父、余命1ヶ月っていったじゃないか。
どうして。1ヶ月っていってたのに。
「来週までもたないだろうから、くるなら早いほうがいいって」
「今は痛み止めを点滴して寝ている状態。話すことはできない。」
わたしは残業帰り、改札前で茫然としている。
動揺して、社員証を改札にかざす。
「どうするかは、あなたが決めていいよ」
「でも、○○は、会わせない方がいいかも。トラウマになっちゃう」
「たった数日で別人みたい。」
孫を気遣う母。
父は、ギリギリまで我慢していたのだろう。
テレビを見るしかなかったあの部屋で。
「このまま、会わなくてもいいと思う」
母なりの優しさ。
でも、他の言葉はでなくても、
「それは、無理だ。それだけは無理。」
行かないという選択肢はなくて。
息子のことが気にかかる。
頭が働かず、考えると言って、電話を切った。
息がしにくい。
おかしい、心の準備はしていたはずなのに。
電車に乗って、席に着いて、涙が出る。
拭くこともせず、ただただマスクを濡らす。
帰り道もずっと泣いている。
家に着くと、「おかえり〜〜!!!」と息子の声。
うまく言葉が出ない。
かろうじて、「ごめん、パパ、ちょっときて」
夫、異変を察知して、すぐに階段を降りてくる。
ぼたぼた泣いているわたしを抱きしめる。しばらく、肩で泣くわたしを抱いて、優しく聞く。
「お父さん?」
また泣くわたし。
顛末を話す。もう、行くなら明日。
でも息子を連れて行くか迷ってる。
どうおもう?
夫は、少し考えて。
「家族で行こうよ。まだ、いきてるから。がんばってるから」
夫のことばが、働いていない脳みそに優しく染み渡る。
深く、呼吸する。
「そうだね」
決心が固まる。
「まず、息子に話そう」
部屋に入り、息子の見ていたテレビを消し、お話があるんだ、という。
わたしの顔はびしょびしょのまま。
息子は心配そうな顔をしている。そんな息子の両手を握る。
「おじいちゃんがね、今、病気で、病院にいるの」
「今、お話できないけど、会いに行きたいんだ」
「○○くんも、会ってくれる?」
「いいよ!」少し考えて、「ちょっと怖いけどね」
おどけた顔でいう。
夫とわたしは顔を見合わせて笑う。夫も、目が赤い。
「おじいちゃんに、ぬいぐるみもってく!!」
「おじいちゃん、ありがとうっていうかなぁ〜?」
よりにもよって、大きいパンダを持って行くという。
彼は、きっとわかっていない。
でも、伝わっていると信じたい。
「おじいちゃんと、お話しできなくても、だいすきって伝えてあげてね。」
最近の彼のお気に入りの、体を折って、ゆっくりとうなづく、お返事で。
「うん!!」
拝啓 明日のわたし
お前も、ちゃんとパパに愛してるっていうんだよ。