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夢を叶えた書店で24,566円を売り上げた話から本が売れる理由を考えた

東京日仏学院の敷地内にあるシェア棚書店、PASSAGE RIVE GAUCHで書店を開いてまる3ヵ月、4ヵ月目に突入しました。

書店オープンのときの記事がこちら。

PASSAGE RIVE GAUCHE
〒162-0826 東京都新宿区市谷船河原町15
場所:東京日仏学院敷地内
最寄り駅:JR飯田橋、東京メトロ飯田橋 下車徒歩6分程度
営業時間:12〜19時、月曜定休
地図:https://maps.app.goo.gl/pMimf2N6pPupBnKRA


この週末にも補充のため搬入に行ってきました。

おかげさまで、書棚オープン月から少しずつ売れていて、集計してみたら本日までの総売上は24,566円です。販売手数料15%を差し引くと、私の口座に振り込まれる純利益は21,117円
これでまた新しい本が買えます。ありがたや。

もちろん、シェア棚賃貸料7000円(税込)がこれとは別にかかっていますので実質は赤字です。それでも、金銭のやり取りを通して本の流通・消費を体感できているのは、出版社出身のフリーランス料理本編集者にとっては稀有な体験なんです。
なぜって、これまで30年以上もずっと制作の現場で、「どうやったら売れるのか」とさまざまな試行錯誤を繰り返してきたわけですが、書店に委託するのではなく、売り方を工夫しながら自分の選書で棚を作りながら、実際に「売る」体験をするのは人生初です。
ああ、こうして本は売れるのか、と少しだけ体感できた。

よい機会なので、この3ヵ月をざっくり振り返ってみようと思います。

シェア書店をオープンした、セレクト料理本棚にした

まず、シェア棚書店は、これまでnoteやホームページ、各種SNSでやってきた「料理本の良書を伝え広める」「著者の推し活」のリアル版として開設しました。
料理レシピ本はもちろん、食文化全般を広く伝える本や、料理写真の撮り方、料理教室の開き方といった本も置いてきました。

ただ、シェア棚書店RIVE GAUCHEが東京日仏学院の敷地内にあるという環境を活かし、「フランス関連書籍」と、そこから少し派生して海外旅の本も並べて「動き」を表現しつつ、この書店に立ち寄ろうと思う方々の好みや潜在意識を探っていたつもりです。

とはいえ、棚のスペースは左右42cmちょっとしかない上に、必ず1冊を面陳(表紙を正面にして置く並べ方)をしているので、置ける冊数は限られます。
常時15〜16冊程度です。
新刊・既刊、絶版本に限らず、また書籍だけでなくムックや雑誌も今後は並べていくと思います。

ちなみに、書籍、雑誌、ムック等の種別の違いは一般書店や版元にとって非常に重要なことなのですが、シェア棚書店は古物商から発展した形なので、あまり関係ありません。
私が出店しているPASSGEは古本だけでなく、取次から新刊を「買い切り」で8掛けで仕入れることができます。

これは実はすごいこと。
私のような素人が新刊を売ろうと思ったら、版元から仕入れるか、著者が版元から買った本を分けてもらうか、フリマサイトでせどりするか、自分で定価で購入して付加価値を付けて利益をつくるかしかなかったので、PASSGEのようなシステムはありがたいわけです。
(フリマサイトで新刊を仕入れるって、ちょっと私には心情的にツラい ←やわかってますよ、いろいろ。制作側の心情的にそう思うだけです)

そんなわけで、夢の書店経営をとにかくやってみよう、と乗り出したわけです。

売れる、売れないの理由は、意外なところにあった?

シェア棚書店を出したときからもっとも気になっているのは、
「売れる本はなぜ売れるのか」
「売れない本はなぜ売れないのか」
です。

出版業界に入って35年。今でこそ料理本専門を掲げていますが、版元時代は、就職情報誌からはじまって海外旅行や留学、語学、海外文化や趣味の本、病気の本などなど、あらゆる実用書を作ってきました。その数400冊以上。

そんな中で大ヒットになった本が「なぜ売れたのか」は、分析の後づけでしかなく、たぶんそうだったんだよなあ、でも売れる現場を見たわけじゃないし……とずっとモヤモヤしていました。

それでやっぱりこたえは現場にあり、と書店に通うわけですが、書店の棚の担当者のフィルターがかかります。
お客様だって、意識して手に取るわけでもありません。「なぜ買ったんですか?」と聞いたところで明確に言語化してくださる方はほんとに少ないのです。
だから苦労することが多いというか、いわゆる消費者のインサイトを探る旅がずうっと続くんですよね。
天才と言われる編集者がたまにいますが、このインサイトに気づけるかどうか、感度が高いと天才と言われる編集者になれるのだろうと思っています。

売上24,566円の意味

じゃあシェア棚書店を運営して何か回答を得たのか、というとまだ3ヵ月ちょっと。それでも「こうかな?」という仮説ができてきました。

それは、

・料理本の場合、自分が手を動かすこと、作るシーンがイメージしやすいと売れる?
・こんな暮らししたいという気持ちが刺激されると売れる?
・誰かに教えてあげたいと思うと売れる?

当たり前のことじゃん!!! て言われちゃいますかね。

でもね、怒らないでください。これが実感できたのが大きいんです。24,566円の総売上となった本リストを眺めていると、そう思うんです。

もちろん場所柄本も混じってますよ。
東京日仏学院ですから、フランス旅行やフランスでの暮らしを想起させる本は、搬入してわりとすぐに売れます(これが売上の下支えになっている)。

でも、意外だったのが、「誰かに教えたい」意欲が販売のきっかけになっていること、です。読んで教えてあげようという気持ち、確かに私もあるなと思ったんです。

これも次の本づくりのひとつのヒントになるかもしれません。
本を出版したい人の企画の大きな手がかりになるかもしれません。

やれば動く。書店としての売り方、姿勢

もうひとつ、別な側面として重要なのが、「動かしたら動く」ということ。
何かっていうとね、書棚を動かしたら売れるんです。

オープン以来、初月を除くとだいたい、週1回のペースで搬入だったり、棚の置き換え等で書店に行き、本の置き方を変えたりして、少しでも「動き」があるようにしています。
すると、お客さんには何か伝わるのか、何かが売れているんです。
既刊本だから安くなってて売れた? と思いきや、値段ではない。
何かがお客様の目の端に写って、「あ、買おう」と思ってもらえた。

つまり、「動きがある書棚」は人の目に停まるし目立つし、動いたと認識してもらえたら「何かある」という期待感を引き出すことができる……ような気がします。
値段だけの問題じゃないな、タイトルだけじゃないな、表紙デザインだけでもないな、では何?ーーとますます観察に力が入ります。

それが、運営して3ヵ月たった今、わかってきたことです。

消費者の「無意識」を意識的にさせる

そうしてみると、面陳される本があるかないかが重要なのか、という仮説も立ちます。
それが欲しい本であるかどうかではなく、「視点を集める」仕掛けとして必要な存在であるということ。

もともと私たち編集者は、買ってもらうためにものすごいエネルギーをかけて表紙を作っています。

書店の側にしても、面陳にする本は人気の著者を選ぶのはもちろんとしても、「売れそう」なタイトルやデザインであることが大切なはず。
それはいずれも、「視点を集める」「変化を感じ取ってもらえる」「気づきを与える」などの効果をもたらし、消費行動に移すきっかけになるものなのでしょう。
言い方を変えると、スリープからオン、脳死状態でスマホからの覚醒、みたいな感じですかね。

***

そうしたことをこの3ヵ月で体感できたなあと。
何度も言いますが、販売のプロにとっては「当たり前じゃん」のことばかりだと思います。世の中ではとっくにわかりきったことであって、私のような現場素人の、制作しかやってこなかった者が頓珍漢なことを言ってるだけなんだろうと思います。
それでもね、私にとっては大きな気づきを得られた3ヵ月なんです。24,566円以上の価値なんです。

まだ何かがわかったわけではありませんので、もう少し観察を続けていきます。続けたら私も売れる人になれるかな、などと妄想しつつ。


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◆料理本専門書店COOKBOOK LAB(クックブックラボ)
料理本編集者であり、料理本が好き過ぎて自宅蔵書が2千冊を超える私が選書したシェア棚書店です。新刊・既刊・古本(絶版本含む)関係なく、料理好き、料理本好きに推したい本を並べています。
東京のJR山手線の円の中心、江戸文化と食と出版人が集う神楽坂。そぞろ歩きのついでにぜひお立ち寄りください。
#PASSAGE_RIVE_GAUCHE  

PASSAGE RIVE GAUCHE
〒162-0826 東京都新宿区市谷船河原町15
場所:東京日仏学院敷地内
最寄り駅:JR飯田橋、東京メトロ飯田橋 下車徒歩6分程度
営業時間:12〜19時、月曜定休
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料理本関係Instagram @kumikaseyayokoo/
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X @cookbook_lab

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COOKBOOK LAB. 主宰・綛谷かせや久美のしごと
・料理本専門を掲げる商業出版の編集者、元出版社編集長
・商業出版を目指す人のための出版プロデューサー
・料理を仕事にする人、料理インフルエンサーのためのビジネスコーチ




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COOKBOOK LAB./綛谷久美(商業出版編集)
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