
第2章 東北大卒で就職せずに、農家さんを応援 《農園訪問の記録》
私は消費者だ。
食べ物を買い、食べる側だ。
しかし、いくつかの農家との出会いを経て、
消費するだけの消費者から脱却したいと思った。
今回は私にいろんな景色を魅せてくれたある農家との出会いに触れ、
農家さんを応援しようと思った経緯①に引き続き、その経緯について話す。
農業は難しい。無農薬栽培はなおさらだ。
突然のお願い
「今度、農園にお邪魔してもいいですか?」
男性は突然のお願いに目を見開いて、戸惑った表情を私に向けた。
彼はお揃いのエプロンを着て隣に立つ、もうひとりの男性と目を合わせたあと、遠慮がちに私に言った。
「いつでもどうぞ」
私たちはInstagramを交換し合った。
こうして私は初の農園訪問の約束を取り付けた。
欅の木々が青々と生い茂る初夏のことだった。
2023年6月某日、市内は半袖の人がチラホラいた。が、まだ肌寒い日だった。ちょうど1ヶ月前までパリにいた私は、日本の桜を見逃してしまい、春を感じることなく夏の訪れを体感していた。
夏の到来を感じ取ったのは、街の景色だけではなかった。偶然出くわしたマルシェで白ナスが販売されていたのだ。
白ナスといえば、6月頃から10月上旬までが旬の時期だ。よく私の祖母が作ってくれていたのを思い出した。身の部分が白色で、ずんぐりとした形が特徴的だ。皮の表面には艶があり、なんとも美しい。加熱調理すると、とろけるような柔らかさになるため、「トロなす」とも呼ばれている。
白ナスはステーキにするのが一番美味しい。輪切りにして焼き目をつける。味付けはポン酢。仕上げに鰹節をのせるとまたうまい。私のお気に入りの野菜の1つだ。
その日のマルシェは6組ほどの生産者が野菜を販売していた。白ナスを販売していたのは白いTシャツに、デニム生地のエプロンを着けた2名の男性だった。
彼らは幼なじみだという。実家が農家だという1人の男性は、今回マルシェに初めて参加するということで幼なじみである、もう1人の男性に手伝いをお願いしたのだ。
「あなたも農業されているのですか」と聞くと、実家が農家だという男性は就農1年目だと教えてくれた。もともとは企業に勤めるサラリーマンだったそうだ。
白ナスの説明を聞いていたはずが、気がついたら彼の就農話へと話が変わっていた。
もっと話を聞いてみたかったが、他の客も増えてきたのでここら辺で退散しなければならなかった。
私はこの頃、農業の現状について実際に目で見て勉強したいと思っていた。しかし、誰に頼めば良いか分からず、本で勉強するしかなかった。物腰の柔らかい彼なら引き受けてくれるかもしれない。そう期待を込めて「今度農園にお邪魔してもいいですか?」とお願いした。こうして私の農園訪問が決まったのである。
虫はよく喰う
2023年7月某日、長袖長ズボンに長靴を履いて、私はバス停に立っていた。日差しが強い。梅雨が過ぎて、本格的に夏が来ようとしていた。
就農1年目の男性Aさん(仮名)の農園は、市内からバスで30分ほどのところにある。降りてから2分ほど歩くと、住宅街から外れて、一面畑の景色が広がっている。まさに田園風景である。

指定された住所に行くと、Aさんが出迎えてくれた。彼に挨拶と今日のお礼を伝えたあと、私たちは彼の農園を見てまわった。

上記の写真はレタス畑の様子を撮影したものだ。まだ成長途中だが、右列のレタスは良く育っている。しかし、真ん中奥と左の列は虫に喰われてしまったそうだ。

Aさんは実家の農園とは別に近所の農家から農園を借りており、彼が栽培するスペースはとても広い。
「広すぎると大変ではないですか」と聞くと、「もっと農園を大きくしてキャベツや大根も育ててみたいと思っている」と語った。就農1年目でまだまだ失敗も多いが頑張りたいとも話していた。
Aさんは実家の農園を継ぐ前に、県内で無農薬栽培をしている農家のもとで修行をしていた。
「無農薬栽培を間近で見てきて自分も無農薬に挑戦したい」と話す。しかしまだ経験も浅いため、今は美味しい野菜を作ることに尽力して、いつか無農薬栽培できればいいなと話していた。

次に人参の畑を見せてくれた。手前がスカスカで土が見えている。一方で奥は人参の葉っぱが伸び伸びと育っている。
害獣被害に遭ったわけではない。成長に差が出ているのは、虫の被害に遭ったからだ。Aさんは農園の手前部分だけ殺虫剤をまかなかった。いつか無農薬栽培ができたらいいなというのを少しずつ現実にするためだった。しかし、結果は写真の通りだ。農薬をまかなかった部分は、くしくも虫に喰われてしまい、葉っぱはほとんど見えなくなってしまった。
農業は難しいと語るAさん。無農薬栽培がより一層難しいことを私は目の当たりにした。
立派な葉っぱと腐る野菜
広い農園で栽培するAさんはナスやオクラも栽培していた。ナス畑を近くで見てみると、傷が付いたり、日焼けして変色しているナスが見られた。
炎天下で野菜が傷んでしまうのだという。
「これらのナスはどうなってしまうんですか」と聞くと、「もう無理かな。あとで根っこから引き抜いて畑の隅で捨てるつもりです」とAさんは答えた。
せっかく育てたのにですかと言いそうになり、言うのを止めた。そんなことはAさんの方がよっぽど分かっているはずだ。傷んでしまえば売り物にはできないのだ。
しかし、惜しい。確かにナスは傷んだり、ひび割れしたりしているが、葉っぱは綺麗だった。鮮やかな色で元気という表現が合っている。ナスの栽培を終えれば、引き抜いて捨てられてしまうが、捨てるには惜しいほど本当に良く育っていた。
もし、ナスがダメになって、ナスの売上げが立たなかったとして。この立派な葉っぱや花が商品になっていたら、ナスを育てたAさんの頑張りは少しは報われるのかな。
そんな風に思いながら、ナス畑を後にした。
小雨が降ってきた。私たちはAさんのトラクターの中で話をしていた。Aさんは、私に農業を仕事にすることの困難さや楽しさを話してくれた。気がついたら1時間経っていた。
帰りはバス停まで送ってくれた。Aさんは言葉数こそ少ないが、仕草や対応から彼の優しさが十分に伝わってきた。
帰りのバスの中、私は改めて今日見たことを思い出していた。
そしてもう1つ思い出したのは、祖母の言葉である。
「農業はそんなもんだ」
猿やイノシシに畑を荒らされることも、野菜だけでは収益が少ないことも含めて『農業』であり、それが農業なのだと祖母は言う。
その時の彼女の表情は、ナス畑を前に「もう引っこ抜いて捨てるしかない」と話すAさんと同じだった。
『農業はそんなもんなのか』と現実を知る一方で、『そんなままで良い訳ないよな』と私は歯がゆい思いを抱えていた。
こうして私の初の農園訪問は幕を閉じた。
それから程なくして、私はある枝豆農家に出会った・・・続く。
頑張る農家さんを応援したい ひなた
▼▼▼くせ強店主のご挨拶▼▼▼

どうも!勝手に農家さんを応援したい ひなたです。
(店主についてもっと知りたい方はこちらから!←そんな人おるんか笑!?)
面倒くさがり屋ですが、集団で話しているときに誰かが輪に入れず俯いていたり、悲しそうな顔をしていたりするのを見ると放っておけない性格です。
それが派生して今の仕事をしています。
私は人や地域や環境の「ためになる」消費や生活を提案するセレクトショップを運営しています。
エシカル?サスティナブル?エコフレンドリー?
どうせ流行に乗っているだけでしょ?
と思われがちですが。
いいえ、そうではありません。
一言で伝わりやすいように「エシカルな商品扱ってます」とか「サスティナブルなセレクトショップです」とか自己紹介することはありますが、
当人は流行に乗れているとも思っていません。
むしろ、輪に入れず俯いている子を放っておけないのと一緒で
美味しいって食べたり、嬉しいって買い物したりする
そんな消費の裏側で、誰かが悲しい思いをしていたら嫌です。
誰かが我慢しなければいけないのは嫌です。
誰かの大切な地域が汚されたり、損なわれたりするのは嫌です。
幼い頃の私は想像力が足りていませんでした。
どこかの国が大地震や災害に遭って酷い被害を受けていると知っても
大変だな・・・と思うだけ。
地球温暖化のニュースを見ても、実感が湧かなくて
大変だな・・・と思うだけ。
でも、色んな地域や国を歩いて
自分の好きな人や好きな景色、好きな地域が増える度、
それらが損なわれることは望まないし、ずっと元気でいてほしいと思いました。
そんな風にして、自分の「好き」が増えるたびに、それらを守りたいという気持ちが芽生えました。
大切な人が笑顔でいてほしいように、好きな地域も、好きな景色も、そしてそこで暮らす人々も、ずっと元気であってほしい。
「好き」を守るためにできることがあるのなら、それに手を伸ばしたいと思いました。
それがきっかけでした。
私は消費や選択の裏側を想像するようになりました。
ただ便利だから、安いから、かわいいから、というだけで選ぶのではなく、「これは誰を、何を笑顔にしてくれるだろう?」
「使っては捨てて・・・の生活は便利だけどいいのだろうか?」
いろいろと考えるようになりました。
私が提案する「ためになる生活」は、そんな思いから生まれました。
きれい事や理想を語りすぎることは時に敬遠されますが。
最近はまっている「民王」のドラマの中の台詞に
「夢のように甘っちょろい理想を語る若者はたちが悪い。
だが理想すら語らない若者はもっとたちが悪い。」
ある社長がこんなことを主人公(菅田将暉)に言うシーンがあります。
その言葉が妙に心に刺さりました。
確かに、理想だけを語って行動が伴わなければ意味は薄いかもしれません。だけど、理想を語らず、目の前のことだけで済ませてしまうのはもっと寂しい。
だから私は、自分が思う「ためになる生活」という理想を語るだけでなく、それを形にするために行動したいと決めました。
まだまだ小さな取り組みかもしれません。
でも、一歩一歩、できることから始めて、周りの人たちと一緒に、誰もが笑顔になれる未来に少しでも近づけていきたいと思っています。
私のプロジェクトや活動が、小さなきっかけとなり、誰かが「自分もやってみよう」と思ってくれたら、それ以上に嬉しいことはありません。
少しでも共感していただけたら嬉しいです!
皆の応援が私の勇気になります!
インスタでは活動の様子を随時、綴っていきます!
引き続き、温かく見守ってくださると嬉しいです!
頑張る農家さんを応援したい ひなたより