モデル小説の出版等の差止め(名誉・プライバシー等の侵害に基づく出版の差止め)を肯認した事例/判例セレクション~プライバシー権・人格権・肖像権・名誉権~

モデル小説の出版等の差止め(名誉・プライバシー等の侵害に基づく出版の差止め)を肯認した事例

▶平成14年9月24日最高裁判所第三小法廷[平成13(オ)851]
2 以上の事実関係の下で,原審は,次のとおり判断し,D,上告人A2社及び上告人A1に対して100万円の慰謝料並びにこれに対する遅延損害金の連帯支払を命じ,また,D及び上告人A2社らに対し,本件小説の出版等の差止めを命じるべきものであるなどとした。
(1) 本件小説中の「J」と被上告人とは容易に同定可能であり,本件小説の公表により,被上告人の名誉が毀損され,プライバシー及び名誉感情が侵害されたものと認められる。
(2) 本件小説の公表により,被上告人は精神的苦痛を被ったものと認められ,その賠償額は,1審判決が肯認し,被上告人が不服を申し立てていない金額である100万円を下回るものではないと認められる。D及び上告人らは,被上告人に対し,連帯して100万円及びこれに対する遅延損害金の支払義務がある。
(3) 人格的価値を侵害された者は,人格権に基づき,加害者に対し,現に行われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは,侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ,予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして,侵害行為が明らかに予想され,その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり,かつ,その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。
被上告人は,大学院生にすぎず公的立場にある者ではなく,また,本件小説において問題とされている表現内容は,公共の利害に関する事項でもない。さらに,本件小説の出版等がされれば,被上告人の精神的苦痛が倍加され,被上告人が平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがある。そして,本件小説を読む者が新たに加わるごとに,被上告人の精神的苦痛が増加し,被上告人の平穏な日常生活が害される可能性も増大するもので,出版等による公表を差し止める必要性は極めて大きい。
以上によれば,被上告人のD及び上告人A2社らに対する本件小説の出版等の差止め請求は肯認されるべきである。
3 原審の確定した事実関係によれば,公共の利益に係わらない被上告人のプライバシーにわたる事項を表現内容に含む本件小説の公表により公的立場にない被上告人の名誉,プライバシー,名誉感情が侵害されたものであって,本件小説の出版等により被上告人に重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるというべきである。したがって,人格権としての名誉権等に基づく被上告人の各請求を認容した判断に違法はなく,この判断が憲法21条1項に違反するものでないことは,当裁判所の判例(最高裁昭和44年6月25日大法廷判決,最高裁昭和61年6月11日大法廷判決)の趣旨に照らして明らかである。
論旨はいずれも採用することができない。

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