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多文化の中で、英語と文化 |【ELF-共通語としての英語】
こんにちは
今、ニューヨークに来ています。今日は初雪で凍えるように寒かったのですが、暗くなる5時ごろの街はクリスマス前の人込でにぎわい、デコレーションの光があふれ、クリスマスソングが流れる中、華やかに煌めいていました。
帰りにのった地下鉄も人であふれていましたが、改めてアメリカは多様性の国だな、と思いました。いろいろな格好の、いろいろな人種の人たちが忙しく乗り降りする様子は、日本の地下鉄の混雑とは大きく違います。
文化の多様性は、グローバル社会で重要なテーマですが、「共通語としての英語」と文化の関係も、興味深いテーマです。
■英語と文化
従来、英語は「英語を母語とする人々と話すための言語」と考えられていた時代には、文化は比較的明確でした。
英語を学ぶ時には、英語の文化も一緒に学び、その文化に合わせることが必須とされてきました。
だから、英語の授業は英米の文化を知る場でもあり、大学英語では英語文学を読むことが定番でした。
では、英語を共通語として考える場合、どの文化に合わせるのでしょうか?
たとえば、日本人とイタリア人とブラジル人が、シンガポールで英語で話すとしたら?
日本人が、スペインの空港で、韓国人と中国人と英語で話すとしたら?
あるいは、羽田空港で、エジプト人とインド人が英語で話すとしたら?
結論から言えば、その場にいる人々の、すべての文化を尊重することが必要です。
■たとえば、大学の文化
少し脱線しますが、大学を例にします。
大学の教室の文化は大学によってかなり違いますが、日本の教室には、特に目立つ特徴が2点あると思います。
• 学生はできるだけ後ろの席に座りたがる。教室の前半分は、空席のままになる
• 教員が質問しても、手を挙げる学生はほとんどいない。反応なく静まり返っている。
私はアメリカやイギリスの大学に長く通っていたので、日本の大学のことはすっかり忘れていました。数年前に、久しぶりに日本に帰り、日本の大学で教え始めた時、英米ではあまりみたことがないこの2つの状況に、戸惑い、どうしたらいいかわかりませんでした。
教壇に立って、前半分の席が空席だと、嫌われているのかと思います。あるいは、授業がつまらなすぎる?
質問しても手があがらないと、授業は一方的な説明になってしまいます。
学生に聞くと、特に私が嫌いというわけでなく、どの授業でもみんな後ろに座るそうです。
意見があっても、答えがわかっても、手を上げないのも普通だそうです。指名をすれば意見を言う学生もいますが、指名されることをとても嫌がる学生も少なくありません。
この日本の教室の文化の中で育った人が、海外で英語を使って仕事をする時、自分から意見を提案するのが難しいのは、当然です。
■欧米で英語を使う時の文化
以前、日本の大企業で欧州支社のトップを務めるイギリス人に、日本人の英語のコミュニケーションについて意見を聞いたことがあります。
彼は、日本から来た部下に意見を言わせるのが最も難しいと語ってくれました。さらに、それを変えることが、英語で仕事をするビジネスパースンの成功に不可欠だとも話してくれました。彼によれば、「日本人が意見を言わない理由は、英語力に自信がないこともあるが、最大の要因は、日本の発言しない文化が原因だ」とのことでした。
そのイギリス人のトップは、時間をかけて、個人面接を繰り返しながら、文化の違いを説明したそうです。
「意見を言うのが重要であり、たとえ上司の意見でも反論していいし、間違ったことを言っても、全く問題がない」と部下たちに伝えました。
こうした文化は、欧米では比較的広く共有されています。そのため、英語を使って話す際には、積極的に発言するのが重要と、私も大学で教えています。つまり、日本の文化と欧米の文化の違いを理解し、英語を話す際には、欧米文化を取り入れるわけです。
■多様な文化の中で、英語を使う
しかし、多様な状況で英語を共通語として使う時、「積極的に発言するのがよい」「上司の意見にも反論してよい」といった考え方が、どこでも通用するわけではありません。
実際には、反論を許さず、「会議では部下は黙っていろ」と言いかねない独裁的なリーダーが存在する文化も少なくありません。そうした環境で英語を使って仕事をする時、英語だからと欧米式の文化をそのまま真似るのはトラブルのもとです。
だからこそ、英語を共通語として使う際には、次の2つのポイントを意識することが重要だと考えています。
自分のやり方や文化が、英語を話す相手にも通じるとは思わないこと。
自分と相手の間に文化の違いがあることを前提に、自分の考えを押し付けず、これまで自分が知っている「英語の文化」を念頭に置きながら英語を使う。
相手をよく観察し、相手の文化を理解し尊重しながら、それに合わせていくこと。
英語を共通語として使う際の文化は、毎回ケースバイケースなので、その場の状況や、そこにいる人々の文化的背景によって、適切なコミュニケーションのあり方を変えていく。
この言い方は、抽象的でわかりにくいですが、文化は単純に答えらない複雑な課題なので、このように柔軟に考える必要があります。
上記の2つの原則をもとに、個々の状況に応じた対応を考え、それを実践する経験を積み重ねることが、唯一の解決策だと私は考えています。
英語コミュニケーションを教える授業では、こうした英語と異文化を考えるディスカッションを取り入れようとしていますが、比較的新しい課題なので、まだ教え方に試行錯誤しています。
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扉の画像:UnsplashのFilip Bunkensが撮影した写真です
「私と英語」の自己紹介はこちらです。