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【短編童話】ありんこ観察日記

 もしも、アリがボールペンをはこんでいるのを見たら、どうする?
 わたしなら、とりあげたりしないで、じっくりかんさつする。
 
 お母さんもそうだったらしい。
 なぜわかるのかといえば、夏休みにお母さんと、お母さんの実家に遊びに来て二日目に、ものおきで古い日記を見つけたから。
 今のわたしよりちいさかった子どものころ、夏休みにかいた宿題の日記みたいだ。そういえばこの家で育ったんだなあ、と当たり前なんだけれどふしぎな気分になった。それにしてもきたない字。
 パラパラめくってみると、なぜかほとんどの日にアリのことを書いていること気づいて、わたしはそこをひろい読んでいったのだった。
 
7月28日
 きょう、おうちのうらにあるにわで、アリのすをみつけました。たくさんのアリがあなからでたりはいったりしていました。おとうさんには、かんだりさしたりするアリもいるから、きをつけるようにいわれました。
 
8月1日
 アリたちが、ちからをあわせてボールペンをはこんでいました。きのう、おとうさんがなくしたといっていたペンだなあとおもいました。おとうさんとは、けさケンカをしたのでおしえてあげないことにしました。わたしはペンはたべられないのになあとふしぎにおもいました。おとうさんのペンはわたしももたせてもらったことがあります。わたしのもっているペンよりもずっとおおきくて、おもたかったです。あんなのをはこべるアリはすごいなあとおもいます。
 
8月3日
 アリのすのあながあるちかくに、はっぱがいっぱいかかっているところがありました。アリがはっぱをあつめているみたいでした。
 
8月7日
 アリがあつめたはっぱのところが、なんかこんもりしてきたようなきがしました。ずかんでしらべてみたら、アリづかというものをつくるアリがいるそうです。でもずかんのしゃしんとはちがうみたいでした。それと、きょうはライターをはこんでいるのもみれました。
 
 それからは、しばらく「アリが今日は何をはこんでいたか」を毎日書いている日記になっていた。
 だいたい「今日は〇〇をはこんでいました」と同じ文ばかりつづくから、〇〇のところだけならべると、こんな感じ。
 
 ねじ、クリップ、カッターのおれた刃、じしゃく、ノートのきれはし、針、えんぴつのキャップ、花火、ねんど、アルミホイルのかけら、ペットボトルのふた、くぎ、ピンセット、ボタン、などなど。
 もちろん虫だとか、たべるものもあるけれど、それは別にめずらしくもない。
 
8月20日
 アリづかは40センチくらいのたかさになりました。わたしのいえからもっていったものをあそこにかくしているんじゃないかと、わたしはすいりしています。
 
8月22日
 きのうのよる、アリづかがぼうっとひかってるみたいになったのをみました。
ときどきへんなおとがきこえることもあります。ちかづいてよくきこうとするとしずかになってしまうので、わたしがかんさつしているのがわかるんだとおもいます。
 
8月25日
 いっぴきのアリがすからでてきて、ずっとおなじところをぐるぐるあるいていました。とまったときは、あしでじめんをタンタンたたいていて、アリもおこったりなやんだりするのかなあとおもいました。ちかづいてむしめがねでみると、なんだかちいさなかみきれのようなものをもっているみたいにみえました。すこしすると、ちがうアリがでてきて、しばらくなにかおはなしをしているみたいなかんじでした。しばらくしてから、いっしょにすにもどっていきました。
 
8月30日
 アリづかからおととかひかりとか、ぜんぜんでてこなくなりました。あつめたものはなににつかったのか、ほってみたらわかるかもしれないけど、そんなことをしたらアリがかわいそうだからやめました。なつやすみがあしたでおわりなのでにっきもおしまいです。
 
 ここまでは日記をよんだ話だったたけれど、ここからはわたしの日記を書こうと思う。
 わたしは今まで日記なんて書いたことなかったけれど、それなら何でかと言うと、お母さんの日記を読んだあとで、何となくにわを気にしていたら、たしかにアリづかがあった。そしてお母さんの実家ですごすさいごの日にとうとう、どうしてもお母さんの日記のつづきに書かなきゃいけないとしか思えないものを見たからだ。
 夏休みがおわったとたんにピタリとかんさつをやめてしまった、いがいにあきっぽかったらしいお母さんのかわりに、わたしが書いておこう。
 
 
2024年8月31日
 夜、にわがなんだかさわがしいような気がしてまどの外を見た。
さわがしいといっても、はなしごえがきこえるってわけじゃない。でもたくさんのひとがおしゃべりしているみたいな、そんなかんじ。
 外へでると、アリがすから出てひとつのところにあつまっているみたいだ。そのなかの何びきかがアリづかにのぼって土をくずしはじめた。
 なかは空洞だったみたいで、その下から十五センチくらいのはしごを四つあわせたようなものがあらわれて、それにささえられて金ぞくでできているらしいボールペンがペンの先を上にして立っていた。ボールペンといっても、あとから色々くっつけたみたいなかたちをしている。
 五ひきのアリが、ボールペンのほうへすすんでいった。暗くてよくは見えないけれど、他のアリよりからだが大きく見える。何か着ているみたいだった。
 ボールペンのよこにかいだんがおかれていた。それをのぼって、ペン先のすこし下あたりまでいくと、そこはとびらになっていて、五ひきはじゅんばんに中へ入っていく。
 しばらくすると、ボールペンの下からものすごい火花がでてきて、そこだけひるまみたいにあかるくなった。見ているアリたちはこうふんしているみたい。
 ボールペンはゆっくりと、まっすぐに上へとむかってとんでいった。火花をふきだしながらどこまでも高くのぼっていくのを、見えなくなるまで目でおいかけた。
 うん、何だかすごいものを見たような気がする。よく分からないけれど、長い長い時間をかけて、いろんなことがあって、そして今……
 そんなことを思っているところへ、いえの中から、そう、さいしょのもくげき者、そして、いだいなできごとのはじまりを書きのこしたひとの声がとんできた。
「ねえ、今ロケット花火あげたでしょ、あぶないからやめなさいね」

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