『スーパームーン』
三度目の入院に連れ添い行く。
先に出て 車で待っていると、
「三度目だと、バックも持ってくれないのね」
と、笑いながら乗り込む妻。
「帰って来ちゃったね」
6階西病棟。
また違う病室だけど、入り口には、既にネームプレート。
妙に感慨深そうに、見つめる妻。
「今でも、自分だとは思えないなぁ。コレ、私のことだよね?」
独り言のように、入室の儀。
窓からの景色を確認しながら、方角を尋ねる妻に、
「ホラ。あの建物が見えるだろ、だから、南だよ」
「それに、昼のお日様がこんなに入ってるじゃないか」
と、三度目の説明をする。
「フムフム」
妻は、早速パジャマに着替えを済まし、ベッドにあぐらをかいて、天下を睥睨してる。
「アッ。そうだ!」
(ポンと手を打ち、その手を口の前で合わせたまま)
「おととい、スーパームーン見るの忘れたね」
とポツリ。
「そうだったね。今晩、ここからだと余程大きく見えるだろうなぁ」
( ”罪無くして配所の月を見る” か……。)
と、僕が窓を開けたところで、
ちょうど入ってきた看護師さんに注意された。
「すみません!空調が入ってますのでお閉め下さい」(ピシャリ)
妻とふたり、目を合わせ、ちょっとボソボソ。
「さて、帰るよ。明日また来るから、いいね」
すると、
(無いことに)
「よしっ、これから闘いだぁっ。ガンバルゾー!」
どっちがどっちなんだか、威勢のいい声で見送られた。
家に帰って、ひとり静寂の質を確認する、扇風機の音だけの昼下がり。
(そういえば、蝉はどうしたんだろう?)
天気が良いのが幸いだ。
(今夜も、きっと月は出るだろう)
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