見出し画像

マクドに恋する流儀

コロナ禍で漆黒の闇と化した駅前の飲食店通り。
そんな中、唯一深夜0時まで煌々と暗闇を照らすは黄金色のダブルアーチ。
賛否両論あるメガ飲食店だけど、この状況下においてなお不滅のひかりを放つその姿は、最後のよりどころのように目に映った。
それはまるで、四面楚歌の戦場で南無三!と死を覚悟した瞬間、上空に味方の援護爆撃機が現れたのをみつけた時のような心持ちだった…
というのはちょっと盛り過ぎだろうか。

例え戦場に送り出されても、死ぬ予感などさらさら起きないどころか、ちょっと遠足気分でワクワクしてしまうような、不謹慎でおめでたい性分がわたしには元々備わっている。
コロナの脅威と、それが世界に、人に与える影響、わたしなりに重く受け止めてはいる。
しかし、どっこい自分はちゃんと今を生きている。生きるチャンスを与えられてるからこそ、めまぐるしく変容するこの日常を、なんとかおもしろおかしく健やかにひとりで楽しむのが、個々に委ねられた課題のような気がしている。コロナの有無にかかわらずだけど。

話を戻す。
マクドはわたしが生まれるずっと前からすでに日本に存在していた。
生まれてこのかた、近くに居たのにずっと遠い存在。
コロナ前は3~4年に1度食べればいい方だった。
アンチファストフードのようなポリシーを持ってるわけではない、単に興味の対象じゃなかっただけ。
しかし、コロナ禍きっかけで月1ペースに爆上がりした。

血のにじむような企業努力は微塵も表に見せず、あっけらかんと以前と変わらず、ダブルアーチを掲げ続けるマクド。
どんな状況下においても平常運転、ってスタンスを貫くその姿を見てると、何故だか胸の辺りがきゅっとなった。
今まで近くに居過ぎて何とも思わなかった幼なじみが、まるで知らない新鮮なかがやきを持ってわたしの顔を照らした。

そう、こうしたひょんなきっかけで、わたしはマクドに恋をした。

このファストフード店が身近な存在であり続けるために、互いにとって最も居心地よい距離感を模索する日々が始まった。時に近過ぎた距離が反発や惰性を生み、一方で、いったん離れてみてようやく気付いた良さがあった。
ほろ苦く、甘酸っぱい営みの蓄積。
約1年のコロナ禍におけるマクドとわたしののスイート・スポット探求の記録をここに綴る。


1) 好きじゃないからフレンチフライは頼まない
セットを頼むとデフォルトで必ずついてくる揚げイモ。
バーガーはフレンチフライとペアで、という固定観念って、米国でマクド1号店が開店して以降、全バーガーカスタマーにかけられた呪縛なんじゃないかと思う。

マクドのフレンチフライは好きじゃない。
成形前のマッシュポテトに味付けを施さないレシピだからなのか、代わりに揚がったフライにかなりキツめに精製塩がかかっている。
それが油に当たるとイモ全体が苦味走って、途中で食べるのが辛くなる。
さらに、それが冷えた時の侘しさたるや、お金を貰っても食べたくない味わい、見た目、存在感である。
バーガーの隣に当たり前のようにやって来て、こっちの食事のペースを煽るかのようにずんずん不味くなっていくあいつのせいで、バーガーに集中出来ない。

お義理で口にするには捨て置けないカロリーだという事実(Mサイズ410kcal)に加え、「提供の瞬間からの賞味期限が短すぎる食べ物」堂々2位*に君臨するこのフレンチフライ、マクドとの良好な関係を築く上で、障壁となりうる要素は、後々こじれる前に速やかに間引いておのが肝要だと思った。
*1位は牛乳かけたコーンフレーク

初っ端から否定で入ってごめんマクド。お気を悪くされず、どうか最後までわたしの思いを聞いて欲しい。


2) バーガー欲満たすために来たのだから、バーガーを食べる
マクドに通う理由は、シンプルにバーガーが食べたくて。
ではバーガーを心ゆくまで食せばよい。
ちょうどフレンチフライ410kcal分間引いたばかりだし、2個目という禁断の扉を開いてみようじゃないかと思い立った。
疎ましいこの揚げイモの存在のおかげで、マクドのバーガー愛を初めて認識できた点では、フレンチフライに感謝だ。

定番フィレオフィッシュと期間限定チーズてりたまの狭間で悩み倒す苦行から解放されたばかりか、どちらも堪能できるという夢のような選択肢を新たに見出したとき、わたしはマクドとの長いお付き合いを確信した。

「どっちも好きなら両方食べればいいじゃない」
なんという法悦。
No worries, be happy.

自分の欲求を見極め、相手にストレートに伝えつつ、ポジティブな発想の転換を同時に提案してみよう。
大丈夫、懐の深いマクドだから、愛する人のお願いを無碍にはねのけたりなんかしない。


3) テイクアウトという名のおうちデート
自宅の最寄りマクドならば100%テイクアウト。
むしろ、自宅とマクドはセット。故に外出先でマクドに入ることはない。

紙に包まれたぬくい重みを、自分の皿に乗せる非日常が好きだ。
それはまるで、これまで外でしか会わなかった恋人を初めて家に招き入れるような、浮き足立つような感覚。

マクドから自宅までの2分の間に、挟まったチーズはバーガー自らの熱でいい塩梅にとろけ、ベストコンディションで我が家の皿に着地する。
サイドディッシュはその日の気分や体調に合わせて野菜やくだものなどを準備。月1とは言え、バーガー連投に挑む罪悪感をほんの少しだけ和らげるグリーンや赤や黄色。しなびた揚げイモを携えた時より、もっとずっとわたしの好きなバーガーになる。

あとセットを頼むと惰性のようについて来るあのワックス臭漂うドリンク、厳選したバーガー単品を頼んだわたしには、そんななーなーの存在を持て余すようなこともない。うちにはわたしが好きな飲み物がある。

長い時間をかけて、お互いにとって理想のおうちデートの形を構築していこう。
恋人を迎え入れる準備は万端だ。


4) 時におやつ処としてのライトユース
恋する前は、食事処としての一面としか映っていなかったマクド。
ひんぱんに会いに行くようになり、様々な面を見出すにつれ、ますますマクドが好きになった。
特にハートを打ち抜かれたのが、甘酸っぱい熱々フィリングを湛えつつ、外はあくまでパリッとさくさくなアップルパイと、プレミアムローストコーヒーSサイズのひと揃え。

仕事がひと段落した夜更け、急にマクドに会いに行きたくなる。バーガーを胃に収めるほどの度胸も消化能力もないけど、この疲れた脳みそにごほうびをあげたい。そんな時、このマクドおやつセットはわたしのどストライクを突いてくる。

しっかり甘くてしかも熱くて、食感楽しくとてつもない満足感をくれるアップルパイ。蒸気抜け穴がデザインと一体化した、秀逸かつ無駄のないパッケージが素敵。その厚紙越しにじんわりと温みを掌に伝えてくれ、箱の中でカサ、コソ、とささやかに動揺するハンサムな形状もまたいじらしい。

そして甘々になった口をスッキリリセットしてくれるなかなかグレードの高いコーヒー。この2アイテムが2コインで買えるって、どれだけのコスパ大魔王なんだ…と初めて買った日にはしたたか驚愕した。

バーガーと向き合う時間ほどがぷり四つでもなく、カジュアルな友人感覚でも、といろんなシーンで楽しめるしなやかな関係ってなんか良い。それが唯一の理想の関係というわけではないけど、恋人同士深く知れば知るほど、その時に合わせた一面を互いに見せ合うことで、期せずして自分の再発見になったりすることも恋の醍醐味なんじゃないか。


5) おいしい思い出は記憶と記録に残す
まったりおうちでマクドを堪能した思い出は、できれば撮影しておく。後でひとりで見返してニヤニヤするためでもあるし、SNSなどの場に晒してマクドとの順調な仲を声高に公言(=宣伝)するためでもある。

過日自分に取り込んだマクドが、こうして血となり肉となって今わたしを生かしている。実際はマクド以外の食事も含めてなんだけど、自分にとってこの作業は、このコロナ禍をこうして生きてたよ、という記録でもあり、今は会えない家族友人に向けた、わたしの生存確認報告でもある。
「マクドと仲良くやってますよ」は、「わたしは今日も元気に生きてますよ」である。

良いお付き合いは、こころも体調も良好にする。


最後は、マクドとわたしの惚気画像で締めることにする。


06JUN2020

この日の初戦はグラン
マヨ無し、パセリたっぷりのレモンポテサラは、濃い味のバーガーを堪能するために塩気控えめがいい

定番テリヤキは後半戦に持ってくる
2個目があるしあわせ


21OCT2020

この日のサイドはくだもの優勢
ドリンクは前日のzoom呑み会で余ったタンサンにレモン
バーガー、まだかなー

トリチ(トリプルチーズバーガー)の地層感
でも「肉噛んでる感」はハミダブチ(はみ出すダブルチーズバーガー)のが上だったよ、と後日人間の恋人に熱弁される

サイドとバーガーの色が被るという想定外のペアルック
テレパシー的な?

何も知らないとトリチ=鶏チーズバーガーって勘違いしがちだけど、ちゃんとチキチー(チキンチーズバーガー)っていうものが他に存在する
紛らわしいんだけどそんなところも好き
イモ以外は


Happy McDonald, y'all! 💕


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?