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条文解説【著作権法第17条(著作者の権利)】
著作権法第17条(著作者の権利):
「1 著作者は、次条第1項、第19条第1項及び第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。」
本条は、著作者が、その創作した著作物について、「著作者人格権」と「著作権」を原始的に取得すること(第1項)、並びにこれらの権利は、登録などの手続き(方式)を要することなく、著作物の創作という事実により当然に(自動的に)発生するものであること(第2項)を定めた規定です。著作権制度の根幹部分を端的に述べた規定です。
著作者は、著作物を創作することにより、「著作者人格権」(18条1項、19条1項、20条1項)と「著作権」(21条~28条)という2種類の権利を享有することになります(第1項)。
▶人格権(著作者人格権)と財産権(著作権)
「著作権」は、著作権法上の正確な用語の意味としては、著作者の「財産的利益を保護する権利」すなわち「著作財産権」のみを意味します。これに対し、「著作者人格権」は、文字通り、著作者が自己の著作物に対して有する「人格的・精神的利益を保護する権利」を意味しています。そして、この「著作者人格権」には、「公表権」(18条1項)・「氏名表示権」(19条1項)・「同一性保持権」(20条1項)という3つの権利が含まれています。ベルヌ条約には、著作者は、その財産的権利(著作権)とは別に、「著作物の著作者であることを主張する権利、及び当該著作物の変更、切除その他の改変、又は当該著作物に係わるその他の毀損的行為で当該著作者の名誉若しくは声望を害するおそれのある行為に対して異議を述べる権利」を有する、とする規定があります(ベルヌ条約6条の2(1))。なお、同じくベルヌ条約には、美術の著作物の原作品等に対する「再売買の利益をあずかる権利」(いわゆる「追及権」)に関する規定(ベルヌ条約14条の3)がありますが、わが国は、このような権利を認めていません。
なお、著作者人格権は、著作者の一身に専属するため、譲渡することができない(59条)のに対し、著作権は、自動車や土地の所有権と同様に、売買や相続等によって、譲渡することができます(61条1項)。
▶「広義の著作権」と「狭義の著作権」
近頃では、「著作権」(以前は「版権」という古風な?用語―ちなみに「版権」という単語は著作権法のどこにも出てきませんーを目にすることもありましたが、最近ではめっきり見かけなくなりました)という用語を、新聞雑誌、テレビやネットなどで頻繁に目にするようになりました。それだけ世間一般にも「著作権」が認知され、その用語が浸透して定着しているということでしょうが、「著作権」という用語の正確な意味を知っていらっしゃる方は案外少ないのではないかと思います。「著作権」という用語は、まず、広義の(広い意味での)著作権と、狭義の(狭い意味での)著作権の両方の意味に用いられることがあります。「広義の著作権」は、「著作者人格権」を含む概念で、一方、「狭義の著作権」は、著作者人格権を含まない純粋な「著作財産権」つまり「著作権」を意味します。単に「著作権」といった場合には、法律上は、後者の「著作財産権」を意味します。
▶権利の束と支分権
上述した「著作権」(狭義の著作権、著作財産権)は、以下に示すように、複数の権利から構成されています。これを称して「著作権は、権利の束である」と言ったりします。権利の束である著作権は、別の言い方をすると、(1つの)「著作権」から複数の権利が分かれている、とも表現できます。そして、この「枝分かれ」しているそれぞれの権利を「支分権」と呼んでいます。
本条の第1項に明記する「支分権」は、次のとおりです:
〇複製権(21条)
〇上演権・演奏権(22条)
〇上映権(22条の2)
〇公衆送信権・公の伝達権(23条)
〇口述権(24条)
〇展示権(25条)
〇頒布権(26条)
〇譲渡権(26条の2)
〇貸与権(26条の3)
〇二次的著作物の創作権(27条)
〇二次的著作物の利用に関する原著作者の利用権(28条)
著作財産権としての著作権は、著作物の「複製」や「上演」「演奏」「公衆送信」「展示」等といった、著作物の「利用行為(利用態様)」に着目して、それぞれに応じた権利(支分権)が規定されています(他人の著作物を欲する第三者からすると、「どのような“利用”をすれば、どの“支分権”が働くのか」といった点を押さえることが重要です)。このことから、著作権は、著作物の利用行為について、権利者(著作権者)だけが排他的に第三者に許諾できる権利、第三者による無断の利用行為を排除できる(やめさせる)権利と言えるでしょう。
以上のように、さまざまな支分権を持つ著作権ではありますが、わが国の著作権は、著作物(2条1項1号、10条1項)の利用態様をすべてカバー(網羅)しているわけではありません。とりわけ情報技術の進展が目覚ましい現在、今まで想定されなかった「新しい利用形態」が出現する可能性が大いにあるため、このような利用形態に対し、著作権法上何らかの手当てが必要であるとの社会的要請が高まれば、「新しい著作権(支分権)」がさらに追加される可能性があります。
▶無方式主語
著作権及び著作者人格権を享有するためには、いかなる方式の履行も必要ありません(第2項)。このような考え方を「無方式主義」といいます。特許権に代表される「産業財産権(工業所有権)」は、特許庁(国の機関)へ「出願」して「登録」されてはじめて権利が発生するのに対し(特許法66条1項等)、著作権は、どこかの公的機関(文化庁等)へ出願(申請)したり、そこで登録されなくても、著作物を創作したという事実によって自動的に権利が発生します。同じく「知的財産権(知的所有権)」に分類される特許権と著作権ではありますが、以上の相違点は、是非覚えておいてください。
ベルヌ条約5条(2)第1文には、次のように、「無方式主義」の考え方が明確に示されており、著作権に関する無方式主義の考え方は、現在、国際的にも主流な考え方であるといえます(万国著作権条約3条1参照)。
“The enjoyment and the exercise of these rights shall not be subject to any formality.”
「これらの権利の享有及び行使には、いかなる方式(の履行)も条件とされない。」
【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/