若い人ほど成熟しているという現実に組織がどう向き合うか

いま企業組織では「意味論における意識構造の世代逆転現象」とも呼べる潮流が起きています。これは大小様々な企業で同時進行している流れですのである程度普遍的な現象だと理解しています。

ここで前提として意識構造について再度整理しておきます。意識構造はティール組織でも言及されている発達段階とかなり重なったものです。

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※( )は小職独自の表現です。5までは成人発達理論においては慣習的段階、6以降は後慣習的段階と呼ばれることもあります。
9.インディゴ(流動的視点)  →無為自然・当意即妙・慈悲の実践
8.ターコイズ(去私的視点)  →自己を達観する視点・二元論を手放す
7.ティール(社会的視点)   →社会単位の正義や調和を志す。人為的
6.グリーン(相対主義的視点) →多様性を包摂し始める混乱期
5.オレンジ(合目的的視点)  →自身の信念・理論重視
4.アンバー/オレンジ(自他最適的視点)→合意形成重視
3.アンバー(他者中心視点) →他者から与えられる答え重視
2.アンバー/レッド(自己中心的視点) →自分の快楽重視
1.レッド(本能志向的視点) →本能的衝動重視

「意味論における意識構造の世代逆転現象」というのは、具体的には「相対的に組織で下位の階層にある若手の方が、ある限定的な意味において上位の階層にいる管理職よりも成熟した意識構造を持っている状況が、近年多く見られるようになったということです。

”ある限定的な意味において”という留保とは何かと申しますと、【意味の形成】に限定した意識構造においてのみ、若い世代の成熟度が高いケースがかなりみられるということです。

特に6以降、すなわち相対主義的視点の意味論を備えた若い方々がいわゆる優秀層に多く出現していて、そのような個人の側においても、さらにはそのような個人をマネジメントする組織においても適応に苦慮している状況をよく耳にします。

最近、大学生の友人から聞きましたが、有力大学の優秀層は6.グリーン(相対主義的視点)以降の観点で企業選びをする人が近年さらに増えてきていると聞きます。SDG’sを考慮した会社で働きたい、その会社にはどのような社会的価値はあるか、などを当然のように熟考して就職活動を進めている人が、一定の勢力になっているとのことです。

ただしこの場合に注意する必要があるのは、若手が相対的に成熟していると言っているのは主に【意味の形成】においてということです。例えば【方法論】においてはまだ相対的に未熟な場合も多々です。意識構造的に4.アンバー/オレンジ(自他最適的視点)にある先輩社員や管理職からすれば「口ばかり達者で、やるべきことをやらない奴ら。社会人はまず目の前のことに石にかじりついてナンボだろ!」という嘆息が漏れる、ちょっと困ったタイプの人材と看做されることもあります。

一方、若手の側からすれば、当該企業が標榜している社会的価値を十分に吟味して入社したにも関わらず、標榜していたビジョンが組織の中で全く実践されていないことに絶望するケースも多々あるそうです。

そもそも、企業は基本的には5.オレンジ(合目的的視点)の視点で運営されています。だとすれば、企業の標榜するミッション・ビジョンが、ある種採用戦略上の宣伝文句として使われているケースもありうる話なのです。多少内実が伴っていれば問題ないでしょうが、標榜しているミッション・ビジョンが完全に形骸化している状況も起こり得るでしょう。

このように、まさに【意味の形成】における意識構造の世代間GAPが、相互理解の成立を阻んでいるようです。この「意味論における発達段階の階層逆転現象」は、企業によっては組織の士気低下、人材の流出という形で問題が表面化しているケースも起きていると聞きます。

株式会社にとって難しいのは、会社の売上目標や自己成長というストーリーに人生を賭けてくれうる内面を持つのは、意識構造でいうと5.オレンジ(合目的的視点)までだということです。6以降だと、自己成長というストーリーさえも、絶対的な価値ではなくなってきます。一つの価値であることは間違いないが、それが全てではないという視点が芽生えてくる。

5までであれば、彼らの意味を充足できる評価制度やアサインの仕組みは持てるのですが、6以降の手立てまで持てている企業は稀です。そもそも、6以降の方々は、資本主義や経済成長、経済的成功に共感的でない場合も多く、場合によっては否定的でさえあるのです。

なお、現実として6以降の意味を希求する人材の心を掴む企業はほとんどなく、彼らが生きる意味を充足できる就業機会は皆無に近い状況です。そのため、若手の一部は(場合によっては学生の時点から)実存的苦悩を抱えてコーチングを受けたり、学んだりし始めています。最近日本でもコーチングが普及し始めていますが、普及の背景は一連の状況が影響していると私は考えています。

この状況は、これからの組織に大きな課題を投げかけていると私は感じます。これまでの組織は、組織の目標人の目的を糾合することが十分可能でした。これまでは人の目的が、経済的成功や社会的状況に重きを置く水準にあったためです。ところが、いまの若い方々は、生きる意味においてより高尚なものを求めています。そして、生きる意味は多様になってきている。つまり、組織が個々人の目的を踏まえて、それらの力を糾合していく術を見出さなくてはならなくなっていると思うのです。

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