いつだってちんちんフリフリ
ちんちんフリフリしてるぼくに先生は手こずっていた。
「ちょっとは手で隠すとかしたらどうだ」 って言うけど、先生がそのまま立ってろっていうからしただけ。 廊下を行き交う下級生たちはキャッキャ言って喜び大騒ぎだし、ぼくはもう有頂天でちんちんフリフリの腰ふりダンスが止まらない。
痛てっ。もう、すぐ頭を引っぱたくんだから。 バカになっちゃうじゃないか。「もういい、そんなことしてないでこっちに来い」 と先生。ほら、お前らもシチューが冷めちゃうから早く教室に持って行きなさいと注意する先生。立たされたぼくの <ちんちんフリフリダンス> に見入っていた割烹着姿の給食当番の児童たちは落胆のタメイキとブーイング。
なんだよー、もうおわりかよー。
そう言うと、ふたたび面倒くさそうに鍋が乗った台車を自分たちの教室に向 かって運び始めた。ぼくは再び職員室に引きずり込まれた。「もういいから早くパンツ履いて教室に戻れ」 と言ってまた小突かれた。
「ほら、ここにあるからな」と言ってあごで指図された先には、モップに引っ掛けられたぼくのパンツと紺色の体操着の短パン。 田上くんが届けにきたらしい。早く履けっていうけど、先生がちんちん出して廊下に立ってろっていうからしたんじゃないか。ったく大人は理不尽だと思った。
二学期が始まってしばらくした頃だったと思う。その日の四時間目の体育がその年の「プール納め」だった。もうこの小学校のプールに入る事も無い。そんなセンチメンタルな気分の日には何か思い出作りをしなければならないのだ。ぼくは「思い出に残るなにか探し」という使命感に苛まれた興奮と抑えきれない高揚感に包まれていた。小学校生活最後のプールが終わってしまうのだ。
「よしっ、最後のプールが終わったらフリちんで校内を走り回るぞ」
仲の良かった悪ガキ三人で話し合った結果、当時世間で流行っていたストリートキングという真っ裸で街を走り抜けるあのプレイを真似て、ラストプールセレモニーを敢行することがふさわしいという結論になった。
フリちんランナーの人選には苦慮した。真っ先に立候補した冨田くんだけど、 ちょっと早く大人になってしまっていて、お前は毛が生えてるからヤバいってことで辞退してもらった。子供ながらになんとなくその辺のモラルハザード的な判断基準があった。結局、あそこがまだクレヨンしんちゃん的なビジュアルの田上くんと加藤くんがぼくの露払い的なサポーターとして人選された。
プールが終わり決行の時を迎えた。
着替え終わった他のクラスメイトを尻目に。行くぞーっというかけ声で廊下に躍り出るぼく。残りの二人もフリちんで三階の廊下に躍り出る。隣の教室から着替え終わった 女子が気がついて。「もー、玉井くんやめなさいよーっ」と怒号を浴びせる。ぼくの気分かはますます高揚する。まずは音楽室を目がけて三階廊下を駆け抜ける。みんなーっ、おめでとーっ。何がめでたいのかわからないが奇声を上げながら先陣を切って走り続けるぼく。後ろには 主旨に賛同した二人の仲間が同じくフリちんで続く。いや続くハズだった。 しかし、振り返る後ろには誰もいない。前を手で隠した田上くんと加藤くんが、廊下にちょこっと出たところで引き返す姿が見えた。いくじなしめ。
もう、戻れない。
よし、ここからは一人旅だ。
三階廊下の突き当たりの音楽室を過ぎて非常階段口で折り返す。他のクラス の子たちが沿道で旗を振ってくれている。もちろんそんなイメージってことだ。「いけっ、行けぇーっ」引き返した6年2組の教室前では無責任なクラスのみんなが奇声を上げてぼくを囃し立てる。
そうだ。そうなんだよ。ぼくはみんなの代表なんだ。そんな声援に気分がさらに高揚する。
「バカなこと、やめなさいよ」
交換日記をしていた大好きなゆりちゃんが、一歩前に出て言葉を投げつける。うるせえ。男にはやらなきゃならない大切な節目ってのがあるんだぜ。もう、喧嘩の最中のイヌみたいに痛みなど感じないぜ。なーんて粋がってたけど、ぼくはゆりちゃんの叱責にちょっとマズいことになったかもって思っていた。でも、止まらない。フリちんのまま二階の廊下を往復して、一階の放送室にたどり着いた。よし、ここまでは計画通りだ。
ぼくは放送委員だったので機械の扱いには慣れていた。お昼の放送は始まってたが番組を担当していた下級生を蹴飛ばしてミキサーコンソールの前にフリちんのぼくは座った。カフを上げてマイクに向かって叫ぶ。予定通りの声明の発表だ。
「今日からこの学校はハレンチ学園に生まれ変わりまーす」
言っちゃった。自分の声がコダマする。うつろな目をしたトランス状態。はぁはぁ。ふぅふぅ。興奮状態はピークだ。
恍惚の時間はセミの一生くらい短かった。ぼくはあっと言う間に駆け込んで来た先生に羽交い締めにされ、ちんちんフリフリのまま教育相談室を経由して職員室に連行された。
そして「そんなにちんちん出したいなら、そのまま廊下に立っとけ」そう言われたぼくは下半身まる出しの格好で職員室の前の廊下に立たされた。ふふっ、ぼくはしめしめと思ったよ。ここからがエクストラエキジビションタイムとなるのだ。
興奮冷めやらぬぼくは惜しげもなくちんちんを縦に横に振り回して、得意の腰フリダンスを始めた。目の前の廊下を行き交う給食当番の児童たちは大喜び。クレヨンしんちゃんはこのぼくがモデルになったといっても過言ではないだとう。
その後の顛末。
「あんたそういうことは毛が生えてからにしなさい」と学校に呼び出された玉井ママは先生の前でそう言って、懐の深さを見せてくれた。その週末に催された、交換日記をしていたガールフレンドのゆりちゃんの誕生日会。いつもの通りタカラの「手探りゲーム」をしたが、箱の中でぼくの親指をちぎれそうになる程ツネリやがった。まったく了簡が狭い女だ。卒業まであと半年しかないというのに、ぼくはゆりちゃんにフラれることなった。交換日記はハゲ山に捨ててくるからねと言い放たれた。
そんなちんちんフリフリ騒動があったぼくの小学校時代の最終コーナーだけど、今思い返すと古き良き昭和の小学校だったなぁって思います。先生には容赦なくぶん殴られたり、ぶっ飛びすぎた小学生がいっぱいいたりしたけど。あーゆーのは、今ではコンプライアンス的にぜーんぶアウトだと思います。
ちょっとトピックは逸れるけどこんなこともありました。
ゆりちゃんにフラらたぼくを気遣って「触っていいからね」といって、それほど興味のない豊満なおっぱいをぼくに触らせようとした佐藤さん。もう、やってる事の意味がなにがなんだか分からない。
女にフラれたくらいどーってことない「これから玉井、いいか、お前はお国の為に尽くすのだ」 と言うのはクラスで一番早熟男子の冨田くん。この子もぶっ飛んでいた。冨田くんはぼくのプール納めの奇行に感服したらしく、戦艦大和を引き上げる計画に参加して欲しいと懇願された。冨田くんは小学六年生だ。将来の夢は「三島由紀夫になる」っていうんだから更にぶっ飛んでる。ぼくに冨田くんの言ってることがとんちんかん過ぎて、毛が生えると面倒くさい子供になっちゃうんだ なぁなんて思っていた。
ぼくはそんなことより、ちんちんフリフリで嫌われちゃったゆりちゃんとどうしたら仲直りできるか。そのことで頭が一杯だった。叶わなかったけどね。
思い出ってのは不思議。昨日のことは覚えてないのになんで 五十年前の事は委細に思い出せるんだろう。甘酸っぱくてほろ苦い。色や匂いだって鮮明に蘇る。
もう十年くらい前になるけど、そんな小学校時代の学年同窓会があった。初めての全体同窓会。会場のあるホテルに早めに着いてしまったぼくはクローク脇のソファで時間を潰していた。手持ち無沙汰にスマホを弄っていると一人の女性から声をかけられた。
「すみません〇〇小学校の同窓会はこの階でしょうか?」
「あっ、はい。ってか私も同窓会の参加者なんですけど」
「えっ、どなたでしたでしょうか?」と、彼女はぼくがわからないようだ。
「2組の玉井ですけど。た、ま、い」
とは応えたものの、ぼくも彼女がだれだったかぼくのプロファイリングにまったくヒットしない。目の前にいるのはちょっと妖艶なエッチっぽいおばちゃんだ。
「えーっ、た、玉井くん!? 私、わたしよっ、信子。さとうのぶこよっ」
うわっ。あの、いつでもどこでも豊満なおっぱいを触らせてくれた奇特な佐藤さんか?どおりでちょっと妖艶でエッチっぽいハズだ。私立の女子中学に進学しちゃったから卒業して以来、四十年ぶりの再会ってことになるよ。心無しかおっぱいは小さくなった感じに見受けられた。
「すっごーい、玉井くんだわ」
「インチキな産婦人科の先生みたいになっちゃったわ ねー」
ふん、余計なお世話だ。
「まだ、おちんちん出してんの?」
えっ、お前よく覚えてんなぁそんなこと。「んー状況に応じてたまに出してるよ、ってんなわけないだろー」と一人ボケツッコミで切り返したぼくの言葉に、ぶふっと笑う佐藤さん。
「佐藤さんもまだみんなにおっぱい触らせてんの?」
そう聞こうと思ったけど、飲み込んだよ。だって、もういい大人だからね。うふふ。
でも、まだ触らせてそうだな。
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