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連載小説『秘密の屋上 レイタの秘密』最終回

レイタの秘密 

浩太とマイは本格的に交際が始まっていた。
会社にはまだ内緒にしていたものの、薄々バレている気配もあった。

しかし、噂話が広がることもなかった。
浩太は流石に世界一真面目と言われるだけあって、とても紳士だった。
マイは浩太の差し出す腕の中で、のびのびと仕事も、私生活も楽しむことができていた。
二人は着々と結婚を目指して進んでいた。
もう、ほとんどが整い、会社に報告をする段階になっていた。

マイは自然と、屋上にはあまり行かなくなった。
おそらく浩太との毎日が充実しているから屋上に行く必要がなくなったのだ。
時々、思いついたように屋上に行き、レイタと少し話をしたが、以前のようにレイタを頼ることは無くなった。
レイタはそれがとても満足だった。

随分と久しぶりにマイは屋上に行った。
マイの幸せな顔を見て、レイタは今日が最後だと決心をした。
そしてマイが話し出す前にレイタが、いつもになくとても真剣に話し始めた。

「マイさん、驚かれると思いますが、落ち着いて聞いてくださいね。私は実は勇崎レイタではないんです。」

と言った後、スーッと姿が消えた。
そして、再び明るさが戻ってきて現れた姿にマイはびっくりした。

「おばあちゃん!!おばあちゃんだったの?」

と言ったかと思うと、大きな声を出して泣き出した。おばあちゃんは、

「マイ、ごめんね、騙しちゃって。おばあちゃんはマイが心配で心配で、、、」

とマイを見ながら、ゆっくりと言った。マイは、

「おばあちゃん、私おばあちゃんに会えてすごく嬉しいよ。ごめんねなんて言わないで、私こそおばあちゃんを置いて、マンション暮らしをしちゃって、ごめんね。私、私、、、」

と涙を堪えきれずにいると、おばあちゃんが、

「わかっているよ、おばあちゃんはそのことが心配であの世に行くのを、伸ばす方法を探していたんだよ。そして、勇崎レイタさんという手相占いの人が色々と教えてくれてね。姿も貸してくれていたんだよ。」

とマイのそばに来て、慰めるように言った。続けて、おばあちゃんは、

「私は誰のせいでもなく、寿命が来たから死んだだけだよ。おばあちゃんはそれどころか、マイが私のことを慕ってくれてどんなに嬉しかったことか。どんなに幸せだったか。でも、そろそろ、あの世に行かなくちゃんらなくてね。ちょうど、マイにはいい人が見つかったし、今日、思い切って話したんだよ。」

と言った。マイは、

「そうなの?私、おばあちゃんのおかげで、色々と生活習慣が良くなったよ。おばあちゃん、見ててくれたでしょ?」

とまた、止まっていた涙を溢れさせて言った。おばあちゃんは、

「あーもちろん全て見ていたよ。マイは立派になって、とても素敵になったよ。あばあちゃんも嬉しくて、嬉しくて、、、」

と言い、続けて、

「マイ、おばあちゃんのいうことをよく聞いておくれ。もうおばあちゃんはマイの幸せを確認したから安心してあの世に旅立つよ。おばあちゃんはもう悲しくもないし、辛くもないんだよ。マイがこんなに輝いて、幸せそうなんだから安心しきったよ。だから、もうこの屋上には来ちゃダメだよ。いいね、おばあちゃんも来ないし、これからは、浩太さんと一緒に何事も解決するんだよ。絶対に約束しておくれ、わかったね?」

としっかりした口調で、伝えた。マイは、

「おばあちゃん、もう会えないの?」

と聞いた。おばあちゃんは、

「おばあちゃんはいつだって、あんたのそばにいるんだよ。姿は見えなくなるし声も聞こえないけど、おばあちゃんはマイの一番強力な守護霊だもの、そばでちゃんと見守っているからね。」

と笑顔で言った。マイは、

「わかった、おばあちゃん、本当に私をいい方向に導いてくれて、ありがとう。私、これからもおばあちゃんの言ったことを絶対、忘れずに頑張っていくね。ありがとう!」

と涙の顔に笑顔を作って言った。

おばあちゃんは

「じゃあ、マイ、結婚式は必ず見に行くからね。もう姿は見えないけど、必ずおばあちゃんはそばで見守っているからね。」

と言って、真っ直ぐにマイを見た。

マイは、

「おばあちゃん、私、ここには二度とこない。おばあちゃんがいつも見てくれていると思ってる。本当にありがとう。」

おばあちゃんはにっこりするだけで、もう何も言わなかった。

二人で、手を振りながら最後のお別れをした。

すると、流れ星のような階段が現れた。
屋上はそれまでより、もっと光り輝いて、まるでショーを見ているようだった。
とても綺麗でマイがうっとりしていると、おばあちゃんが階段に乗った。
階段は下から徐々に消えていった。
それに合わせておばあちゃんが乗った所は上に上にと、登って行った。

マイはおばあちゃんが見えなくなるまで空を見上げ、じっと見つめていた。
とうとう、おばあちゃんは一点の星になったようだった。


                         完

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