[創作論979] 新しいビール
ビール酵母の遺伝的多様性を利用して「まったく新しい味のビール」を作る試みが進められています。
麦芽から作られるビールは酵母の種類で分けられ、約15度~20度で発酵して終期には酵母が液体の表面に浮いてくるエールと、約10度の低温でゆっくり発酵し終期には酵母が底に沈むラガーがあります。
その他、発酵の温度や酵母の種類、製造方法によってさまざまな種類のビールが存在しており、新しいスタイルの実験的なクラフトビールも普及しています。
ラガーは原料に麦芽を使用し、二糖類を発酵に利用する酵母を用いて醸造されます。
酵母は糖をアルコールと二酸化炭素に発酵させる単細胞菌類であり、伝統的なラガー酵母としてはサッカロミセス・パストリアヌスが知られています。
サッカロミセス・パストリアヌスは数百年前に栽培化されてから醸造に最適化されてきましたが、母種であるサッカロミセス・エウバヤヌスという野生種が発見されていなかったため、新しいラガービールを作ることはほとんど不可能でした。
ところが2011年に、野生種のサッカロミセス・エウバヤヌスがアルゼンチンのパタゴニアの樹皮で発見されました。
それ以来、何百もの株が発見されたサッカロミセス・エウバヤヌスは、驚くほどの遺伝的多様性を持っていることが判明しています。
研究チームは、新しく発見されたビール酵母の遺伝的多様性を利用して、ラガーの風味と香りの幅を広げる交配種の研究を進めています。
特にチリ南部で発見された3つの酵母系統は、低温に耐性があり麦芽糖をアルコールと二酸化炭素に変換するのに効果的で、独特の香りも持っている点で優れていたとのことです。
研究では、サッカロミセス・エウバヤヌスと出芽酵母を交配させ、新しいハイブリッドラガー酵母の生産を試みました。
しかし、当初は発酵条件にうまく適応できず、望ましい特性を持つ株は生まれなかったそうです。
そこで、新たな交配種をビール麦汁に似た培地で6カ月間栽培して自然な進化プロセスを促進したり、優れた発酵能力とより高いアルコール濃度を生成できる能力を示した菌株を抽出したりすることで、より望ましい交配種の発見が試みられました。
結果として、商業醸造に必要な強い発酵特性を保持できるだけではなく、ラガーでこれまで嗅いだことも味わったこともない新しい風味を提供できる、まったく新しいラガー酵母を生み出すことができました。
本研究は醸造における生物多様性の重要性を強調したものであり、野生酵母の自然な遺伝的多様性を活用することが、革新的な製品を生み出す醸造の未来を形作る上で、重要な役割を果たす可能性があります。
素晴らしい研究ですね。
創作活動でも、酵母を活用できるといいですね。