料理本を出せる人とは
「どうやったら本を出せるんですか」
料理家から何度この質問を受けてきたことか。
そこで、今日は口調を変えてさらっと考えていきましょう。
前回のエントリーで書いたように、普通の商業出版においては、この人の本が売れるのかどうなのかまったくわからないのに、その人の名前で本を発行し、制作費何百万円もかけるわけですから、編集者たちは非常にシビアに著者候補者を見ています。
なので、本当に一握りの方だけが実現できることになるのは仕方がないことなのです。
そんなことを念頭に、以下はさらっと読んでください。もう一度言いましたけれど、あくまでさらっと、でお願いします。その理由は最後に書きます。
その1 料理の腕とセンス
料理本の著者になろうとするので当たり前ですが、まず料理の腕は大事です。
でもどちらかというと、作れるとかレシピが書けるということよりも、普通より半歩先のレシピが作れるかどうか、かもしれません。普通ではだめ、先に行き過ぎてもダメ。半歩先ぐらいのところを提案できるかどうか。
「9割の普通に1割の個性が光るレシピ」がいいですね。
その2 アイディア
料理家の引き出しがどのくらいあるのか、ひとつの引き出しからいくつバリエーションが作り出せるのかも大事。
例えば、じゃがいもという素材を使って100レシピ作ってください、というオーダーに答えられるかどうか。編集者を虜にするか、という言葉の意味はそれが売れる商品になるかどうか、です。
その3 お客さんを持っているかどうか
発売後のプロモーションも含めて著者選びをするので、この人を通じてどれだけの人数が買ってくれるのか、つまりフォロワーをどのくらい持っているかどうかといったことも重要な要素になります。
その4 料理以外の部分
新人の場合は、その料理家が持つ世界観も気にしますが、それはそれほど重要じゃないです。
なぜなら本の場合は、写真もスタイリングも、なんならレシピを書いてくれるライターもいて、それぞれのプロの力を重ね合わせていくことで、著者も思ってもみなかったまったく新しい世界を作り上げていくこともあるからです。写真の腕はいりません。スタイリングもできなくてOK。むしろ料理に集中してくれたほうがいいです。
その5 他人との協働作業が好きなこと
編集者やカメラマン、スタイリスト、時にはデザイナー(アートディレクター)のオーダーに合わせて、たくさんの引き出しからいろいろな要素を出してきてくれて、こんなのはどうですか? と提案がたくさんできる人がいい。逆に言えば、自分にこだわり過ぎないこと。
なので、チーム作業を厭わない人、というのは大切です。
その6 情熱的であること
私は情熱家に弱い部分があって。ひとつのことに対してありえないほどの熱量を持った人、でも変人ではなくていわゆる人柄もよくてバランスの良い人だとありがたいですが、マストではないです。
その7 ちょっと変わり者であること
たまに変わった人もいるんです。でも、編集者はそもそもちょっと変わった著者には慣れています。私は出会っていませんが、SNS出身の料理家の中にはLINEで全レシピを送ってきたという猛者もいると聞いています。それでも人気著者になれたらオールクリア、です。
私は手書きレシピを全部入力したことあります。プロの料理人の中にはこういう人は少なくないです。レシピは分量のメモしかないやつ。
私の場合は、本を作る時は、ほぼ全レシピを自宅キッチンで試作しながら制作を進めますので、入力作業は作る前のレシピ読みを兼ねられるので問題なし。許容範囲内です。
編集者によっては、そんな仕事はライターにふっちゃうという人もいると思いますが、私は入力することで矛盾点を見つけたり、曖昧なところを問い合わせたりが可能になるので、時間はかかるという難点があっても問題視はしません。
ちなみに、毎回私が試作する理由は、曖昧さの排除と、再現性を徹底したレシピにするためです。
それを考えると、細々とした問い合わせを面倒くさがる人とは仕事出来ないなあ。
あ、それがチーム作業を厭わない人、という意味にもつながります。
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以上、こまごまと上げてきましたが、一言でまとめるならば、すべてにおいて「普通」はなしと言うことでしょうか。普通では、人は本を買ってくれません。
でも、奇抜とは違います。説得力のある普通プラスアルファがちょうどいいバランスなんですが、このあたりは人によって微妙なさじ加減にした対応が必要なので、理論的に説明するのは困難です。
だからさらっと読んでいただきたかったんです。
こうですよ! という正解はない世界だと考えていただければ。
あ、ただ、フォロワー数がすごく多い! というのは間違いなく出版が近づくデータ。出版したければフォロワーを増やせっていうアドバイスになるんですが、増やすってどうやって? の堂々巡りがやってくるだけですねー。ははははは。
ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!