversity as Struggle)

          「N=1発想」について考える

          先日、敬愛する木村石鹸工業株式会社の木村さんのツイートに(勝手に)とても共感というか、インスパイアされた点を感じたので脊髄反射的に反応して、考えが未だまとまらないうちに下記のようなツイートをしてしまいました。 木村さんのツイートは、作家の高橋源一郎さんが『さようなら、ギャングたち』という作品を書かれた際に、同じく作家の吉本隆明さんたったひとりに向けて書いたというもので、そのことにシビレたわけなんですが、同時にふと、この「たったひとりのために」というフレーズが、昨今マーケティ

          「N=1発想」について考える

          「デザイン思考」って、何のことを言うてはりますのん?

          この記事、すごく良記事だと思いました。皮肉です。 https://www.technologyreview.com/2023/02/09/1067821/design-thinking-retrospective-what-went-wrong/ なぜかというと、「デザイン思考(design thinking)」が、いかにIDEOとd.schoolが色々な事情を加味して手法論化した「創造的問題解決手法としてのデザイン思考(design thinking as creati

          「デザイン思考」って、何のことを言うてはりますのん?

          自己破壊としての学習

          ※本文章は、2023年1月末日にHCD-Net会員向けニュースレターに寄稿したHCDコラムの転載です。 個人的なことで恐縮ですが、3年前から大学院の博士後期課程に身を置いて研究のマネごとのようなことをしています。訳のわからない研究テーマを手探りで研究することはとても苦しい反面、矛盾するようですがこの上なく楽しいものでもあります。 ところが、自分が興味を感じているテーマについて勉強すればするほど、以前ほどそのテーマについて純粋に「面白い」と思えなくなってきている自分に気づく

          自己破壊としての学習

          デザイン思考再考−「共感」から「コミットメント」へ−

          連休の間、時間ができたばかりに普段は考えないような余計なことばかり考えてしまいます。 個人的なこだわりではありますが、デザイン思考(この論考では限定的にIDEO−d.school的なデザイン思考を指します)のプロセスの始まりにある「共感(Empathize)」というステップに(文字通り)共感はしつつも、どこかでずっと違和感を感じていました。 デザイン思考の根底にある概念が「人間中心デザイン(HCD)」である以上、最終的にデザインされる何かしらの対象物のユーザーとなる人の経

          デザイン思考再考−「共感」から「コミットメント」へ−

          バルミューダのスマートフォンについて思うこと

          話題になっているバルミューダ社製スマートフォンについて、あくまで個人的な意見として書きます。サービスデザインの観点から考察すると既存のスマートフォン市場において売れる=幅広く顧客に受容されていく、ことは容易ではないと思います。(無理だ、とは言っていません) これまでバルミューダ社が市場において好評を博したトースターや電子レンジのような製品群と、今回のスマートフォンの違いをすごく極端にいうと、(ある程度の年齢になってから)「一生に数回しか買わないもの」と、「比較的頻繁に買い換

          バルミューダのスマートフォンについて思うこと

          イノベーションにおける正当性のデザインと、サービスデザインにおけるアダプション・デザイン

          また勝手なことを書きます。 ぼくたちのデザインチーム「INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)」では、日頃いろいろな企業・機関からご依頼を頂いて製品やサービス、そして事業そのもののデザインを支援することを生業にしています。 特にここ5年ほどは貴重なご縁に恵まれ、企業内において新規事業をつくり出す取り組み(いわゆる「企業内企業家育成プログラム」や「コーポレート・アクセラレーション・プログラム」と呼ばれる類のもの)を支援する機会が急増しているのですが、これは企業(特

          イノベーションにおける正当性のデザインと、サービスデザインにおけるアダプション・デザイン

          人間中心の意味を見つめ直した一年あまり

          ※本文章は、2021年10月末日にHCD-Net会員向けニュースレターに寄稿したHCDコラムの転載です。 前回、コラム執筆の機会をいただいてからあっという間に1年あまりが経っていました。その間、海外のデザインカンファレンスやコミュニティイベントにいくつか参加した中で感じたことは、以前にも増して「人間性への回帰」や「従前の価値観からの転換」、そして「多様な文化理解と倫理観」といったテーマが色濃く扱われるようになったということです。 感染症対策への備えもあって、現代を生きてい

          人間中心の意味を見つめ直した一年あまり

          ペルソナを「意味のイノベーション」の主人公だと考えるという話

          デザイン実務家としてペルソナに関わって早や20年あまりが経ちますが、いまやデザインに限らず、製品開発やマーケティング企画などの際にペルソナを活用することは特別なことではなく、デザインの専門領域のみならずビジネス全般でふつうのことになりました。 そのくらいペルソナというツールでありコンセプトは浸透したので、以前のようにペルソナだけを採り上げて教育をしたり、有用性をことさら提言するなんて機会もめっきり減って「いた」わけですが、去年あたりからにわかにペルソナについて語る機会が出てき

          ペルソナを「意味のイノベーション」の主人公だと考えるという話