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連載小説『秘密の屋上 手相5』

手相5

しばらく経ったある日、朝会社に着きパソコンを
立ち上げると社内メールが来ていた。マイは、

(そうだ、人事異動の時期だ。)

と気がつき、私は変わらなければ良いなと思いながらメールを開けた。
目を疑いたかった!マイに辞令が出ていたのだ。
その課は世界一真面目な上司が仕切る有名な課だった。

いっぺんに憂鬱になった。すぐに有美の机の方に顔を向けると、
有美もメールを見ていたようで、私はセーフというジェスチャーをしていた。
有美は大きく顔の前で、両手でバッテンを作った。
それを見た有美が無声で

「えーーっ!」という顔をした。

昼休みに、有美はマイのところに飛んで来て、

「マイ、どこに配属されたの?」

と聞いた。マイは

「世界一真面目な上司のところ、、、」

と、沈んだ声で言った。それを聞いた有美は

「嘘〜!大変だね、確か移動、明後日からだよね?」

とパソコンを見ながら言った。
マイはその言葉を聞いて、途端に現実味を帯びてきた。
マイは沈み切った声で、

「しょうがないよ。1年間我慢するしかない。またこの緩やかな部署に戻れるようになんとかしなくちゃ」

というと、有美は

「そうだね、そういうふうに考えなくちゃね。私は本当に良かったなんていうとマイに悪いよね、ごめんね。マイは仕事ができるからこそ呼ばれちゃったんだよ。」

と上等な褒め言葉で、慰めてくれた。マイは、

「上の階になっちゃうけど、帰りには顔出すからまた一緒に遊ぼうね。」

と元気のない声で言った。
その日の夜、もちろんマイは屋上に顔を出した。
お弁当を食べながら、レイタに愚痴を聞いてもらった。レイタは

「食べ終わったら、ちょっと手を見ましょう。」

と言った。マイは、

「えっ、今更〜?手相にそんなことが出てるの?」

と気のない返事をした。レイタは少し困って、

「いや、新しい箇所に行って何かあった時の対処法を知っておいた方がいいかと思ったんですが、、、。」

と遠慮がちに言った。マイは

「あっそうか、ごめんなさい、ううん、すごく嬉しい、何でもいいからした方が良いことを教えて。」

と残りのおかずを口一杯に入れ込んだ。
食べ終わり、手をレイタに見せた。レイタは

「なるほど、この人差し指の下に斜め線が出ていますね。ここは木星丘です。前の時は薄かったと思いますが?はっきりしてきました。これは良い線ですよ。昇運線と言って人の引き立てをもらって活躍できるということを知らせる線です。マイさんは今度の部署で活躍するかもしれませんよ。しかも上司の引き立てに恵まれる線です」と言った。マイは

「そうなの〜?それ困っちゃうんだな、、、だって、世界一真面目な上司の課だから、一年で追い出されたかったんだけど。」

と恨めしそうにレイタを見ながら言った。レイタは

「仕事場ですからね、真面目なのは当たり前なんじゃないですか?それに真面目な上司は扱いが楽ですよ。その人のクセなり、好きなことを覚えてしまえばすぐに馴染めます。かえって楽だと思いますけど?」

とレイタは言った。マイは

「そうかな〜。今まですごく楽なところだったから、どう評価されているのかなんて、全く気にしなかった。」

と、言った後、マイは気がついたように顔をしっかりレイタに向けて、

「でも、いつまでも楽なところじゃ、ダメになっちゃうね?」

と多少元気な声で言った。
素直というか、ここまで来ると単純明快で心地よい限りだ。レイタは

「そうそう、そのいきですよ、でも体に気をつけてくださいよ。マイさんは直角に直ろうとするから、徐々に、段々に、がいいですよ。もう一つ、言いましょう。浪費家の線がもっと薄くなっていますよ!お金を使う時にちゃんと考えている証拠です。もう少しでこの線なくなるかもしれませんよ。」

とレイタは一層ユラユラしながら嬉しそうに言った。マイは、自分でも手を見て、

「ほんとだ〜!本当に線って短期間で変わるんだね。やった〜!」

と大喜びだった。その後、おおあくびをしながら、

「じゃあ、帰るね、おやすみなさい。」

と元気を取り戻して、部屋に戻って行った。



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