海外ノマド-フランスの自然派ワイナリーさんに学ぶ、自然に生きる大切さ
私は「海外ノマド」と言っているが、数年ごとに国を移動しながら生活をし、又他の国に移動をするような、そんな「ノマド生活」を送っている。
そんな中でも、私が人生で一番奥の時間を過ごしているのは、フランス、のアルザス地方だ。アルザス地方はワインでも有名で、特に最近では自然派ワイナリーも多い。私はそんなアルザスの自然派ワイナリー巡りをして、彼らから自然に生きる素晴らしさを学んでいる気がする。
「豊か」に生きる考え方
自然の中で生きる豊かな暮らし
自然派ワイン生産者の皆さんは、ワインを通して自分の生き方や人生の哲学を教えてくれる気がする。
ワイン生産には美味しいぶどうを生産する必要がある。畑仕事をして、土にまみれて働く。ぶどうは手摘みで、多くの作業が手で行われている。
「毎日あくせく働いて稼ぐなんて…」
なんて書いてある記事や投稿を目にすることもある。その気持ちもよく分かる。でも、やっぱり、きちんと働いてそれに値する給料をもらうということは、普通のことだと思う。
人間が生きていくために、多くのものを生産していく必要があると思う。人は楽して稼ぎたいと思うのは当たり前だと思う。働かなくていいなら、働かないと言う人だっていると思うし、一生懸命汗水流して働く…という姿よりも、なんだかカッコいい名前の仕事に憧れる人もいるかもしれない。
また、時給で働くなんて…、会社の奴隷になるなんて…。ということを書かれた投稿や記事も見る。もっと自分の自由な時間があって、自分の好きなことをする…。旅をしながら仕事をする…、。
けれど、もっともっとシンプルに考えたら、人が生きていく為にはまず衣食住が必要で、これは人が一生懸命手を使って働いて築いて、生産していくものだと思う。そういう基本的な仕事をしながら、給料をもらうことは、とてもシンプルなことだと思ってしまう。
私が住んでいるフランスのアルザスという場所は白ワインで有名だが、私はワイナリー巡りをして、ワイナリーさんからたくさんの人生の哲学を学んでいる気がする。
彼らはワイナリーであるが、ぶどう農家でもある。彼らにとって、美味しいワインを生産するためには、美味しいぶどうを作ることが大切だという。そして、そこから美味しいワインを生産していく。小さな村で生産されたそのワインが超有名レストランに並んだり、日本まで輸出されたりする。
ワインはボトルだけを見て、その様々な情報と金額、評判などで飲むこともあるが、実際はそのボトルの中身、ボトルの先にある生産者さんがどんな人で、どんなワインを生産しているか、それが大事なんだと思う。ワインも、他の商品と同じで、高いワインはブランデイングされていたり、PRなど費用もかかっているだろう。けれど、そういう広告などをしないだけでも、ワインそのもの値段は抑えることができる。
今日本でも流行っている自然派ワインは、その生産方法が自然派、=完全に無添加でないこともあるが、ほぼ無添加で、自然に任せて生産したワインである。でも、もちろん、自然派ワインを生産するぶどうはオーガニックやビオデイナミの畑で自然の中で育てられたぶどうたちだ。自然に任せて生産させるワインは、機械や化学肥料を使わずに、自然に任せて育つ。
私の住む地方には見渡す限りのぶどう畑があって、秋にはぶどう収穫をして、そこからワイン生産をする。どこの国でも同じかもしれないが、今は若者は農家仕事を積極的にしないので、アルザスでも若者はあまりぶどう収穫をしないし、人手不足だそうだ。
ぶどう収穫は機械でもできる。そして、ソムリエ資格の試験などにも「ブドウ収穫は機械も手摘みもお同じ」と書かれている。けれど、美味しいワインを生産し、ブドウ収穫を手摘みでしているワイナリーは言う。
「機械と手摘みが同じなわけ、ないじゃないか。機械ならぶどうに、畑に負担がかかる。腐った実も一緒に全部狩られるんだ。」
ぶどう収穫なんて、1つ1つ丁寧に、素早く採って、時には他の人に指を着られたりもする(私は切られたことがある)。
そして、人間が収穫することによって、腐った実なども丁寧に取り除いていく。これは人間だからできることで機械では同じことができない。
ワインは高貴なものでもあり、着飾ったお金持ちの人が飲むような飲み物にもなる。けれど、私はそんなワインのボトルを見て、そんな風にワインを飲む人間よりも、泥まみれになりながら、自分の手がぶどうの匂いになりながら、こうやって1時間1時間、一生懸命働いて、重いぶどうを抱えて…その後に自分の積んだ土壌の、品種のぶどうのワインを飲むこと…私はこの仕事が好きだ。この時間、とても至福な時間だ。
畑を見ることによって、その隣にあるオーガニックでもない畑を比較することができる。畑や、土壌、その土地柄を見ると、どうしてここの畑のぶどうと、他の畑のぶどうが異なるのかも分かる。
もちろん、これは季節仕事であるが、それでも、畑の中で緑に囲まれて、朝早くから畑仕事をして、それから畑で朝ごはんを食べ、コーヒーを飲み、一仕事をしてから、ワイナリーでみんなと一緒にそこのワインを飲みながらランチをする…。ぶどう収穫は大抵朝食と昼食付きだ。
朝日を見ながら、ぶどう収穫をして、身体が痛くなったりしながら、今日も「生きているなあ」と感じることができる。そうやって稼いだ時には、稼ぎは少ないかもしれないし、最低賃金だったりもするが、ここにはお金で買えない、美しい景色と、美味しい空気と、ストレスフリーの環境にいられる。
仕事だけれど、音楽をかけながら、一緒に話ながら、それこそワイナリーさんによっては泊りこみでみんなで夜まで飲んで遊んで…。こういう時間を過ごすことも私は幸せだなと思ったりする。ストレスも少なく、人とのトラブルも少なく、プレッシャーも少なく、黙々とぶどうを収穫する。穏やかな時が流れていく。
人生、同じ時間を過ごすなら、もちろんたくさんお金を稼げたら、そのお金を何か好きなことに使うこともできる。けれど、仕事をしている時間が楽しくて、ストレスフリーでいられたら、良い人生だろうなあと思うことがある。
自然派ワイン生産者は自然派ワインを自由なワイン(VIN VIVANT)なんて呼んだりする。自分の好きなワインを好きなように生産するから、【自由なワイン】なんて呼んだりもする。自然に生きることは自由に生きること、でもあるのかもしれない。
モノつくりの仕事の大切さ
実は日本の農家なども人手不足と聞いたことがある。その反面、ワイン好きな方とかで「フランスでぶどう収穫を体験してみたい」なんて人もいる。そんなことを見て、世の中って、どうもうまくいっていないことがあるなと、感じることがある。私も先日知り合いを連れていって、普段できない素敵な経験ができたと言われた。
日本は若者不足なんて言われているし、農家や伝統工芸なども後継者問題があると聞くが、手を使って、何かを作るということが1つの芸術であり、私たちの生活に必要な仕事で、それこそ手に職が付く大切な仕事だなと思う。
だから、私は職人さん、生産者さん、ってすごいなって思うのだ。こういう人たちがいなければ、私たちの食べ物はなくなってしまう。
人間にとって一番大事な食をもっと大事にするべきなんだろうなあと思う。丁寧に育てられた食べ物は本当に美味しい。農家であれば、そんな美味しい野菜や果物が食べられたり、美味しい米を毎日食べることができたりもする。どこの国のどんな食材でも手に入る東京はすごいなといつも思うし、大金を払ってレストランで食べるのも贅沢だけれど、自然に囲まれて、こうして本当に美味しいものを食べられるのもすごく贅沢なことだと思う。
本当の「贅沢」は、こういう自然に任せた生活で、自分の食べ物を作ったり、自然の中で育った季節ごとの野菜や果物を食べて、そして、のんびりストレスフリーで育った動物の肉を食べる。鶏肉の味などもスーパーのものとは全然味が違う。そういう美味しいものを食べらえるだけでも幸せだなあ、贅沢だなあと思ったりする。
だから、そういう美味しいものを生産する人達は尊敬するし、自分は今はそういう職には就いていないけれど、時間がある時はぶどう収穫の仕事はするようにしている。少しでも自然に触れて、自分の口に入るものがどうやって生産されるのか、そういうことをちゃんと知って食べることが「幸せだなあ」と思ったりするのだ。
時給で働くこと
また、私は本業はアテンド通訳、日本語講師なのだが、時給という概念で考えれば、ぶどう収穫よりももっとちゃんと稼げる仕事だ。私の周りでも「日本人だから」ということで、日本語講師をしている人もいるし、何年も海外に住んでいるから、「通訳」をする人もいる。そして、インターネットなどを調べて、通訳の給料、通訳料金を調べて、平気で料金を書いている人もいる。
「すごい稼げる」と思うかもしれない、けれど実際は1時間の給料は1時間の仕事ではない。日本語講師も、教えるその時間だけではなく、
その1時間のために1時間準備、1時間宿題など、採点など1時間のクラスに3時間の労働
という計算だと思う。だから、もちろん最低賃金を考えたら、1時間20~30€くらいになるのかもしれない。ただ、これは大学で教えていても1時間の待遇は同じくらいだったりもするのだ。
時給が高そうな仕事でも、高給をもらうためには経験も積んで、これも手に職として1人前にならないといけないと思う。そして、1人前になるには5年~10年はかかると思っている。
職種によって、国家資格など、長時間勉強したり、研修したりするような職種だと給料も高いし、どんな仕事でも、その対価を支払う方にしても、支払ってもらう方も、それなりに時間やお金を「自己投資」をして得た知識や能力、経験があるからこそ、得る金額なんだと思う。
逆に、ぶどう収穫は仕事時間に畑に行って、そこから仕事をして、終われば終わる。残業などもない。ぶどう収穫そのものは、慣れている人や収穫が早かったり、切り方が綺麗だったり、という差は出る。
ただし、ワイナリーさんはそれ以上仕事をしているし、ぶどうの状況によるので、仕事時間は9時~5時というように決まっていないだろう。畑仕事の他に、販売もなるので、個人ワイナリーさんなどは特にしなければいけない仕事が多く、美味しいワインを生産しても、セールスが得意じゃない人もいるし、逆にプロモーションなどが上手なワイナリーさんもいる。
美味しいぶどうや良い畑、美味しいワインを作るのも知識や経験、もしくは才能があってのこそだと思う。
結局はどんな仕事でも楽して稼ぐのはなかなか難しいということで、不労所得を得るためにも、ある程度の蓄えが必要になってしまう。でも誰かのために、1時間いくら、ではないが、きちんと働くことというのは大切なことだと思う。
お金は決して楽して稼げない。
私はあくせく働くことはかっこいいと思うのだ。ちゃんと働いて、その対価をもらうことが人のあるべき姿でもあるし、ある程度のお金があれば、それ以上働き過ぎず、自分の時間も大事にして生きていければ、楽ではないが充実した生活ができるんじゃないかと思う。それはどんな仕事でも、給料が高い仕事でも、そして、給料が高い仕事でも、仕事をしている時間は実は通常の勤務時間以上働いている人も多くいる。どんな仕事も、人の見えないところであくせく働いているからこそ、お金を稼ぐことができるんだと思う。
けれど…もちろん、悲しいかな世の中は決して平等じゃないし、お金持ちがさらにお金を稼げるシステムが出来上がっている。
ただ、この不平等を、不平等だからとそれで諦めるのか、そんな環境でも頑張るのか、頑張った分だけ、例え時間がかかっても自分のやりたいことがあれば、いつかそれを達成できると思っている。自分のやりたいことがあって、それに向かって進んで行ける環境であれば、それはそれでなんと幸せなことだろうと思うのだ。
世の中は、お金がある人が更にお金を稼げるシステムになっているが、お金があっても、時間がない、自由がない、色んな理由で自分のやりたいことができない、しない環境もある。どんな不平等の中でも、不条理な環境でも、お金そのもに捕らわれなければ豊かな生活を送ることはできる。
本当の意味での豊かな生活とはお金で買えないものが多いと思う。本当に大切なものは目に見えない、それは物質ではないことの方が多い。自然に生きること・・・実はなかなか難しいことだったりもするけれど、そんな自然に任せて生きる生き方を自然派ワイナリーさんが教えてくれている気がする。自然に生きる、そして自由に生きる。そんな生き方ができれば良いなと思う。