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料理本マニアで台所好きによる「おすすめ台所本7選」

キッチンが好きです。や、キッチンではなく、台所でも厨でもなんでもいいのですが、とにかく料理が作られる空間というものがいつの頃からか大好き。
生活史研究家の阿古真理さんらと非公開のFacebookグループ「理想のキッチン検討会」で話し合っていたのが縁で、このたび雑誌クロワッサンの特集『あのひとの工夫を拝見。台所と道具。』に、阿古真理さんと私とで、キッチン収納について対談した記事が掲載されました。
ここnoteでは、主宰するWEBメディアCOOKBOOK LAB. のスピンオフとして、料理本のトレンドや出版についてキュレーション記事を書いてきましたが、クロワッサン掲載記念ということで、私なりの「おすすめ台所本」を紹介していきたいと思います。

台所の工夫、それぞれ

女性誌の勢いがあからさまに衰えてしまった今、月2回発行のクロワッサンは稀有な存在です。毎号、力の入った特集が展開され、健康やお金、料理、インテリアやライフスタイルなど、40代以降の女性がほしい情報がモリモリに詰め込まれています。

今回の特集「台所と道具」は、とくにそう感じられることでしょう。
ホルトハウス房子さん、ウー・ウェンさん、飛田和緒さんの台所拝見を皮切りに、野口英世さんの使いやすい台所収納悩み解決や、牛尾理恵さんの段取りに応じた収納法、料理上手な男性3人の厨房、上田淳子さんのかっぱ橋道具街ガイド、台所のもやもや解消アイデア集、包丁・まな板・キッチンはさみに調理家電、台所のお手入れ方法まで、まあとにかくびっくりするぐらいの充実度。
ただ美しいだけのインテリア的な台所ではなく、毎日使う人たちが工夫して使いこなしているだけに、その情報の精度はすごいものがあります。
阿古さんが新居探しでこだわった点もなるほどがいっぱいで、実践したい人の保存版になること間違いなしです。
力を込めておすすめします。

料理研究家のキッチン

とはいえ、家庭料理のプロである料理研究家のキッチンについては、もっと深く知りたい。大好きなあの人のキッチンならなおさら、てなりませんか。
私はなります(笑)。
そこでこの2冊をご紹介。

苦手とストレスを取り除いたキッチン

1冊目は、NHK料理番組などでおなじみの大原千鶴さん。
ご自宅とアトリエの2つのキッチンを作った経験をエッセイとしてまとめたもの。今年2月に出たばかりです。

NHK『あてなよる』でおなじみのあのキッチンは、物件探しの経緯からインテリアデザインまで詳しく語られているのでファンにはたまりません。坪庭に面したカウンターキッチンは、毎晩飲みに通いたくなるような風情のある設え。
でも私が個人的にうらやましく思ったのはご自宅のほうで、なんとふきん専用の洗濯機を備えていること。掲載写真をよーく見ると、たしかに奥のほうに乾燥機付きドラム型洗濯機が!(いーなー…)スペースがあればこそではありますが、「苦手やストレスを取り除くために取り入れた」という考え方は確かに重要かもしれません。

おいしいもの好きは「台所一人宴会」

もうひとり、私が気になる料理家さんといえば、ツレヅレハナコさん。もともと編集者だったのがおいしいものブロガーとして注目を集めるようになり、今ではすっかり人気作家に。今月も来月も新刊が出るだけでなく、雑誌や他書籍にも同時並列的にインタビューが掲載されているという…すごい人です。

そんなハナコさんを私がはじめて知ったのは、実は朝日新聞の&wというウエブメディアの大人気連載、大平一枝さんによる「東京の台所」記事なのでした(当時はフードブロガーと呼ばれていたのね)。
この時紹介されていた台所の様子が印象的で、読んだ当時、ツレヅレハナコ名義の著作が2冊も出ていると書かれていたので、検索してさっそく購入したぐらい。なぜって、この台所から生まれる料理なら絶対においしいと確信したから。

それで、彼女の台所本が出てすぐに購入したのがこちら。

台所道具から綴られたエッセイですが、道具よりも台所。台所の様子ばかり気になって、写真は穴が空くほど眺め、「台所一人宴会」に大きく同意。私も、クロワッサンに掲載されたあの場所に一人立って、何かを食べる、飲む、ということを日常的にやっています。
そんなハナコさん、一人宴会をやっていた賃貸マンションを離れて一軒家を建てます。その様子をつぶさに綴ったレポート『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)を出版していますが……私、この本は購入していません。
まあ理由はレビューの通り。さまざまなメディアで取り上げられてましたからね。

ちなみに、大平一枝さんの連載は『東京の台所』(平凡社)として2015年3月に書籍化されています。こちらは市井の人の生き様を台所を通して伝えるもので、東京に暮らす日本人が何を食べ、どう考え、どう生きているかにしみじみ心動かされます。

世界の台所

さて、台所好きは世界の台所についてもだまってはいられません。
まずはこちら、noteでもおなじみの岡根谷実里さんの初著書。

世界約16カ国を訪れ、その国のキッチンで家庭料理を習い、一緒に食べた岡根谷さんの体験がまるっと収められています。
訪問国がアジア、中南米、中東、アフリカが大半なので、いわゆるプリミティブな台所も多く、多様さに圧倒されます。

一方、ヨーロッパでは、あのウクライナも訪れていて、友達の紹介で知り合ったキーウ(当時はキエフ)に住むITエンジニアが作ってくれたというじゃがいも料理が紹介されています。
この本で訪れたのは2012年頃のことですが、すでにロシアとの国際関係やウクライナ経済について触れられていますから、あらためて彼の地の「今に始まったことではない」が台所を通して知ることができます。
まさに台所で世界を知るです。本の表紙を開いてすぐの袖にある、「台所には生きるすべてがつまっている」という言葉がより現実感を伴って迫ってきます。

商品開発をきっかけに世界のキッチンへ

岡根谷さんの本の前年、2019年に出た『世界のキッチンから 商品開発と写真の関係』(美術出版社)という本もあります。

こちらは、キリンビバレッジの清涼飲料水「世界のKitchenから」という商品開発のために、世界20都市を訪問、取材した時に撮影した高橋ヨーコさんの作品をまとめた本。商品開発記録が写真集になるという、珍しい形態です。

けれど、その名の通り、世界のキッチンが陰影もそのままに写真に収められていて、ノスタルジックな気分になるとともに、現代日本の妙にきれいなキッチンが薄っぺらく見えてきてしまいます。

商品開発チームのインタビューも読み応えがありますが、「ベラルーシのクランベリーモルス」の作り方が掲載されているのを見ると、現在進行中の戦争とのギャップに胸を突かれます。

イタリアのグランマのキッチン

キッチンが食文化と切り離せないからこそ、グランマのキッチンは見応えたっぷり! と主題であるパスタよりもキッチン写真に目が釘付けになってしまったのが『パスタ・グラニーズ イタリアのおばあちゃんの手打ち生パスタ』(グラフィック社)です。

もともと多くの都市国家が寄せ集まった国ですから、郷土色が強く、それぞれの土地にそれぞれのパスタがあって、伝統的な製法で作られたパスタは各家庭の味がある、と全国を取材し、75レシピを収めた本書です。

ですが、パスタのレシピよりも、教えてくれるおばあちゃんのキッチンの様子がいいのです。こざっぱりとした台所であろうとなかろうと、何十年も使い続けているであろうパスタ台の重みとでもいいましょうか。キッチンの写真を探してページを繰ってしまう私です。

日本の台所は? 理想のキッチンとは?

冒頭に書いたように、クロワッサンに取材いただいたきっかけは、阿古さんの新居探しに伴って始まった「理想のキッチン検討会」でしたがメンバーの一人に主婦の友社の編集者もいました。

彼女は『主婦之友100周年記念 ニッポンの主婦100年の食卓』(主婦の友社)の担当編集者。日本の台所の変遷も詳しく紹介してくれました。

紙の本こそ絶版になっていますが、幸いなことにkindle化され、 unlimitedにも入っていますのでぜひご覧いただきたい書です。主婦の友社に保管されている貴重なバックナンバーのおかげで、大正から昭和のキッチンを垣間見ることができるのですから!

余談ですが、昭和の生まれで、当時最先端と言われた団地に生まれた私は、本書に掲載されているような部屋で育ちました。赤ちゃんの頃のモノクロ写真はまさに団地の台所をバックに撮られたものも。
また、食卓に並ぶ料理の記憶は、本書に収められた写真と一致するものばかりで、デジャブかと思った(笑)。
そうか、我が母は雑誌「主婦の友」で作り方を学んだのか、とわかって、いろいろな謎が解けたような気がしたものです。

台所の風景

昭和から平成、そして令和となった今、キッチンの風景はだいぶ変わったような気がします。
が、ここで深堀りするには長くなりすぎました。料理本を通してキッチンを語る、台所から見える食と暮らしについては、まだまだいろいろな切り口で紹介できる本がたくさんあります。

そのうちのひとつが建築家の宮脇檀さん、イラストレーターの根津りえさんによる『最後の昼餐』(新潮社)などはぜひ取り上げたい一冊です(現在は絶版)。
おふたりともすでにお亡くなりになって久しいですが、コロナ禍で急に注目を集めたグランピングならぬベランピングを20年以上前に実践されていました。今あらためて読むと、台所の考え方も、暮らし方も、料理も見習いたいものばかりで憧れが募ります。
本書はあらためてちゃんと紹介したいと思います。


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