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太陽フレアを知る〜太陽フレアに備える〜

目安時間:6~8分(約5000文字)
最終更新日:2024年6月13日


◼︎まえがき

2024年5月11日から12日にかけて、日本でもオーロラが観測されるという珍しい現象があったことをご存知の方も多いかと思います。
今回のオーロラは、2024年5月3日、5日、8日、11日に起きたXクラス(注1)の太陽フレアに起因するものでした。

2024年5月の太陽フレアでは、北海道では肉眼でオーロラを観測できた地域や、高感度撮影では東北地方などでもオーロラを観測できたなど、普段見れない美しい気象現象を見られる機会となりました。
一方、近代社会において、太陽フレアによる通信障害やそれに伴う、経済損失の可能性には目を背けていられない状況です。
そこで、今回は、下記を目的にしながら、まとめていきたいと思います。

(注1)Xクラス・・・太陽フレアは、その規模をA、B、C、M、Xクラス分けがされており、Xクラスは最大規模にあたります。
✅ 規模の目安
Aクラス:非常に弱いフレア、地球への影響はほとんどない。
Bクラス:弱いフレア、地球の影響も限定的です。
Cクラス:中程度のフレア、地球の電離層にわずかな影響を与えることがある。
Mクラス:強いフレア、地球の電離層に顕著な影響を与え、短波通信に影響を及ぼす可能性がある。
Xクラス:非常に強力なフレア、地球の電離層に深刻な影響を与え、広範囲の通信障害や衛星への影響を引き起こす可能性がある。

◼︎本記事の目的

今回の記事の目的は、下記の通りです。
☑️太陽フレアのことを知り、その潜在的なリスクを把握する。
☑️そして、そのリスクから社会を守るための技術について知る。
☑️私たちが日々できる備えがあるのかどうかについて考えてみる。

💡本記事で知れるトピックス💡
・自然現象:太陽の活動、太陽フレア
・テック系:太陽フレアによる通信障害への対策、宇宙天気予報
・個人でできる太陽フレア対策


1.太陽フレアを知る

◼︎そもそも太陽フレアとは?

太陽フレアとは、太陽の表面で発生する大規模な爆発現象のことです。

太陽は複雑な磁場を持った天体であり、磁石を不規則にばら撒いたような複雑な磁力(磁力線)を持った天体です。
太陽表面では、特に低緯度帯において、磁力線に”ねじれ”を生じることが分かっています。
この磁力線のねじれは、エネルギーを蓄えている状態であり、これが解放される時、蓄えられたエネルギーが解放され、一気に放出されます。
この時に磁力線に閉じ込められたプラズマが、加熱・加速され、激しい爆発現象を起こします。
これが太陽フレアだと考えられています。

◼︎太陽フレアの危険性とは?

プラズマが、加熱・加速され激しい爆発現象を起こすことが太陽フレアと説明をしました。
この時、 太陽フレアの起きた方向によっては、放出されたプラズマが地球に向かってくることがあります。
プラズマが地球に到達すると次のような影響を受けることがあるのです。

  1. 通信障害: 短波通信やGPS信号に干渉し、特に航空機の通信に影響を与える可能性がります。

  2. 電力網への影響: 地球の磁場に強い影響を与、地上の送電網や変電所が故障するリスクがある。1989年にカナダのケベック州で大規模な停電が発生した例が有名です 。

  3. 衛星の被害: 高エネルギーの荷電粒子が衛星に衝突すると、電子機器の故障やデータの損失を引き起こすことがあります。また、衛星の軌道にも影響を与える可能性があります 。

  4. 宇宙飛行士の健康リスク: 国際宇宙ステーション(ISS)などの宇宙飛行士は、高エネルギー粒子線にさらされるリスクが高まり、健康に重大な影響を及ぼす可能性があります 。


2.太陽フレアによるリスクが高まってる?

現代社会では、太陽フレアによるリスクが高まっています。
その理由は前章で危険性に挙げた内容でお気づきの方もいるかと思いますが、「通信障害」「電力網への影響」「衛星への被害」「宇宙飛行士の健康リスク」は、どれも近年発展したテクノロジーへの影響となっているためです。

逆に言えば、送電や衛星というものが発明される前の時代であれば、太陽フレアが人間社会に与える影響はほとんど無いと言えます。

しかし、すでに街中だけでなく、地中や海中には電線が張り巡らされ、頭上には衛星が飛び我々の日常を支えています。
これらへの依存を無くし、太陽フレアの影響を受けない社会にするのは現実的ではありません。

現実的で、建設的な太陽フレア対策を講じていくことが重要です。

宇宙天気現象(Solar storm)が全世界にもたらす潜在的な経済的被害は649.5億ドルと予測されている

Lloyd’s City Risk Index 2015-2025


3.太陽フレア対策について

残念ながら、人類が太陽フレアの発生をコントロールすることはできません。(何百年後、何千年後にはできるかもしれませんが。。?)
また、前章の通り、送電や衛星というものが発明される前の時代のテクノロジーレベルに戻すことは現実的ではありません。
つまり、根本解決は難しいと言えます。

それでは、何ができるのか?
現在、研究開発が行われている対処療法的テクノロジーについての知見を得て、それを最大限活用して影響を可能な限り低減することが大事だと考えています。

ポジティブ面として、太陽フレアはフレア発生からプラズマが到達するまで多少のタイムラグがあります
なので、皆が正しい知見を持ち、太陽フレアが起きた時のオペレーションやテクノロジーなどの備えがあれば、社会へのダメージを大幅に抑制できる可能性があるのです。

◼︎太陽フレア対策のアプローチ

現在、研究開発が行われているものには、大きく2つのアプローチがあります。

太陽フレア対策のアプローチ
①深刻な宇宙天気の影響、及び引き起こされる出来事の予測能力についての理解を深める「評価&準備」
③障害に効果的に対応し、迅速に回復できるようにする「対処&回復」に分けられ、それぞれの提言が示されている。

◼︎①太陽フレアの「評価&準備」

「太陽活動の予測」や「地球への影響の予測」の精度を高めるため、観測機器やAIなどの導入が進められています。
下記に、その一部をまとめさせていただきます。

▼ 宇宙天気予報

出典:NICT

宇宙天気予報とは、太陽活動が地球およびその周辺環境に及ぼす影響を予測する技術やシステムのことです。
すでに、米国や英国では、国家全体が対処するべき「国家リスク」として宇宙天気を明確に位置づけています。

日本においては、2022年6月には総務省から、「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会報告書」がリリースされ、報告書には、宇宙天気予報に対する具体的な取り組みなどが記載されている。

▼ SOLAR-C

出典:NASA

SOLAR-Cは、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が計画している太陽観測衛星プロジェクトです。この計画は、太陽の高精度な観測を行い、太陽フレアやコロナ質量放出(CME)などの現象のメカニズムを解明することを目的としています。

SOLAR-Cの特徴: 3つの紫外線分光観測を世界で初めて同時に実現します。【1】1万度の彩層から100万度のコロナ、1500万度のフレアまで、幅広い温度帯を同時に隙間なく観測。
【2】紫外線を集める能力を10-30倍ほど倍増し、高空間(0.4秒角)・高時間(1秒)分解能で太陽大気の要素構造を解像し、その進化を追跡。
【3】第高性能の分光観測(2 km/sの速度分解能に相当)を行い、定量的な診断のための分光情報(速度、温度、密度、電離度、組成比など)を得ます。

これら3つの観測を総合することで、彩層からコロナまでの幅広い範囲にわたり、要素構造を分解しつつ太陽大気の運動する描像を獲得することができるようになります

AIと機械学習
機械学習アルゴリズムを用いて、太陽フレアの発生とその影響を高精度で予測するモデルを構築しています。
人間が気付きづらい法則性や危険因子をAIや機械学習で検知したり、予測することで、正しいアラートや備えを行えるようになることが期待されています。

◼︎②迅速に回復できるようにする「対処&回復」

一度太陽フレアによる電磁パルス(EMP)が起きると、被害が甚大になる可能性があります。
これらの被害を軽減するために様々なテクノロジーが検討されています。
下記には、その一例を示します。

▼ハードウェア保護
 重要インフラ(例、送電や通信インフラ)に対する電磁シールド、太陽フレアによる電磁パルス(EMP)の影響を軽減します。ファラデーケージなどが一般的に終了する。

▼航空機の保護
 高度な航空機には、EMP対策として特殊なシールドが施されており、太陽フレアによる通信障害を軽減。

▼代替通信手段
太陽フレアによる通信障害に備え、代替の通信手段(例: HFラジオ、衛星電話)を準備。

▼代替電源の確保 
重要施設に電力供給(例えば、バッテリーシステムやディーゼル発電機)を設置し、停電時にも継続して電力を供給。


4.個人ができることはあるのか?

前章では、国や研究機関が取り組んでいる対策などについて紹介しました。一方、個人で太陽フレアによる影響から身を守るためにできる対策も意外に多岐にわたります。以下に具体的な対策を紹介します。

1. 情報を取得する

前章でご紹介した宇宙天気予報をチェックすることで、私たちも宇宙で何が起きているのか?
2024年〜2025年は太陽活動が活発になることが予測されています。
この機会に、天気予報と宇宙天気予報の両方をチェックする習慣をつけるのも良いかもしれません。

2. 電子機器の保護

家電製品などを太陽フレアによる電磁パルス(EMP)から家電製品を守るために、サージプロテクターというものが存在します。
電磁パルス(EMP)だけでなく、雷などによる過電流にも効果があるので、備えておいて損はありません。

また、宇宙天気予報や報道などにより、事前に対策を行う時間がある場合は、電子機器の電源をOFFにしたりコンセントから抜いたりブレーカーを落とすなどの対策を併せて行うことが好ましいです。

3. 非常時の準備

太陽フレアおよび電磁パルス(EMP)の発生は自然災害の一つと考えられつつあります。
そのため、既存の災害である地震や洪水などの自然災害への備えがそのまま活用することができます。
いくつかの対策を下記に記しておきます。

  • 食料と水: 昨日の保存食と飲料を備蓄。

  • 応急処置キット: 応急処置用の薬品や道具を準備。

  • 照明器具: 停電に備え、懐中電灯やキャンドルを準備。

  • ガソリン満タン: 電子機器が使用できない状況に備えて、ガソリンタンクを常に満タンにしておく。

  • アナログ地図: GPSや電子機器が使用できない場合に備えて、紙の地図を持っておく。

上記の通り、個人においても意外に多くの対策が行えます。
一方で、これらの対策は太陽フレアに限ったものでなく自然災害全般に活用できるものです。
つまり、太陽フレアというものを自然災害の一つだという意識をより定着させ、備えまでをセットに実行ができるかが重要だと捉えています。


あとがき

最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。

本記事では、「太陽フレアについて」「太陽フレアに対する対策」などについて、記載をさせていただきました。

本記事を通して、私が感じたことは、
・太陽フレアという、これまでは宇宙の天体現象の一つだと捉えていたものが、地球の気象にシームレスに関わってきているという事実を正しく知ることが重要。
・そして、これらが地震や洪水などと大別されるものではなく、自然災害というカテゴリーの中の一つの事象であり、だからこそ、共通の対策を行うことができる
ということです。

一方で、太陽フレアはその他自然災害と比較しても影響が甚大になる可能性があります。
ひとたび発生すれば地方や国単位ではなく、地球単位で影響を及ぼす可能性があるためです。
影響を小規模にするためには、個々人が正しい情報を知り、備えがいかに浸透するかが肝だと考えております。

今後も太陽フレアについてのトピックスには目を光らせようと考えています。

※注意書き
個人的な解釈と事実はできる限り判別できるように記載するよう心がけました。しかし、一人の人間が書いていることもあり、偏った情報や解釈になってしまっていることもあると思います。
私の記事だけを信じるのではなく、その他情報や様々な著者ならではの見解に触れていただき、ご自身の考えへと昇華して頂けたら幸いです。

【主な更新履歴】
2024/6/13:初稿

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