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iri 「neon」 アルバムレビュー



iriイリとは

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【プロフィール】

神奈川県出身。地元のJAZZ BARで弾き語りのライブ活動を始め、2014年ファッション誌NYLON JAPANとSony Musicが開催したオーディションでグランプリを獲得する。HIP HOP/R&Bマナーのビートとアップリフティングなダンストラックの上をシームレスに歌いこなすシンガーソングライター。

2016年ビクターよりメジャーデビューし、iTunes Storeでトップ10入り、ヒップホップ/ラップチャートでは1位を獲得。翌年にはNikeのキャンペーンソングを手掛け話題となる。ChloeやVALENTINO等ハイブランドのパーティーでライブするなど多方面から注目される新進女性アーティスト。近年フランスのフェスや中国でツアーを開催するなど海外でのライブにも出演。

昨年10月にデビュー5周年を迎え、「iri 5th Anniversary Live “2016-2021”」を名古屋、福岡、大阪、東京で開催し、BEST ALBUM「2016-2020」をリリース。11月23日にリリースされたRADWIMPSのアルバム「FOREVER DAZE」に「Tokyo feat.iri」で参加。
(iri OFFICIAL WEBSITEより)


「neon」を聴いた /クールマイン的見聞録

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来たる6/4に待望の仙台公演が決定しているiri
デビュー5周年を迎え、タイトルが「2016-2020」なる初のベストアルバムをリリースした一昨年。そして今年2月には通算5枚目のアルバムである本作、『neon』を引っ提げての全国8ヶ所のホールツアーという事で期待が高まるばかりだ。

コロナ禍をサバイブし新作を発表したアーティストの音源のプレイボタンを押すのは、いつだってジャンル関係無く高揚する。痛みや苦悩を伴う音楽活動を強いられながらも決して希望を捨てず、フレッシュな音を届けてくれる事への感謝とリスペクト。アーティスト本人が否応無しに自分自身と対峙させられた多くの時間の先に辿り着いた現在いまの姿、そしてそこにはどんな想いや願いが込められているのか。多くの音楽人が自我に立ち返っている。時代の音から目(耳)が離せないのだ。


”ネオン”というタイトルから察して、さぞかしカラフルできらびやかな音のレイヤーが、色めき立つ夜の街を彩るように広がっていくのだろう・・・そう安易な想像をしていた。しかしそんな浅はかな素人考えは、再生するや否や置いてけぼりにされる。美しくも不穏なピアノの旋律にボトムの太いビート、そこに気怠い歌声で「が音はない」「もう戻らない」「もう戻れない」「もう守れない」と続いていく。予想に反しダウナーな滑り出しに面食らい、空想のネオン管の前で胡座あぐらをかいていた自分の聴覚と思考を慌てて軌道修正し、スピーカーの音の波に合わせた。ジャケットを手に取りタイトルを再び確認すると『はずでした』の文字。終盤声の通信回線がブツッと切れたかと思うとノイズコラージュのような音の渦の彼方に飲み込まれて行ってしまった。冒頭から前後不覚の宇宙で迷子になった気分だが不思議と気持ちの良い裏切りだ。裏切り?いや違う、これは”リアル”な心象に他ならない。誰しもが各々の「はずでした」を抱えて生きているのだから。かといって厭世観えんせいかんにまみれた恨み節なんかじゃない。それはこのアルバムを聴き終えた時に分かる。

銀河の果てから束の間の帰還をした彼女の声を追いかけながら2曲目以降アルバムを聴き進めていく。2019年発表の『Only One』に続き『』は異例の2作連続で国際ファッション専門職大学のTVCMに起用された。ターゲット層へのマッチ度の高さ・若者からの求心力の高さの証明と取れる。ダンサブルなビートの波を力強くサーフしていくパワーが、これからクリエイティブな世界で自分のカラーを大切に生きて行こうとする学生の援護射撃となっている。

続く「」ではエモーショナルなギターのアルペジオに、レイドバックしたヴォーカルが気持ち良いフロウで魅せ、浮遊感のあるトラック。(これがまた最高!)聴いてる内にいつの間にか水の上に浮いているような感覚を覚えた。これから暑い夏が来る。その時にまたこの曲を聴いて自分も束の間のさなぎ時間で物思いにふけるとしたい。

4曲目はアルバムのリードトラック、『摩天楼』。頭より身体が先に反応するグルーヴィーなナンバー。収録曲中、突出してアッパーな音だ。”都会の夜のドライブに合う曲2022"なんてものがもしあったら上位間違い無しだが、くれぐれもスピードと車内ダンスは控え目に!高級車のCMに使われていても不思議じゃないぐらいラグジュアリーな光沢感のある曲だと思う。共同製作陣のサウンドプロデュース面の手腕も光りまくりの本作だが、この曲は非常に洗練された曲なのに80s〜90s歌謡曲の懐かしさを不思議と感じたのだが、自分だけだろうか。偶然の産物では無く仕掛けのような狙いだと勝手に解釈している。終盤の畳み掛けも超クールだ。


「さあ何から始めよう」とヒップホップアプローチが強めの『目覚め』ではまた違う軽快な印象を与えてくれる。作品コンセプトとしてあった物語の展開もここがターニングポイントのように受け止めた。どこか満身創痍まんしんそういで拭えない喪失感のようなものに立ち向かう気概のラッピンは、明らかに前半と毛色が違う。色々手を出しても器用貧乏にならないのは流石。圧倒的音楽愛から手繰り寄せるスキルの高さを感じずにはいられない。


続く折り返しの6曲目、『はじまりの日』は是非生のバンドアンサンブルでで聴いてみたい1曲。ギターの響きに胸を焦がした。ストレートに「いい曲だなぁ」と思わず声が漏れる。彼女の原点というか、”シンガーソングライター然”とした姿を垣間見れた気がする曲であった。ともすると失恋ソングのように解釈してしまいそうだが、これは天国にいる大切な人達を想って出来た曲らしい。そう知ってしまった以上、浸透度が倍増した。自分自身もここ数年立て続けに親しい人を亡くしていたので、歌詞の中の「君が残した日々は 穏やかなままで ありふれた午後に 変わらないままの君は僕の中」はその後何度も繰り返し聴く度に沁みていったのだった。


7曲目の『Waver』は彼女のファンの愛称だそうだ。ラテンミュージックにインスパイアされたような明るいトラックで、陽の光のように暖かく照らす。きっとWaver達にとって大切な曲になったであろう。

続いて『雨の匂い』はギターのフレーズのループが耳に残る、ちょっと変わった曲。ブーンバップビートに乗せた押韻の言葉選びもユニーク。

かと思えば次の『darling』ではメロウなラブソングを聴かせる。とは言っても”あなたが大好きよ”とか”世界で一番愛してる”の世界線では語られないストーリー。フェイザーで揺らめいてるシンセサイザーが徐々に重奏で歌の緩急をフックアップしくようでソウルフル。音の定位も臨場感があり、声がすぐ近くで聴こえるようで生々しい。

そして10曲目の『言えない』も切ないラブソングだが、センシティブな心の機敏を抽象的に歌い上げ、今の世相にも落とし込めたかのような焦燥感がある。エレクトロポップのトラックに目まぐるしい情景が浮かんでは消えるようだ。反芻はんすうされる「移り変わる世界の中で僕らは何を残せるかな」がリフレインしている。

11曲目、『baton』でアルバムはさながら大団円を迎える。自身の音楽のキャリアは弾き語りからスタートさせたという彼女。ちょっとルードな歌い方もグッと来る。これぞ真骨頂と言わんばかりにメロディが秀逸で感動的であるが故、実際今もアルバムの中で一番聴いている曲だったりする。爪弾くアコギで幕が開けるこの曲は(既にここで鷲掴みされているのだが)徐々にストリングスで厚みを増し、壮大な揺らぎを拡げていく。めちゃくちゃイイ映画を観た後、エンドロールでこの曲を聴き終えてから映画館を後にしたい気分。青春時代の恋愛を回想しているとも解釈出来るリリックだが、実は両親への想いを綴ったものだそうだ。もう一度リリックシートを読み直すとまた違う表情が浮かび上がった。答え合わせや種明かしはつまらない側面もあるが、真相を知ればより曲に対しての愛情が深まる事もある。最新のビートミュージックを咀嚼そしゃくする力とセンスだけでは撃ち抜けないハートだってあると思っている。


いよいよアルバムもラスト12曲目『The game』。ストリート感のあるファンキーグルーヴなHIP HOPで締め!かと思いきや、2つのタイプの違う曲をドッキングさせたかのような発想で、一筋縄ではいかない遊び心満載なライミングと温故知新を地で行くサウンドメイク。ここに来て置きには行かず「まだまだこんなもんじゃないぞ。手の内は明かしていないぞ。」と舌を出すよな痛快さ。様々タイプの違う曲をバラエティに富んで並べてはいるものの、アルバム全体としてはとっ散らかった印象は無いばかりか、ダウナーなオープニングとのコントラストが癖になり、物語を始めから読み直すようにリピート再生してしまう中毒性すらある。歌詞にもある通り、今の自分をさなぎであると例えているiri。(ジャケットの衣装はその伏線回収。)ここから先、果たしてどんな進化や深化を遂げながら更に美しく羽化するのか、非常に楽しみであり、応援したいアーティストの一人である。今回の全国ツアーではその羽根の片鱗を見せてくれるかも知れない。

iri 雑感


彼女の声の魅力を「中性的」という感想で表現しているのを散見するが、どうも少しだけ違和感が残る。言わんとする事は大いに分かるが、個人的には今ひとつ座りが悪い。自分の感想はもっとクリアで、”ドンズバ感”が魅力だからである。つまり「女性だけど男っぽい」だとか「性別が分からない」等の印象を抱いたことが無い。一聴して「あ、この人カッコイイ声だな。」に尽きる。この場合の”カッコイイ声”の意味合いの中には”本格派”だとか”説得力”が多分に含まれる。声質と音楽ジャンルの世界観との親和性が抜群だからこそ訴求力は強く、故に刺さる。

特段ブラックミュージックを音楽的ルーツに持った日本人を聴く時に、耳障りが良いのは声の雰囲気やその再現度だったりもする。ジャズシンガー然り、ソウルシンガー然り、ラッパー然り、レゲエシンガー然り、「日本人離れしてるなぁ〜」だったり「本場の人みたいだな!」みたいなインパクトを与えてくれつつ、その上で「◯◯っぽい」的なワナビーで終始しない”オリジナリティ”を兼ね備えたアーティストに更なる感動を覚えて来た。本物志向でありつつ、玄人衆だけを唸らせるようなニッチなやり口ではなく、大衆音楽として一人一人の人生や生活に寄り添うことが出来る、これを実現させることがいかにシンガーとして尊い事か。

歌の上手さだけではどうにも克服出来ない部分の話。イメージや憧れに近付けない要因として”持って生まれた声質そのもの”ってないだろうか。例えばその昔、ブルースシンガーが理想の声質に近付ける為に連日の大酒と膨大な煙草量でわざと声を潰していた・・・なんてのもよく聞いた話だ。それぐらい音楽に対して声の相性を希求する人も多い。声質はその歌い手が板の上で纏うまとうムードにすら直結するだろう。言わずもがな、ご本人も楽曲のクリエイトやリリックワークと併せて、今日に至るまで発声に関しても並々ならぬ努力を積み重ねて来たであろうとは思う。ただもうこれは努力ではどうにもならない「天賦の才能」のような分かれ道が音楽の世界にもあるような気がしてならない。iriにはそれが”ギフト”として備わっている。彼女のご両親とその身を置いて来た音楽環境がそれを与えたのだろう。

【作品情報】

タイトル:「neon」ネオン

リリース:2022年2月23日
初回限定盤(CD+CD)VIZL-2011 / ¥3,960
通常盤(CD)VICL-65662 / ¥3,300

アーティスト:iriイリ

販売元:ビクターエンタテインメント

2020年11月に配信リリースされた「言えない」、2021年にリリースされたEP「はじまりの日」のタイトルトラックである「はじまりの日」、国際ファッション専門職大学TVCMソング「渦」のアルバムバージョンを収録。
”摩天楼"のプロデュースを手がけたYaffleをはじめ、TAAR、mabanua、ESMI MORI、KAN SANO、%C、Shin Sakiuraなど、iriの作品ではお馴染みのクリエイター陣が名を連ねた全12曲。
初回限定盤はCD2枚組。ベストアルバム『2016-2020』に惜しくも収録されなかった曲たちから、隠れた名曲など16曲をiri自身がセレクトした裏ベスト的なディスク「iri select 2016-2020」が付属となる。


【コンサート&アーティスト情報】

iri S/S Tour 2022 “neon”

iri S/S Tour 2022 “neon”

2022年6月4日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
@仙台PIT2022年6月4日(土)
指定席 ¥6,600(税込)
※1ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可
※お一人様2枚まで

▼インフォメーション
iri 仙台公演

▼iri
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