覗いた深淵のその先は。
人とのお付き合いはとても不思議なもので、自分のプラスになったりマイナスになったりする。
もちろん人付き合いにも濃淡があるが、私は他人からの影響を受けやすいので人付き合いもきちんと考えなければならない。
そんなことを思いつつ、20数年で得た人との深淵を記録することにする。
「僕はPATEK PHILIPPEなんてクソだと言ってる君が見たい。」
とある上長に言われた言葉だ。
今ある環境や恵まれた人間関係に対するとてつもない感謝とそれらを失ってしまうのではないかという恐怖で無意識に涙が頬を伝っていたそんな時。(まだ自分にそんな感情があるのか…と思い出すと不思議な感情になる。)
その人は「僕はPATEK PHILIPPEなんてクソだと言ってる君が見たい。」とどこか遠い目をしながら、いたく優しい表情でつぶやいていた。
PATEK PHILIPPEは時計愛好家からしたら生涯で一度はつけたい時計の一つだろう。それは私も変わらない。一度きりの人生、金無垢のゴールデン・エリプスをつけたいと強く思っている。(カラトラバでもなくノーチラスでもないところが我ながらセンスが良い…!)
彼は上長ながら会議などの発言はペラペラである。(半紙よりも薄い)
ただ、その人自身が持つ奥行きは実は仕事では測れないものだと教えてくれたのも彼である。
彼が言いたかったのは「PPをクソだと思えるほど稼ぐような人間になれ」ということでは全くないと思う。本当に言いたかったのは、私が権威や権力に靡きやすい(=周りに影響を受けやすい)ことを見透かした上で「PPをクソだと思えるぐらい価値基準を持った人間になれ」ということだったんだろう。
「君の初恋は師の幻影なんだな」
私はずっと師の幻影を追いかけている気がする。まさに初恋であり究極の片思いでもある。あの人のようになりたいと。ただ、今の師を追いかけているわけではなく、あの頃感じた大きな器を追いかけて恋をしているのである。
そんな幻影が「僕はPATEK PHILIPPEなんてクソだと言ってる君が見たい。」という言葉に見えた気がしている。間違いなく、愛のひとつであるなぁと。名前をつけるならば「人間愛」であろうか。私が持つ可能性を疑いの曇りひとつなく真っ直ぐ見つめてくれた器に触れた証なのだろう。
「家族愛」や「性愛」ではない愛の形を知ることができた幸せを改めて噛み締める日曜である。