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八百屋一筋36年 

 豊島区椎名町にかつて16店舗あった八百屋が、川口青果店の1店舗のみになって久しい。100年近い歴史を持つ川口青果店の店主、川口剛宏さん(56)は、先代から数えて4代目で、この道36年のベテランだ。そんな川口さんは、ライバルに先を越されぬよう、週5日、夜明け前から新宿にある淀橋市場で野菜を仕入れ、配達に向かう。店を開けるのはその後だ。

 6月17日、午前一時半の淀橋市場には、野菜や果物の卸業者のトラックやフォークリフトが行き交い、すでに熱気にあふれていた。紫色のねじりタオルを首に巻いた剛宏さんは、この日も、開店前の配達のために午前一時半に淀橋市場に着いていた。配達がない他の八百屋さんは、競りが始まる午前五時半に合わせて来る。
「ライバルに良い野菜を取られないように、できるだけ早くまわる」との言葉通り、早歩きでカートを押し、卸されたばかりの、目的の野菜のもとへまっすぐに向かっていく。辿り着くと、段ボールを慣れた手つきで素早く開け、眉を少しひそめながら品定めを行い、サッと箱ごとカートに載せる。「産地を見れば野菜の質がおおよそ予想できる。あとは経験と勘。36年も八百屋をやってればわかるようになる」と少しはにかみながら語った。
 カートが箱でいっぱいになると、自前の一トントラックの荷台へ積み込む。配達の多い日はこれを五、六回繰り返す。この日は五回だった。その後、一度、店に戻り、配達分の野菜を分けてから、市場仲間の大畑秀樹さんとともに、椎名町駅周辺の小学校や保育園、銀行、天ぷら屋、おでん屋などに配達する。この日は計八件配達した。
 午前八時半、駅前の立ち食い蕎麦屋、南天で朝食を済ませた後、再び店に戻る。九時の開店に向けて、剛宏さんの母、ヨシ子さん、妻、伸子さんが出勤し、一緒に準備を行う。それでも、全ての野菜を並び終えるのは午後十二時ごろだ。「パズルのピースのように、野菜をはめ込んでいかなければいけないのが大変」と剛宏さんは語り、額の汗を拭った。

>第二回へ続く

文・写真 楠城昇馬

【プロフィール】
早稲田大学大学院政治学研究科在籍。
再開発計画により、立ち退くことが予定されている椎名町駅前商店街の方々を取材しています。

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