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連載小説『秘密の屋上 出会い1』

出会い1

移動日がやってきた。
あまりにも意識しすぎていつもより身支度に時間がかかった。
新しい課に着いたのは始業時間ぴったりだった。
部屋に入った途端に、全員一斉、机の前に立ち上がるところだった。
マイは一番後ろに自分の席を見つけた。
どうもここでは、朝礼があるようだった。

すると、世界一真面目な上司が皆の前に立ちはだかった。
マイはちょっとびっくりした。
なかなか整った顔で、背も高く、着こなしもセンスが良かった。
何より驚いたのは思っていたより若かった。

(この人が?)

と思ったその途端第一声!始まった。

「皆さん、おはようございます!」

とその人が大きな声で言うと、その後を皆が一斉に

「おはようございます!」

と昌和した。マイは驚いた。続けて、

「おー、なんと音吐朗朗と素晴らしい朝の挨拶をありがとう。本日も臥薪嘗胆の末に新しい企画を勇往邁進しようではありませんか。その先に歓天喜地の大騒ぎが待っていますよ! 皆さん一致団結、二人三脚で頑張りましょう。それでは次に、今日から配属になった、市田 マイさんをご紹介しましょう。市田さんよろしくお願いします。」

と上司がいうと、皆が一斉に一番後ろに立っていたマイの方を向いた。
マイは驚きと、皆の動作がまるで人形のようでおかしくて笑いをこらえたような顔になってしまった。
そこでこれはいけない、何とか挽回しなくてはと思い勇気を振り絞り大きな声で、

「皆さん、本日より配属されました、市田マイです。この素晴らしい課で、不協和音にならぬよう、一意専心して職務を頑張りますので、よろしくお願いいたします!」

と言った。
上司はニッコリして拍手した。するとそれに続いて皆が拍手した。これには、驚いた。
マイはバリバリの文学部国文科卒である。
こんなにその卒業がこの会社で活躍したのは初めてだった。
そして、朝礼が終わると、皆それぞれが席に座りパソコンを前にして仕事を始めた。
マイがちょっと、キョロキョロしていると、前から中年の女性が歩いてきた。マイに向って、

「市田さん、本田です。よろしく!誰かに、聞いたの?」

と言ってきた。マイは

「えっ!何を?」

とびっくりしていると、本田さんは落ち着いた声で

「だって、すごい反応だったじゃない!驚きよ。私、今朝、市田さんがいらしたら、朝礼のことを説明しようと思っていたのよ。でも来ないから心配していたの。」

と笑顔で話してくれた。マイはこの人が導いてくれる上司の人かしらと思いながら、

「そうなんですか?ごめんなさい、ありがとうございます。まあ、ちょっとびっくりしましたが、一生懸命やりました。」

と、ぺろっと舌を出した。途端に二人で声を殺しながら笑った。本田さんは

「お昼休みに食事に行きませんか?」

と誘ってくれた。マイは嬉しくなって、

「もちろん、お願いします!」

と頭を下げながら言った。
その日を無事に終えたマイは、退社時間になり下の階によってみた。
有美がマイを見つけると、机を片付けて急いでマイのところに飛んで来た。

「マイ、どうだった?」

と心配そうに有美が聞いた。マイは

「まあまあかな?まだわからないけど、思ったほど嫌じゃなかったよ。」

と言った。有美は、

「さすがだね〜マイは。どんなだったの?」

と興味津々の様子だった。
マイは朝礼のこと、世界一真面目な上司のこと、本田さんのこと、お昼休みのことをすっかり有美に話した。
有美はふ〜ん、ふ〜んと、真剣に聞いてくれた。


有美と別れて地下鉄を降り、サンドイッチを買い込みマンションに帰った。
着替えて、荷物を抱え屋上に向かった。

「レイタさん!こんばんは!今日ね、大丈夫でした!」

という言葉から始まり、今日のことを全て話した。レイタは

「良かったですね、マイさんなら大丈夫。頑張ってくださいね。」

と言った。マイは、

「私ね、この頃思うんだけど、レイタさんに会ってから本当に良い方向に進んでいて毎日が楽しくなったの。ほんとうにありがとうございます。」

と頭を下げた。レイタは、

「私にあったからではないですよ。全てはマイさんの力ですよ。」

とレイタも嬉しそうだった。
マイは食べ終わり、夜空を見上げ星を少し楽しんだ後に部屋に戻った。


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