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連載小説『不思議な階段 4』

丈二の顔をじっと見ながら彼女は、

「ウチは、両親が魔女と魔法使いよ。あなたのウチは?」

と聞いてきた。丈二は、

「いや、僕のうちは、その、、、多分、、僕だけだと思う、、、」

とあやふやな言い方しかできなかった。彼女は、

「そんなことないと思うけど、、、?でも、わからないな。遺伝しかないと思ってた。私がそうだから〜。」

とちょっと自分でも考えるように言った。丈二は、

「そうなの〜?もしかしたら、多分、、、多分なんだけど、、祖父が魔法使いだったかもしれない、、、」

と思い切って言ってみた。彼女はにっこりしながら、

「きっと、そうだよ〜!」と言った後で、すぐに、

「あっ、失礼しました。私、菅本 樹里です。よろしくお願いします!あなたは?」

と聞いてきた。丈二は、

「ああ、僕は町田 丈二です。よろしく!」

と少し慌てて、頭を下げた。
二人とも、名前も聞かず話し込んでしまったことがおかしかった。
笑った後に、二人揃って階段を登り始めた。
登り始めると、彼女が、

「そうだ、私この状況は初めてだし、同じ境遇の人に会うなんてとてもびっくりしたわ。せっかくだからやり直し地点に戻ったら、次のパーキングエリアでお会いしません?」

と言ってきた。丈二は彼女に魔法のことを教えてもらいたかったので、

「もちろん、そうしましょう!」

と答えた。
階段を登り切ると、二人は同時に元に戻った。

車に戻った丈二はメール着信があったが、それには反応せずにまっすぐ前を向き運転を続けた。
前には樹里の赤い車が見えていた。
同じ頃、樹里はスマホを落としてしまったが、それには目も向けずに運転を続けた。
そのうちに次のパーキングエリアが見えてきて、お互いウインカーを出し、両車とも入っていった。
二人は同じエリアで隣同士に車を停めた。

コーヒーを買い、景色の良いテーブルについた。
早速、階段初体験の話が始まった。
樹里はやり直し階段のことを魔法と言っていた。
丈二はその言葉を聞くたびに自分が魔法使いだという自覚が強くなって、
とても嬉しかった。

樹里が初めて魔法を使ったのは3歳の時だと話してくれた。丈二は、

「3歳とは流石に両親とも魔法使いだからだね。」

と目をまるくして言った。
その体験とは3歳の頃、階段を登っている時、母親の手にぶら下がるようにふざけていて手が外れ踏み外し、落ちたのだそうだ。
そして、母親も慌てて樹里の手を掴もうとして踏み外したということだった。

今にしてみれば、母親と一緒でよかったと胸を撫で下ろす気持ちだと言っていた。まだ、理解するには難しい年だったので、両親はそれ以来樹里の行動にはとても気を使ったということである。

その後、物心ついた小学生の時に一人で横断歩道の手前で左右を確かめずに飛び出し、車に轢かれそうになった。
そしてやり直し階段が現れたそうである。
樹里はその時のことを、

「うっすら覚えていたのね、、、段々と3歳の時を思い出したのよ。三つ子の魂百までとはよく言ったものだわね。」

と言い、笑った。
そして、家に帰って報告すると、母親から階段の説明を全て聞いたということだった。
その日の夜は、夕食後に父親も話に加わり、これからの注意点や他人に対する常識などを三人でじっくり話し合ったそうだ。

丈二はそのことがとても羨ましく思った。




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