姉妹

ねえ、花壇って、花がない方が美しいと思わない?

あなたには分らないかもしれないけれど、という嫌味のこもった声色でもなく、かといって無感情のそれでもない、ニュートラルだけれど、どことなくはかなげな調子で姉は言いました。

確かに言いました。だけれども、誰に向かって言ったのか、少なくとも側にいた妹の私に言うでもなく、何者でもない何者かにはっきりと主張しました。そして、つづけて口ずさむようにつぶやくのです。

花のない花壇こそ美しい。

花のない花壇こそ美しい。

花のない花壇こそ美しい。

繰り返し繰り返しつぶやく姉の視線の先に、花壇もましてや花もない。

あるのは、夕闇迫る夕暮れの橙色にまどろむ無機質な白天井。

看護士の気配すらもない。

姉は、今、どんな横顔をしているのでしょう。

私は姉の横顔を確認するために、トキ、というふじと王林とをかけあわせたとされる品種のリンゴの皮をむく手を止めました。

花のない花壇こそ美しい。

花のない花壇こそ美しい。

花のない花壇こそ美しい。

だって、

花壇は、花を待っているから。

私は、姉の横顔の陰翳を確かめると、姉の表情が分るのが恐くなり、ふと、きまりの悪い笑みを浮かべながら目をそらしました。

と、同時に無性にアカシアの蜂蜜を舐めたい衝動に駆られ、そしてまた、今度は険悪な表情を剥き出しにしながら、健気に包丁を持ってリンゴをむいている自分を嫌悪しました。

自分の正体を確かめる術など持たないくせに。

リンゴの芯に、蜜は...

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