コンテンツビジネス『著作権を担保に資金を融通する場合の注意点について』
『著作権を担保に資金を融通する場合の注意点について』
ここでは、「甲」が「債権者」つまり「お金を貸す側」で、「乙」が「債務者」つまり「お金を借りる側」という設定で解説します。「甲」も「乙」も所定の事業を営んでいる「会社(法人)」あり、「乙」の代表取締役は著名な作曲家で、「乙」はその著作権の譲渡を受けて、かかる著作権の管理を主な業務としている、とします。
甲が乙にお金を貸す(資金を融通する)際に、甲としては貸したお金が返ってこなかった場合に備えて、乙に対して何か「担保」を差し出すように要求することは通常みられるやり方です。ところが、乙には、その代表取締役である作曲家の著作権以外に、めぼしい不動産や事業設備その他「担保」になりそうなものがありません。そこで、甲は、乙が管理する著作権を担保に乙に資金を融通できないか考えました……。
著作権を担保にして資金の融通する場合、実務上、「質権の設定」と「譲渡担保の設定」という2つのスキーム(やり方、手段)があります。以下、「著作権を目的とする質権の設定」について、その留意点を解説し、最後に「著作権を目的とする譲渡担保の設定」について簡単に説明します。
著作権(著作財産権)も財産権ですから、質権の対象(目的)とすることができます(民法362条1項)。そして、質権は、著作権を担保に差し出してお金を借りた側(乙=債務者)と、著作権を担保に取ってお金を貸す側(甲=債権者)との間で交わされる「質権設定契約」によって発生します。
著作権法では、「著作権は、これを目的として質権を設定した場合においても、設定行為(質権設定契約)に別段の定めがない限り、著作権者(質権設定者=乙)が行使する」と、規定しています(66条1項)。これは、質権の目的となっている著作権にかかる著作物を効率的に利用するためには、質権者(甲)にその行使を認めるよりも、質権設定者(乙)に権利行使させて、そこから得られる収益で債務を弁済させる方が債権者(甲)の保護につながり、適切であるという趣旨で規定されたものです。
次に、甲乙間で質権設定契約が締結された場合、「著作権を目的とする質権の設定」は、文化庁に「登録」することで、質権者(甲))は「第三者対抗要件」を取得することができます(77条2号)。つまり、甲が質権の設定登録をしておくと,乙が自己の著作権を目的として甲に質権を設定した上述の例で、さらに、乙が「丙」に著作権を譲渡したという場合に、甲は、乙から著作権の譲渡を受けた丙に対して、自己の質権を主張することができます。また、乙が「丁」に対して(二重に)質権を設定したという場合にも、甲が自己の質権の設定登録をしておくと、甲は、乙から(二重の)質権設定を受けた丁に対して、自己の質権を主張することができます(注)。
(注) 同一の著作権に複数の質権設定が登録されている場合の権利の順位は、登録の前後によります。
以上のように、著作権を目的とする質権の設定を受けた場合には、速やかに「登録」を備えておくことが、リスク管理の観点から重要であり、かつ、必要なことです。
著作権を目的とする質権設定契約書の中には、実務上、「流質契約」に関する条項を入れておくのが一般的です。質権では、原則として、流質契約(契約による質物の処分)は禁止されています(民法349条)が、これには例外があって、「商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権」については適用されません(流質契約も許されます)(商法515条)。実際の契約書では、例えば、次のように規定します:
『第〇条(流質契約)
乙が本件債務を履行しなかった場合には、甲は、法定の手続によらず本件著作権を取得し、又はこれを任意に売却してその代金を本件債務に充当することができる。』
著作権を目的とする質権について、著作権法は、『著作権を目的とする質権は、当該著作権の譲渡又は当該著作権に係る著作物の利用につき著作権者が受けるべき金銭その他の物(出版権の設定の対価を含む。)に対しても、行なうことができる。』と規定しています(66条2項本文)。これは、質権者(甲)を保護するため、著作権譲渡の対価(著作権を売ったときの代金)や著作物の利用許諾に基づく対価(著作物の利用を第三者に許諾して、そこから得られる使用料・ロイヤリティー)、出版権設定の対価等に対しても、質権を行うことができる旨(いわゆる質権の物上代位性)を規定したものです(注)。もっとも、このような物上代位は、「これらの支払又は引渡し前に、これらを受ける権利を差し押えることを必要とする」(同項但書)ため、実務上は、差押えの手間を省くために、著作権者(乙)が取得した債権について質権者(甲)がその譲渡を迅速に受けられるように手当てした条項を定めておきます。
(注) 質権の目的となっている著作権が侵害されている場合には、別段の定めの有無に係わらず、著作権者(乙)は、その固有の権能ないし保存行為として、侵害行為に対して差止請求権を行使し、また、損害賠償請求、不当利得返還請求もなし得ると解されます。このように解するときは、「当該著作権に係る著作物の利用につき著作権者が受けるべき金銭」(上述)には、著作権侵害行為によって著作権者(乙)が受けるべき損害賠償金又は不当利得金も含まれると解することができます。
最後に「著作権を目的とする譲渡担保の設定」について簡単に説明します。
「譲渡担保」とは、(金銭)債権担保のため著作権を法律形式上は債権者(甲)に移転しておきますが、債務が弁済されれば、債権者(甲)に移転していたその著作権が債務者(乙)に復帰することを内容とする担保方法をいいます。著作権を担保に金融を得るための1つのスキームとして、著作権を目的とする質権の設定と同様に、実務上利用されています。とりわけ、上述した「流質契約」が認められない事例では、これらのスキームを選択することが多いと言えます。
なお、この譲渡担保の登録に関しては特に著作権法に定めはありませんが、少なくとも外形的には著作権が譲渡されていることから、実務上は、譲渡担保契約を登録原因とする著作権の移転登録(77号1号)を行うことになります(この移転登録は、質権設定の登録と同様に、「第三者対抗要件」になります。)。
AK