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連載小説『秘密の屋上 成就』

成就

流石に立川支社の出張は疲れた。
お腹も空いたし家に帰りたかったが、室長に帰り寄れと言われているので、会社に向かった。

遅くなったし、室長はいないかもしれないなと思いながら社に戻ると、室長は待っていてくれた。
マイは急いで、室長室へ行った。部屋に入ると、室長が、

「いや〜市田君、ご苦労様でした。遅かったから、もしかして帰ってしまったかと思ったが、立川支社からも連絡があってね、」

と言ったので、マイはその先を聞く前に慌てて、

「クレームがきましたか?」

と焦って聞いた。室長は笑って、

「市田君、慌てなさんな、褒めていたよ。よく説明してくれたって。しかもあまりパソコンに慣れていない部長にまで講義したそうじゃないか?」

と大笑いした。マイは顔を赤く染めて、

「済みません、張り切りすぎました。」

と声がだんだんと小さくなった。室長は、

「いや〜、立川支社は羨ましがっていたよ、君のような社員がいることを。」

と得意そうな顔で、室長が言った。それから、ちょっと、室長の顔が変わって、

「あの〜これから市田君は何か予定がありますか?」

と真顔で聞いてきた。マイは、

「いいえ、会社へ帰りに寄るのが、唯一の予定でした。」

と真面目に言った。すると室長は、

「それなら、食事を一緒にしませんか?」

といつもの元気良さはなく、細い声で言った。マイは、

「本当ですか?私、お腹ぺこぺこです!」

とにっこりして、元気よく言ったのである。
これには室長もちょっとびっくりしたが、すぐに笑顔になり二人で会社を出た。

外に出ると、室長は美味しい中華料理をご馳走すると言って、すぐにタクシーに乗り込んだ。向かったのは銀座だった。

店に着くと、予約をしていたようで、簾で区切ってある席に通された。室長は、

「ここは気に入っているんですよ。とても美味しいと僕は思います。気に入ってくれると嬉しいです。」

と敬語で話したので、マイが意外な顔を室長に向けると、室長は、

「あの〜、この時間は炭崎 浩太で、、マイさんと、食事したいのですが、、マイさんは、、それでは、、、嫌ですか?」

と思い切ったように途切れ気味に言った。
マイは嬉し過ぎて、なんて返事をすれば良いかと思うほどびっくりした。
しかもこんなにきちんと室長が言ってくれたので、とても感激した。マイも正直に、

「はい、私もすごく嬉しいです。」

と、これだけいうのが精一杯だった。
それからは、徐々に二人が打ち解けて、美味しい中華料理を食べながら、一挙に近づいた。
浩太は38歳でマイは28歳、10歳の違いがあった。
しかし今は、仕事の時の年齢差は全く感じなかった。
歳の差が縮まったように感じた。

マイが一方的に憧れを抱いていた浩太の人格は表裏が全くないこともとても嬉しかった。
二人の会話は終わりを知らないように続いた。
あっという間の3時間が過ぎ、その日はマイのマンションの前まで、浩太さんがタクシーで送ってくれた。

二人は笑顔でさようならをし、ではまた明日と言ってタクシーは走り去った。

マイはマンションに入ると、レイタを思い出した。

(レイタさんが聞いたら、どんなに喜ぶかな?)

と思った。
急いで、まずは屋上に行った。レイタは報告を聞くと、

「よかったですね!マイさん。ちゃんと小指に出ていましたからね。手相が二人を引き寄せた。つまり、マイさんが良い方向に進めたんですよ。」

と言った。マイは、

「そうかな〜?レイタさんに会ってからだから、やっぱり、導いてくれたのはレイタさんだと思う。私本当に感謝しています。」

と頭を下げた。レイタは嬉しそうに、

「そうですか?私も少しは役に立ちましたね。嬉しいですよ。」

とユラユラと揺れて、喜んでいた。
マイはこれからどうなるかと、レイタに聞きたかったが、これからはきちんと自分で進んでみようと思った。そして、

「じゃあ、またね。お礼が言いたくて来ただけなの!ありがとうございました。」

と、もう一度頭を下げて、元気に階段に向かった。

階段に向かうマイをじっと見て、レイタは、

(これで私の役目も終わったな、、、。)

と思い、そのままスーッと姿を消した。


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