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「シャン・チー/テン・リングスの伝説」の中国公開読み違え。

「シャン・チー/テン・リングスの伝説」はMCUが投入した中国戦略タイトルとなるはずだった。
「中国人のマーベルファンが応援」するために、もっと早くにアベンジャーズ入りもさせたかっただろう。近作のMCU映画は中国では大ヒットしており、この国が最も重要なお客様であることを隠していないマーベル。「エンドゲーム」はアメリカよりも2日早く公開したし、キャストがプロモーションのために飛んできていたし。
色々あってシャン・チーのMCUメンバー入りは先送りになっていた。満を持しての2021年、フェーズ4という新しい波の中で、期待の高まる映画「シャン・チー」が登場したが、今の米中関係やコロナ禍における公開は、想定以上にタイミングが悪かった。

ディズニーとしては実写「ムーラン」のトラウマもある。
「ワイルドスピード」や「トランスフォーマー」のように、本国アメリカよりも客の入るメガタイトル群に、ディズニーが乗らないわけがなかった。「ムーラン」は自社のアニメが元にあるとはいえ、中国では誰でも知ってる伝説を扱い、国内ロケやスターの起用でワールドワイド14億人の華人に売り込む超大作になるはずだった。だが、ロケ地の政治判断ミス、主言語を英語(中国国内版はアフレコなのでリップシンクしてない)にしてしまったこと、出演俳優のSNS発言などでとにかく悪い方にしかいかなかった。デキもそんなに良くなかった。

「ムーラン」は2020年コロナ影響で配信メインの公開となったが、中国では高画質フォーマット(IMAX等)も含めた3D吹替版で劇場でかかった。僕はもちろん見にいったんだけど、空席も多く、現地の子達は「あれはちょっとね…」と冷ややかだった。

「シャン・チー」はこの失敗を学習したはずだ。でも考えに考えた結果、忖度しすぎで、裏目に出てしまった。中国文化に媚びすぎてしまい、逆に馬鹿にしてるのか、くらいの印象となった。「シャン・チー」に出てくるのは、西側から見た中国世界、なのである。誤解されそうな書き方になるが、「白人が描いた中国人」なんだ。「カンフーパンダ」か。この錯誤が自爆を引き起こし、なんとも痛ましい。

ひとえに要因は、「ブラックパンサー」のような覚悟ある作り方にしなかったからだ。「ブラックパンサー」はスタッフ・キャストのほとんどを黒人で固めた。人種問題意識が高まる中、アカデミー作品賞にノミネートされるくらいの熱狂を得たわけだ。
映画「シャン・チー」はポリティカルコレクトネスとしては微妙だ。主演のシム・リウは中国系だがカナダ人だ。オークワフィナは中国系の父と韓国系の母を持つアメリカ人。大スターであるトニー・レオンやミシェル姉さんは、「ハリウッド映画が望むチャイニーズ」を割り切って演じている(プロの仕事として)。みんな大好き魔術師ウォンはイギリス系の香港人。唯一の中国出身は妹役のメンガー・チャンだが、南京出身という以外に情報がない。新人さんで誰も知らないのだw。ついでに言えば、監督はハワイ人だよ。主要スタッフにも生粋の中国人はほとんどいない。中国国外で活躍する映画人だ。本土から連れてくるとめんどくさくなる、とでも思ったのか。

そもそも「シャン・チー」はアメリカ人が70年代に考えたヒーローだ。あの頃…はブルース・リーが人気者になった頃だ。アメリカはチャイニーズフードが好きなので、まさに「アチョー!」なカンフーアクションを描くためのヒーローだった。神秘の力と脅威の身体能力。50年近く経ってもまだ需要があるんだね。本作は莫大な予算を使って同じことを繰り返している。

ここからは偏見だが、シム・リウのブサイクぶりはどうだ。永瀬正敏や中井貴一を潰して平たくしたようなといえばマシな方で、…実際は芸人のウクレレえいじそっくりだ。キャリアの薄い新人を起用し、大スターを生み出すMCUとして、「ソー」の時のように、なんでもっとイケメンを配置できなかったのか。ヘンリー・ゴールディングクラスを持ってこいって。
ヒロイン、オークワフィナも厳しい。変幻自在のキャラ姉さんとして大好きな女優(フェアウェルやクレイジー・リッチ!は最高)だが、今回はハマってない。牙を抜かれた愛玩犬のような扱い。かわいこちゃんアイドルでも可能な役どころじゃないか。オークワフィナをキャスティングしといてこの扱いはなかろう。MCU史上最も不細工なカップルになってしまった。

世界をひっくり返す魔物の復活と、それを阻止する集団の戦いは、呆れるほど新鮮味がない。MCUの1エピソードとしては、「ただの親子喧嘩。しかもお父さんは狂人」だ。マーベルには同じような親子喧嘩でGOTG2があったけど、あれと比較するといかに「シャン・チー」の仕上がりがお粗末なのかがよくわかる。また、CGをふんだんに使った武侠ファンタジーは、近年中国では頻繁に作られている。漫画やゲーム原作もあって「見せ場はあるけどお話はね…」なレベルのものが多く、人気は分散している。我らがMCUはお金いっぱいかけてるだけで、あのクライマックスで本当によかったのか。高級店なのに町中華の餃子が出てきたような…不味くはないから食べたけど、これでいいのかしら? な後味であった。
結局、欧米ではヒットするでしょう。天下のブロックバスターシリーズだし。ただし、アジア人がこれをどう受け止めるのかは微妙。

そして、最大の欠点としては、本来最も重要な市場であった中国では、公開のアナウンスすら未だ出ていないってことだ。原作に於けるシャン・チーの設定が「フーマンチュー」の息子であること、ステレオタイプな舞台や美術と武侠アクション、さらにシム・リウの過去発言などもあってエスカレートしてしまった。
中国で公開する映画はすべて当該機関のチェックを受ける。これをクリアするとドラゴンマークと言われる番号がつけられ、本編の冒頭で「パンパカパーン」と出るのね。ハリウッド大作は完成前からシナリオや編集前(ポスプロ前)の提出で準備をするのが定石。過去のMCUやDC、SW、ディズニーアニメにトム・クルーズ映画などは、この対応をきっちりこなして全世界の公開日を合わせている。「シャン・チー」が公開できないのは、これが通っていないのだ。MCU次作「エターナルズ」はクロエ・ジャオが政治発言で睨まれているから、多分公開できないでしょう。

最大のマーケットである中国を逃してしまったのは、戦略ミスである。ケヴィン。まだ間に合うぞ。頑張ってくれよ。

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