海外料理本に見る台所の美5選
海外のライフスタイルが好き、とくに料理やテーブルデコレーション、季節のおもてなしにインテリアが好きとなれば、米国の雑誌『MARTHA STEWART Living』を知らない人はいないと思います。
海外の台所本を紹介するにあたり、トップバッターややっぱりマーサよね、と思っていたんです。
暮らしの中心は台所とマーサが教えてくれた
ところが、マーサ・スチュアート・リビングが2022年5月で休刊になる、というニュースが飛び込んできました。
うーん、紙の媒体がとうとうなくなるのか。
1990年に創刊され、ピーク時には200万部だったというのですから、日本の出版物とは桁違い。当然制作予算も桁違いなわけですから、ますますステキ写真とアイディアにあふれた写真がたたっぷり掲載されていたわけです、あの雑誌は。
今後はWEBメディアmartha stewart.comを中心に、デジタルへメディアが中心になるそうですが、雑誌の見開きで掲載された写真の美しさと迫力は、やっぱり紙媒体ならではだったように思います。
暮らしの中心は台所。そう意識させてくれた媒体でもあったように思います。
台所は料理する人の思考が表れる場所
そんなマーサの台所がきっかけとなって、海外の書店で料理本を物色する際、その料理が生まれるキッチンの写真が掲載された本に出会うとほぼ確実に購入してしまうという習慣も生まれました。
著者である料理家の暮らし、思考が表れる場所というのに惹かれるんです。
しかし今は自由に海外に行けない時代です。
幸いにして翻訳された海外料理本を紐解いてみると、意外とキッチン風景が写り込んでいるんですよ。とくに写真の多い本は、日本の料理本よりもキッチン風景をしっかり掲載しているケースが多いように感じます。
例えば、最近、話題になったこちらの本。米国のラッパーで今年のスーパーボウルのハーフタイムショーに出演し、ますます有名になったスヌープ・ドッグは料理上手としても知られ、マーサと一緒に料理番組に出演していたほど。
その彼の翻訳本がこれまた破天荒なデザインで、手に取らずにはいられないもの。
マーサによる序文から始まる最初のほうに、「俺の食品棚の中」と「俺の冷蔵庫の中」と見出したつけられた見開き写真があるのだけれどね、もうね、それを見ただけで本書がどんな料理を教えてくれるのかがすごくすごくよくわかるのです。That's America!です。
さらにページを繰っていくと、シンク横に寄りかかるスヌープや、トマトソースをかき混ぜ中の写真が見つかるので、なんとなくキッチンの様子がわかります。
ああでもこれ、本当のスヌープのキッチンなのかな。撮影用のスタジオ、かもしれませんね。
でも、まあそうだったとしても、アメリカのキッチンの様子はこんな感じ、という理解でいいですよね。
ちなみに、レシピはちゃんとしています。いわゆるダイナー料理。私は大好きジャンルなので、レシピを読んでてもワクワクです。
レイチェル・クーの小さくてもおしゃれなキッチン
アメリカのキッチンがきたら、次やはっぱりヨーロッパ。
となったら、レイチェル・クーは外せないでしょう。
NHKでも放送されましたので覚えている人も多いですよね。
レイチェル・クーのパリの小さなキッチンは本当に小さくて、驚きました。日本の一人暮らしの台所みたいなものです。2口のコンロにオーブン、小さな流しがあって、冷蔵庫と収納棚が入ったらパンパンなキッチン。
でも、タイルの壁とか、収納された小物がおしゃれに見えちゃうのはなぜなんでしょう(笑)。
レイチェル・クーの本は日本では4冊翻訳されていますが、いちばん最初のこの『パリの小さなキッチン』がいちばんレイチェルらしさが出ているように思います。リアルな生活感はこの本にしかない、とも言えるかな。
(その後の本は有名になった後なので、企画先行な作りです)
レイチェルのキッチンは、パリのかつてのお屋敷を、何百年もリノベーションしながら使い続けてきた結果とも言えます。
イギリスの貴族の館の台所はこうなっていた!
パリばかりでなく、ヨーロッパのあちらこちらでは、歴史的建造物が博物館や美術館になって公開されているので、王侯貴族の当時の暮らしのまま、館の様子を垣間見ることができますね。主の豪華過ぎるほど豪華な部屋ばかりでなく、使用人エリアも公開されている場所では、当時の台所がそのまま公開されていることがあります。
そんな場所を使って、動画番組を作り、本にもしたのがこちら。
『ミセス・クロウコムに学ぶビクトリア朝クッキング 男爵家料理人のレシピ帳』は、舞台となるオードリー・エンドと呼ばれる壮大な屋敷に料理人として使えたミセス・クロウコムが書き残したレシピ帳を再現した料理本。
第3章には、「ミセス・クロウコムの領域」と題して、オードリー・エンドの使用人棟内部の様子がしっかり撮影されています。
どっさりと吊るされた銅のフライパンや鍋、クラシックスタイルな食器、巨大なオーブンや天井から吊るされた洗濯物、チーズ室など、「そんな使い方をしていたのかー!」とまじまじと見てしまいます。
ミセス・クロウコムの動画シリーズ「The Victorian Way」はYou Tubeでも見ることができるんですが、150年以上前のキッチン、なんだか使いやすそうに見えます。
ベルリンのアートスタジオのキッチン
最後は、現代アートスタジオのキッチンを。
アーティストのオラファー・エリアソンが構えるスタジオキッチンは、倉庫のような巨大な空間にコの字型に配置され、業務用コンロにシンクが2か所、食器洗い用シンクが別途あって、さらにオーブンや冷蔵庫や、巨大なボウルやなにかよくわからない調理器具がずらり並ぶ棚があって、さらに別の場所にもキッチンスペースがあって、さらに撮影スペースがあって……と、冒頭のマーサスチュワートリビングオムニメディア社(MSLO)がNYに構えていたスタジオより広い…かもしれません。
スタジオでは、スタッフ全員で毎日昼食を取るそうで、そこで作られるヴィーガン・レシピが掲載されているわけですが、家庭でも作れるレシピになっています。
料理の写真ばかりでなく、調理中とか、食材とか、実験しているかのような写真がすでにアート。日本人スタッフもメンバーなんですね。
日本の出版社ではなかなか実現できないタイプの本ですけれど、せっかく翻訳書があるわけなので、ぜひ手にとって見ていただきたいなあ。
ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!