血圧変動に影響を及ぼす3要素
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みなさん実習や日常業務で患者さんの血圧を測ることは頻繁にあると思います。
マンシェットを上腕に巻いて聴診器で音を聞いたり、機械が測定してくれたり…
そんな日常的に当たり前のように接する血圧についてですが、
「血圧が高すぎて(低すぎて)心配なんだけどなにかできることある?」
「どうして血圧が上がったり下がったりするの?」
「血圧ってそもそもどういうこと?」
患者さんに聞かれたときに自信を持って答えられますか?
今日はこれらについて解説していきます。
どんな病棟に配属されても血圧を測定しないということは無いはずなので、血圧の考え方を知っていることはみなさんの日々の業務に直結するはずです^^
目次(以下のリンクは私のウェブサイトへ飛びます)
血圧とは
血圧とは、血液が血管の壁を内側から押す圧力のことです。
血流には波があるので、圧力の強いタイミングと弱いタイミングがあります。
心臓が収縮して動脈に血液が押し出されるときに血管の壁にかかる圧力を収縮期血圧、心臓が拡張しているとき(血流の波の乏しいとき)に血管壁にかかっている圧力を拡張期血圧、収縮期血圧と拡張期血圧の差を脈圧といいます。
血圧変動に影響を及ぼす要素
まず一般的な説明として、
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗
このような説明を聞いた事がある方もいらっしゃると思います。
これは、心臓をポンプ、血管をホースに例えるとイメージしやすいです。
ポンプが頑張って多くの水を吐き出したり(心拍出量の増加)、
ホースの先をつまんですぼめたり(末梢血管抵抗の増加)すると、
ホースにかかる水圧が大きくなる(血圧が高くなる)
この説明ももちろん間違いではないのですが、この記事でははもう少し踏み込んで説明します。
右辺の心拍出量は、「心機能」と「循環血液量」に影響を受けるので
血圧=心機能×循環血液量×末梢血管抵抗
上記のように式を変形することができます。これらの、
心機能
循環血液量
末梢血管抵抗
を血圧変動に影響を及ぼす3要素として覚えておいてください。
実際みなさんが血圧が下がっている患者さんに対して行う処置で
下肢挙上
補液
昇圧剤
などは、これらの3要素のどれかに影響を及ぼすものです。
ではこれらの要素を紐解いてみましょう^^
1.心機能
心機能のうち特に収縮能が高まると一回心拍出量が増加します。
一回心拍出量とは心臓(左心室)が1回収縮するごとに拍出する血液量のことです。
ちなみに単に「心拍出量」は通常、1分間に拍出した血液の総量を表しますが、血圧に直接影響するのは1分間の拍出量ではなく1回収縮するごとの拍出量なので、「一回心拍出量」が正確になります(さきほどの式「血圧=心拍出量×末梢血管抵抗」は実はちょっと不正確になります)。
この「一回心拍出量」は脈圧を作ります。
脈圧は血圧の波の高さ(収縮期血圧-拡張期血圧)を表すので、一回心拍出量が少ない(心機能が悪い)と脈圧が小さくなって、収縮期血圧が低下します。
2.循環血液量
循環血液量とは血管内の液体成分の量(血液量)のことです。循環血液量が少ないと、拡張期血圧が下がります。
コップの中の水の量が多ければ水面は高くなるし、水の量が少なければ水面は低くなる、といったイメージです^^
また循環血液量が少ないと、心機能が良くても一回心拍出量が少なくなってしまいます。
心臓に入ってくる血液量が少ないと出ていく血液量も少なくなる。
その結果、脈圧が小さくなって収縮期血圧も低下します。
3.末梢血管抵抗
末梢血管抵抗とは血液が毛細血管に流入する際の抵抗のことです。
これは末梢血管(毛細血管)がどれだけ収縮しているのか・拡張しているのかによって変わってきます。
末梢血管抵抗が低下している(毛細血管が拡張している)場合、末梢血管が拡張していると血管床が広がるので末梢に溜め込める血液量が増えます。
その結果、体幹や中枢を循環する血液量が減るので、循環血液量が少ない状況と同じように、収縮期・拡張期とも血圧は全体的に下がります。
先程のコップと水の例えで説明すると、コップの底面積が広くなった状態です。
水の量は変わらなくても、コップの底面積が広ければ水の高さは低くなりますね^^
以上3つの要素について説明しました。
それぞれの要素は多少交絡するところがありますが、低血圧時の対応としてアプローチできる部位が現実的にこの3つの要素に対してなので、あえて
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗 ではなく
血圧=心機能×循環血液量×末梢血管抵抗
で説明しました。
それでは先程の、血圧が下がっている患者さんに行う処置はそれぞれ3要素にどのように作用しているのか考えてみましょう。
低血圧時のアプローチの具体例
下肢挙上
下肢の血流が低下して体幹に血液を集めることで、体幹の循環血液量が増加し末梢血管は収縮します。
その結果、拡張期血圧が増加、一回心拍出量も増加して脈圧・収縮期血圧も増加します。
補液
直接的に循環血液量を増やします。
先程の下肢挙上と同様、拡張期血圧の増加、一回心拍出量の増加による脈圧・収縮期血圧の増加に寄与します。
昇圧剤
昇圧剤には様々な種類がありますが、日常的に使用される薬剤はカテコラミンと呼ばれる神経伝達物質のグループに属します。
カテコラミンは体が興奮・緊張状態のときに体内で分泌される物質群です。
緊張状態では胸がどきどきしたり手足が冷たくなるように、カテコラミンは種類によって
心収縮力を高めて一回心拍出量を増加させる(β刺激作用)
末梢血管を収縮させて末梢血管抵抗を増加させる(α刺激作用)
といった作用があります。代表的なカテコラミンを2つ紹介します。
ノルアドレナリン
強力なα刺激作用により末梢血管抵抗を増加させる。敗血症性ショックのような末梢血管が拡張していることにより血圧が下がっている場合には第一選択になる。
ドパミン
α刺激作用、β刺激作用により、末梢血管収縮作用、心収縮力増強作用がある。血圧の3要素のうち2つに作用する。
まとめ
この記事では以下について説明しました。
血圧の定義
「血液が血管の壁を内側から押す圧力」のこと
血圧に影響を及ぼす3要素
心機能
循環血液量
末梢血管抵抗
具体的な血圧上昇のアプローチ(下肢挙上、補液、昇圧剤)が上記3要素のどこに作用しているか。
繰り返しになりますが、私達が血圧を上げるためのアプローチは大きく3通りしかありません。
一回心拍出量を増やす(心臓を叩く)
循環血液量を増やす(水を入れる)
末梢血管抵抗を高める(末梢血管を閉める)
我々循環器内科は、(ショックバイタルを含む)血圧低下の患者さんの対応に際して、上記3要素のうちどの項目が最も血圧低下に寄与しているかを判断し、病態に即した治療を行います。
脱水であれば補液
心原性ショックであれば強心薬や機械的循環サポート
末梢血管拡張であればノルアドレナリン
などです。
あたり前のこのように聞こえるかもしれませんが、血圧が正常から逸脱している患者さんの対応をするときに、その理由を考えることはとても大切です。
また、最初のうちはなぜかわからないことも多いと思います。
実際の患者さんで、どうしてこの人は血圧が低い(高い)んだろう?と考える習慣をつけてみてくださいね^^
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