【短編童話】ハブラシ一家
見下ろせば、そこには水滴が残る洗面ボウル。朝のひと仕事を終えたばかりだから僕の髪もぬれたままだ。軽く頭をひとふりして水気をとばす。
「こら、冷たいじゃないか。気をつけろ」
そう言ってこちらをにらんだのは同じコップで暮らすトラベルおじさんだ。この家のお父さんが使っているハブラシで、仕事で色んな国をとびまわっていたお父さんの『トラベルセット』だったからその名で呼んでいる。小さなハミガキ粉チューブといっしょにケースに入って、ずいぶん遠くにも行ったそうだ。お父さんが旅に出る必要が