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音と生きる#2 「芝居と旅をする」

どうも!舞台音響と作曲の2足のわらじで頑張っています、coricoです。
そう言えば、私が学生の頃に学校行事の芸術鑑賞会で触れた作品は「ヘレンケラー」だったなぁと、ふと思い出す時があります。
私の席は最前列。客席から見上げるような形でお芝居を観ていたのですが、その時はとにかくお腹が空いていた事もあって、私の意思とは関係なく「ぐぅ〜」と鳴るお腹の音を抑えるのに必死で観劇どころじゃなかった記憶があります。
当時の劇団の方には申し訳ないのですが、生徒からすると学校行事で連れて来られた観劇のモチベーションは割と低い位置にあるのかも。自分も含めて。

しかし不思議なことに、今では学生達に向けて作品を公演する側になりました。
劇団の制作チームが全国各地の学校に作品を売り込んで、金額や日程、公演場所の条件が合えば契約成立。
学校にもよりますが1年〜半年前には公演スケジュールが確定します。
同じ作品でも、小さな会館だったり大きなコンサートホールだったり学校の体育館だったり……と条件が違うので柔軟な対応が求められます。
そこがこの旅公演という仕事の難しい所でもあり、楽しい所でもあります。
今回は私の視点から見た舞台の流れを紹介したいと思います。
※舞台用語や音響用語がバンバン出てきますが「ふーん」とさらっと読み流して貰えたら幸い


「で、結局音響さんって何してるの?」

これは恐らく他のセクションやお客さんから大体疑問に思われていること。
なぜなら舞台や照明がステージの仕込みを進めている間に別行動で仕込んでいるので、だいたいいつどこで何をやってるのか認識されていない事が多いです。

旅公演は基本的に9〜17時までしか会館が押さえられていないので、この8時間の内に搬入、仕込み、チェック、本番、バラシ、撤収を全て終えなければいけません。

大まかなタイムスケジュール

大まかな全体のスケジュールはこんな感じ
(例: 会館での公演の場合)

9:00 搬入、仕込み開始
11:00 照明シュート
11:30 サウンドチェック
12:00 暗転チェック、声出し
13:00 開場
13:30 開演
15:00 終演、バラシ作業
17:00 完全退館

このスケジュールでは、音響は11:30からのサウンドチェックに向けて仕込みを間に合わせます。
では実際にどんな動きをしているのか流れに沿って書いていきたいと思います。
(※あくまで私の現場の場合です)

1.会館に入ったらまず打ち合わせ

まずは会館の音響さんと打ち合わせ
(回線の位置、電源の位置、借りる機材、PA席で使う机の場所等の確認)

2.搬入開始

自分の持ち込み機材(インプット系)、音響卓、電源ドラム、パッチケーブル等が入った箱を客席側に固めておく。
アンプやスピーカーを持ち込む場合は、舞台袖のパッチ盤の近くか邪魔にならないところに上手と下手に分けてスピーカーとスタンドを置いておく。

3.客席にPAブースを設置

机を1台借りて客席に配置。
会館によっては1人では厳しい所があるのでその時は助っ人を呼ぶ。(役者さんいつもありがとう)
机に滑り止めと雑黒布を敷いて、その上に音響卓を置く。

4.回線の確保

音の回線をPA席から舞台袖へ渡す時に、会館によってはPA席付近にパッチ盤があるので楽に接続出来ますが、それが無い場合はマルチケーブルを直接引き回します。(だいたい50m〜70mくらい)
お客さんの邪魔にならない様に壁沿いにケーブルを敷いて、扉の前にもケーブルが通る時には養生マットで固定します。(お客さんの安全第一!足を引っ掛けないように!)
養生テープやマットで固定するところは助っ人を呼びます。(いつもありがとう)
それをやって貰っている間にインプット系の機材の準備。

5.客席電源の確保

これが無いと何もできない!一番大事!
客席の壁沿いに並行電源が出ている会館が多いのでそこから電源ドラムのケーブルを伸ばして繋ぎます。
客席通路は人の通りが多いのでいつもガムテープや養生テープで結構ガチガチに固めるのですが、一度だけ本番中に誰かが足を引っ掛けて差し口が曲がって抜けてしまった事があるので、それ以来はガムテープの芯に穴を空けたもので差し口を覆う様にしてカバーしています。

(折れ曲がったプラグは後日修理しました)

6.インプット系の準備

↓音響卓周りに置く物
・ノートパソコン
・iPad
・オーディオインターフェース
・MIDIキーボード
+電源タップ、モニターヘッドフォン、手元明かり

パソコンの音をインターフェースを通して音響卓へインプットしています。
iPadはType Cからミニステの変換を付けてステレオでインプット。
(そろそろ音響卓のインプットもType Cに対応して欲しいと切に願う。それかイヤホンジャックを返して…!!!)
ここでパソコンとiPadから同じ曲を流してヘッドフォンで聴きながら音響卓に入る音量のレベルが揃うように調整します。
音量が調整できたら、音響卓から会館の音響システムへ送る回線と、舞台中に仕込むスピーカーへ送る回線、舞台上のバウンダリーマイクの音を音響卓へ入れる回線をパッチします。
時間に余裕があればヘッドフォンで聴きながらパソコンやiPadでポン出し動作確認。

7.スピーカーの仕込み

私がPA席で色々と準備している間に、舞台上ではパンチを敷く作業が終わり、照明さんの吊り込みが終わり、舞台のセットが大体組み上がったところで舞台中で仕込む物の準備をします。
上手&下手のパネル裏にスピーカースタンドを立てて本体をセット!ケーブルも一緒に這わせます。
(会館でスピーカーを借りる場合はスピーカーの回線を取る場所をこの時に確認)

8.アウトの回線チェック

スピーカーが仕込めたら、私がセットした音響システムがちゃんと使えるか会館の音響さんと回線チェックをします。
表に出す音はメインスピーカーLとR、仕込みスピーカーLと R、そしてマイクだけ別回線で出したいので専用に1回線作っています。
この合計5回線がチャンネル通りに鳴っているか、音のレベルは大丈夫かという部分を確認します。
音響卓から1kのサイン波を出して1回線ずつ会館さんとチェック。
OKなら「表を生かしておいて下さい」と伝えて、サウンドチェックに向けての下準備は完了。

9.バウンダリーマイクの仕込み

舞台のスケジュールではちょうど照明さんのシュートが入るあたりで舞台面にバウンダリーマイクを3台仕込みます。
仕込む時には上を見て緞帳ラインを確認!(マイクの上に緞帳が被らない様に)
場所を確認できたらセンターの位置に置いて、後は左右均等に分けて仕込みます。

(中古で仕入れたオーテクのやつ)

10.音出し前のこっそりチェック

照明さんがシュート中なのであまり大きな音は出せませんが、改めて音響卓から今度はピンクノイズをうっすら出してメインのLRと仕込みスピーカーのLRを確認します。
次に仕込んだバウンダリーマイクにファンタム電源を送って音が来ていたら、実際にマイクの音を表に出してEQでハウリングポイントを探りながら調整していきます。
(シュート中の照明さん達の声を拾ってこっそり調整したり)

(照明シュートがある程度進んだら俺のターン!)

11.サウンドチェック

11時30分!サウンドチェックの時間が来たら、舞台監督やまだ作業中の照明さんに声を掛けて音出しをします。
まずはお芝居のオープニング曲を流して客席をうろうろ。実際にお客さんにどう音が聞こえるかを確認しながらベースになる音量を決めます。
表が決まったら舞台上に行って仕込みスピーカーの中音チェック。
スピーカーの音が両方決まったらお芝居で鳴らす音楽や効果音のレベルを一つずつ決めていきます。(会場の広さや反響、機材によって変わるので毎回丁寧にチェック)
音ネタのレベル取りが終わったら舞台監督に「音響OKです」と声を掛けます。

12.暗転チェック&マイクチェック

舞台監督が役者全員を呼び込んで、舞台客席全ての照明を消して灯りの漏れが無いか、暗い中で動けるかを見るためにチェックをします。
灯りの漏れがあれば音響席から声をかけます。

それが終わればマイクチェックを兼ねて全員で歌うシーンをやります。
ここで音楽とマイクの音量バランスを取って準備完了!
あとは役者さん達の声出しタイムに入るので私はお昼休憩に入ります。

(お弁当の美味しさは裏方のモチベーションに直結します)

13.開演前〜本番

開場する少し前からPA席で待機。
ポン出しの最終チェックをしたり、台本を置く場所を考えたり。
開演10分前には舞台監督とやり取り出来る様にインカムをかぶっておきます。
学校の先生の諸注意や挨拶が終わり、全員の着席を確認出来たら舞台監督からQが来るので開演ブザー、アナウンス、開幕の音楽を流したらお芝居スタート!あとは本番のオペを頑張るのみ!

14.開演後〜バラシ

だいたい終演が15時過ぎ。退館まで2時間を切りました。
閉幕したらすぐにインカムで会館の音響さんに連絡してこちらの音響卓から送っている音を全てOFFにしてもらって、すぐに舞台袖へ向かいます。
舞台袖や舞台上に音響機材が置いたままだと舞台セットのバラシに支障が出るので真っ先にバラシます。ここが音響が一番必死になるポイントです。
とりあえずバウンダリーマイクを外し、ケーブルをごそっと袖に持って行って他の人の邪魔にならない所で綺麗に巻き直して箱にしまいます。

舞台周りの物がバラせたら動線の邪魔にならない搬入口に近いところに固めて置きます。
次はPA席に戻って音響卓の電源を落としてパッチケーブルを回収したり持ち込み機材の収納。
そうしている間に着替え終わった役者陣が戻って来るので、1人拉致してマルチケーブルを固定していた養生テープを剥がしてもらいます。(いつもありがとう)
マルチケーブルが巻き終わったら搬出口に運んで、PA席のバラシの続きに戻ります。
会館からお借りした机を返す時にも人手がいる場合はまた手助けをお願いしています。(いつもありがとう)
音響卓や持ち込み機材が全てバラせたら搬入口に運んで、客席に忘れ物や養生テープの剥がし忘れが無いか要チェック。
これで音響としての仕事は完了です。

あとは舞台の様子を見てまだ終わっていない作業に参加。
(ドロップを畳む作業やトラックに積む作業、舞台上の掃除など)

15.終演後は……

スケジュールによっては退館後そのまま解散!または次の場所へ移動!ということもありますがトラックに積んだ舞台セットを倉庫に戻す作業がまだ残っています。
荷下ろしがある場合は退館後そのまま車で3〜4時間移動して倉庫で作業して最寄駅で解散、あとはひたすら電車で移動して家に帰る頃には0時前です。
改めて体力勝負の仕事だなと思います。

遠方で車移動〜宿泊のみの場合は……
みんなで美味しい物を食べて乾杯!

(各地の美味しいご飯とお酒を楽しめるのは旅公演の醍醐味です)

さいごに

先日1学期の旅公演が全て終了しまして、9月からまた各地を巡る旅が始まります。
季節は芸術の秋、コロナ禍が過ぎたこともあり学校行事で生の演劇を鑑賞したいという所が増えてきました。
演劇に触れたことのない学生さん達に届けるお芝居の楽しさは、この仕事でしか味わえないなと思うのでこの縁に感謝しつつこれからも精進してく所存。
本当に地域や学校によってお芝居に対する反応が全く違うので面白いです。
これだから舞台の仕事は辞められない!

長くなりましたが、音響という不思議な職業の一面が伝われば幸いです。
最後までご覧頂きありがとうございました!

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