吐 息 1 : BREATH
寒くなったんだな…
行き交う人たちの服装と吐く息の白さで、気温と季節を考える。
そう、考えるのだ。感じることはないのだから。
灰色のコートをなびかせ、冬装備の生者を眼下に大きく腕を広げてから、その両腕を包み込んだ。
大切に、ゆっくりと、丁寧に… そうっと、触れるように。
…あったけぇなァ…
忘れることのない腕の中の感触を、抱きしめる。どれだけ時間が経っただろう。
…いやお前、わかってンだろ
何年何か月何日何時間何秒…そして永久にその時間が続くことも。
もう二度と届かないけれど、いつもそばにあって、この腕の中に抱きしめることのできる ‵ お前 ‘。
オレだけのものだ…
---などと呟いている自分に心底驚き、我に返った。今の顔を覗かれでもしたら、あいつはとんでもなく嬉しそうに笑っただろう。あの時と同じ、優しく美しい瞳で、あの日の青空のように晴れやかに---
そンでまた、抱きつかれンだろうな…
いつしか口元にある手は、思い出をなぞってしまう。
小さな肩からのびた細い腕、頬を伝う涙に気づいた時はもう、かかる吐息と唇が---
…あぁもう、仕方ねぇなァ…
誰が見るわけでもない照れ隠しで冬空に舞い上がる。こんな夜はもう、とことんあの瞳に付き合うと決めているのだ。
…ほら降ってきた、一緒に雪景色の市でも見るか、フロー…