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友だちを選べ?:分化的接触理論とは何か


はじめに


分化的接触理論(Differential Association Theory)は、犯罪行動がどのように学ばれるのかを説明する理論として、エドウィン・サザーランド(Edwin H. Sutherland)によって提唱されました。この理論は、犯罪心理学や犯罪社会学の分野において重要な位置を占めており、犯罪行動が個人の性格や生まれつきの特性によって引き起こされるのではなく、社会的な相互作用を通じて学ばれるものであると主張しています。
本記事では、分化的接触理論の基本的な概念、その応用、そして現代の犯罪研究への影響について解説します。

分化的接触理論の基本概念


サザーランドの分化的接触理論は、以下のような重要なポイントで構成されています。

1. 犯罪行動は学習される

犯罪行動は、他者との社会的な接触を通じて学ばれるものであり、生まれつきの特性や精神的な異常によるものではないとされています。特に、親しい友人や家族、地域コミュニティといった親密な関係の中で、犯罪行動の価値観や技術が伝えられます。

2. 犯罪行動は他者とのコミュニケーションを通じて学習される

犯罪行動は、他者との言葉や行動を通じたコミュニケーションの中で習得されます。具体的には、犯罪を正当化する価値観や信念が共有されることで、犯罪行動が強化されます。

3. 犯罪行動を学ぶ環境には「分化」が存在する

犯罪行動が学ばれる環境には、法を遵守する価値観と、法を破ることを正当化する価値観が同居しています。この価値観のバランスが個人の行動に影響を与えます。たとえば、法を破る価値観に触れる機会が多いほど、犯罪行動を選択する可能性が高まります。

4. 犯罪行動の学習には頻度、持続時間、強度が影響する

犯罪行動を学ぶプロセスは、その接触がどれだけ頻繁で、どのくらいの時間続き、どれほど強い影響を持つかによって異なります。特に幼少期や青年期における接触が、犯罪行動の形成に強い影響を与えます。

犯罪心理学における応用


1. 青少年の非行行動

分化的接触理論は、青少年の非行行動の研究において重要なフレームワークを提供します。たとえば、問題行動を起こす友人やギャンググループに所属することで、非行の価値観や行動が学ばれるというメカニズムが説明されます。

2. 犯罪者のリハビリテーション

犯罪者の更生プログラムにおいても、分化的接触理論が応用されています。犯罪行動を学ばせる環境から離れさせ、法を守る価値観を共有する環境に置くことで、再犯率を低下させる取り組みが行われています。

3. 社会的ネットワークの影響

インターネットやソーシャルメディアの普及により、犯罪行動が学ばれる環境が物理的なものからデジタルなものへと拡大しています。たとえば、詐欺やサイバー犯罪に関するノウハウがオンラインで共有され、犯罪行動が学ばれることもあります。

犯罪社会学における応用


1. 都市犯罪の研究

分化的接触理論は、都市部における犯罪の発生メカニズムを説明する際に使用されます。特に、貧困地域や高犯罪地域では、犯罪行動を支持する価値観が強化されやすいことが示されています。

2. 組織犯罪

マフィアやギャングといった組織犯罪も、分化的接触理論によって説明できます。これらの組織では、犯罪行動が新しいメンバーに対して体系的に教え込まれる仕組みが存在しています。

分化的接触理論への批判と限界


分化的接触理論は、多くの犯罪行動を説明するうえで有用ですが、いくつかの批判や限界も存在します。

1. 個人の選択の自由を軽視する

この理論は、環境要因を重視するあまり、個人が自らの行動を選択する自由や主体性を過小評価しているという批判があります。

2. 価値観の伝達過程が曖昧

犯罪行動を学ぶプロセスそのものが具体的にどのように進行するのかについては、理論的な曖昧さが残っています。

3. 経済的・社会的要因との関連性の不足

分化的接触理論は、経済的な貧困や社会的不平等といったマクロ的な要因を十分に考慮していないとの指摘があります。

結論


分化的接触理論は、犯罪行動が社会的相互作用を通じて学ばれるプロセスを解明する重要な理論です。
青少年の非行行動から組織犯罪に至るまで、さまざまな犯罪現象を理解するためのフレームワークを提供します。
しかし、個人の主体性やマクロ的な社会要因を補完的に考慮することが、より包括的な犯罪理解につながるでしょう。
この理論を活用し、犯罪予防や再犯防止に役立てる取り組みが今後も期待されます。

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