インタビュー: 福岡大学を “新しい学び” のプラットフォームに ~ 松隈洋介 先生
◆ 使ってみませんか?福大のリソース
――先生、お久しぶりです! 早速ですが、2024年の目標、「福大を新しい学びのプラットフォームにする」ために、どんなことをなさっているのでしょうか?
こちらは、私が中心になって何かを催すわけではなく、みなさんに福岡大学から情報発信していただこうという取り組みです。子どもや教育に関するさまざまなイベント、講演会、セミナーなどを、大小かかわらず、福大でどしどし開いていただいています。
――つまり、福岡大学の教室をお貸ししている、と。
そういうことですね。
――とても多彩ですね! どうやって開催ニーズを掘り起こしているのですか?
SNSや口コミで知っていただいているようです。ありがたいですね。
◆ 地域貢献も大学の使命です
――教室の利用を推進する。つまり、具体的にはイベント等の主催者さんと、大学の施設管理職員さんとをつなぐ役割ですよね。
はい、催しの内容をうかがって、ちょうどよい部屋を探します。福大には10人程度でディスカッションできる部屋から1000人以上を収容できるホールまで数多くとりそろえていますので、幅広いニーズに対応できます。無料で利用できる部屋もあるんです。
――なんと、無料で! ‥‥テレビショッピングみたいなリアクションをしてすみません(笑)。
無料の部屋が空いていたら、まずはそちらをご紹介しますのでご安心ください。有料になる場合も比較的安価ですよ。
――先生、ご本業のかたわら、このような活動は手間なのでは?
いえいえ、基本的にメッセージのやりとりですから。「お部屋、空いてますか?」「空いてます」「じゃあ借ります」「ではこちらの申請書を書いてください」という感じです。
――イベント等の場所を探している人にとって、福岡大学という選択肢はかなり有力ですよね。ある意味、イベントの信頼性にもつながる面がありますし。
おかげさまで、喜んでいただいていると思います。交通の便も良いですしね。
――参加する側にとっても、キャンパスの雰囲気を体感できるのが良いですね。子どもさんも大学の教室に入るチャンス!
はい、ぜひお子さんと一緒に福大にお越しください。
――さて、この「福大を新しい学びのプラットフォームに」という目標は、どのようなきっかけで着想されたのでしょうか?
そもそもの始まりは“開智プロジェクト”への参加ですね。
株式会社植松電機の植松努社長と、昨年逝去された本学経済学部の阿比留正弘教授が立ち上げたプロジェクトで、月に一度、メンバーでこれからの学びのあり方を語り合っています。
そこで、「それぞれが得意なことを持ち寄ると、おもしろいことができるんじゃないか?」という話になり、昨年11月、福大で割と大きなイベントを催したんですよ。
――それが「シン・わくわく学びフェス」ですね。
はい。いくつもの教室や廊下を使って、講演会や対談、ワークショップなど盛り沢山の内容で開催しました。
手前味噌ですが、これがなかなか盛況で。植松さんのお話に感動して涙する方や、楽しそうに廊下を走り回る子どもたちの姿を見てうれしく思いながら、ふと「あ、福大って、こういうこともできるんだ」と気づいたんです。
――先生がいつもおっしゃっている「新しい学び」のプラットフォームとして、福大が浮上したんですね。
はい。「いろんな人が情報発信できる場を提供できるやん!」「福大、良いリソースを持ってるやん!」と。
――今さら素朴な疑問ですが、大学の関係者ではない主催者でも利用可能なのですか?
大丈夫です。大学の使命は研究を社会に還元することだけではありません。地域貢献も大事な役割なんですよ。福大にも社会連携センターという部門があり、私の活動もバックアップしてもらっています。
――確かに、学びの機会の提供は地域貢献につながりますね。
ひいては福大のプレゼンスも高まるはずです。
――福大にもちゃんと貢献している!(笑)
◆ 福大でわくわく、子どもたちに自由な学びを
――これまでに福大を利用して開催されたイベント等をいくつか振り返らせてください。
――3回にわたって開催されている「こども先生」。おもしろい名前ですね。
文字通り、お子さんに先生になってもらって「大人のここが変」と思うところを教えてもらいました。「どうして大人は買いたいものがあるお店にまっすぐ行かず、別のところで余計なものを買って、結局目的のものが買えずにしょんぼりするの?」とか「公園で『ほら、お友だちがいるよ。一緒に遊んでおいで』と言うのが変。知らない子なのに」とか。
――わ~、身に覚えが‥‥!(笑)
ほかにも毎回、ユニークな活動をされているんですよ。われわれ大人が子どもから教えてもらえることがいろいろありますね。
――こ、こちらはいったい‥‥?!
これは中央図書館の多目的ホールで催された「トーキョーコーヒー カンファレンス」ですね。
トーキョーコーヒーとは“とうこうきょひ” のアナグラムで、この日は全国各地の拠点からたくさんの親子が集まり、朝から夕方までひたすら楽しいことを追求しました。
この写真は、ペーパーファッションショーの様子です。チームごとにお題をもらって、紙とテープだけでパリコレ級に突き抜けた服を作るんです。うちのチームのテーマは「トンボ」だったので、オニヤンマをイメージして作りました。
――力作ですね!
実は数年前から「モデルになりたい」とあちこちで語っていたので、夢が叶ってとてもうれしかったです(笑)。
――まさに「思うは招く」。先生もとても楽しそうですね。
はい、開催されるイベント等には、都合が合えば私も参加して楽しませてもらっています。時間があれば、ロケットを打ち上げてお見せすることもありますよ。
――そんなうれしいおまけがついてくることもあるんですね!
福大の教室を利用する場合、イベントやセミナーの内容に何か基準はありますか?
今のところ、あまり細かい制約は考えていません。基本的には学びに関すること。子どもや若い人たちが元気になる、希望をもてるものがいいですね。
――大人が笑顔になると子どもも元気になるので、その意味で大人向けの学びのイベントもOKですね。
はい! わくわく、のびのびと学べるセミナーやイベントをお願いします。いろんな人に利用してもらって、何かやってみたい人に「福大に行ってみるか」と思ってもらえるようにしたいです。
◆ 最初は一人きりでも、きっと仲間ができます
――「自由」が先生のキーワードのひとつではないかと思います。自由に学び、自由に楽しむ。一般的に、不自由のつらさをよく知っている人こそ、自由を大切にするのではないかと思いますが‥‥。
私にもそれはあるでしょうね。10数年前は鬱でしたから。私の場合、ある程度若い時期、経験や実力があまり伴わないまま准教授にしてもらったので、「こうあるべき」だとか論文の数だとかにずっと縛られていました。自分じゃないものを演じているようで‥‥。
―――「こうあるべき」が人を苦しめるのですね。
だから、今はもうありのままで生きています! オープンカーの屋根を開けて髭ダンの「Pretender」を大声で歌い、夏場はミッキーマウスのTシャツでその辺をうろうろしています(笑)。
――おひとりで自主的にいろいろな活動をなさっていますよね。大学近辺のゴミ拾いやオープンキャンパス(研究室見学+α)など。
福大の入学試験と入学式のときは、勝手に校内案内係もやっています。広い学内、迷われる方が多いんですよ。
――考えてみれば、「福大を新しい学びのプラットフォームに」の取り組みも、先生が一人でスタートしたものですね。
「こんなことをやるといいんじゃないか」と思ったなら、まずは自分が行動を起こしてみればいいんだな、と気付かされます。一人でもできることってけっこういろいろあるんだな、と。
そうですね。思うに、私の性格や活動を、みんながみんな「いいね」と思っているわけではないでしょうね。「がんばってるね」と言ってくれる人もいますが、逆に「いったい何をやってるんだ?」と思う人もいるんじゃないでしょうか。
でも気にしません。なぜって、「10人いれば、2人はファンになって応援してくれる。2人は何をしたってアンチになる。あと6人は何とも思っていない」。何でもそんなものなんですって。
――アンチの発生は不可避ということですね。
そう思います。一人で何かを始めるのは勇気が要りますよね。一人だとマイノリティだから。
でも、やっていると誰かが「いいね」と思ってくれて、そのうち手伝ってくれる人も現れます。そうやってだんだん仲間が集まってくる。すると、どこかでマジョリティに変わる瞬間がきます。価値観が逆転するんです。これまでの社会でもいろいろありましたよね、そういうことが。
だから、人の目は気にせず、自由にやろうと思っています。もちろん、してはいけないことはしませんが。
――実際に、福大での取り組みにもたくさんの人が集まっていますよね。
◆ 手作りのロケットを飛ばして、不安の先の喜びを味わいましょう
――松隈先生といえば「ロケット教室」のイメージがあります。福大をはじめ、いろいろなところで子どもたちとロケットを打ち上げて、もう2年以上になりますよね。
はい。最近、初心に戻った感じがしますね。
――何かきっかけがあったのでしょうか?
この4月、植松努さんが私のロケット教室に来てサポートしてくれたのがきっかけです。
打ち上げは失敗することもあります。そのときも、ある子のロケットの部品が外れてうまく飛びませんでした。
そしたら植松さんは、翌日の早朝、グラウンドにその子のロケットの部品を探しに来られていたんです。帰りのフライトの前に、わざわざ。そして落ちていた部品を探しあて、ロケットの本と一緒にその子に送ってあげたそうです。
――すごい‥‥! その子はどんなにうれしかったでしょう。
ロケットを飛ばすとき、子どもはすごく緊張するんですよ。「僕が作ったロケット、飛ばなかったらどうしよう」とドキドキしながらスイッチをポンと押す。するとピュッと高く上がって、パラシュートがひらいてふわっと降りてくる‥‥。
不安の先に喜びがあるんです。不安を乗り越えるからこそ、いろんなことに挑戦できる気持ちが育まれる。これがロケット教室の核なんですよね。
――ロケットを作って打ち上げる一連のプロセスに、難しいチャレンジに伴うドキドキや喜びが凝縮されているんですね。
はい。だから、失敗したまま終わったらダメなんだなと。外れてしまった部品を植松さんが翌朝まで探してあげたのも、その一環だと思います。
それからは、失敗したら成功するまで何度でもやっています! 「パラシュートが絡まってたね」とか「蓋がちょっときつすぎたかな」とか、その子と一緒に原因を話し合って、直したうえでもう一度飛ばします。
これはきっと、実社会で一番重要なことじゃないかな。誰しも失敗はする。失敗しかしないくらいです。そのときに原因を考え、どうしたらうまくいくか試行錯誤して改善していくこと。
――失敗を経て打ち上げに成功したら、なおさらうれしいですよね。しかも、うまくいかなかったときに一緒に考えて手伝ってくれる人がいた経験もとても大切だと思います。
◆ 「好き」をとことん突き詰めていくのが学び
――先生は最近、何か試行錯誤しましたか?
やっぱりロケットですね。
大型クラフトロケットにカメラと加速度計をつけて、飛翔時の風景の撮影と、加速度、速度、高度を測ろうとしています。
ロケットに積める重量を計算して、超小型コンピュータとリチウムイオン電池、加速度計を接続して‥‥これがなかなか難しくて、大変なんですよ。
―― ‥‥とおっしゃりながら笑顔ですね(笑)
楽しんでいます! 一緒に取り組んでいる仲間は、私と同じ名前のようすけさんと、彼のお母さん。二人とも凄腕のプログラマーなんです。私もPythonというプログラミング言語を学んでいます。
――まさに今、試行錯誤中なんですね。
試行錯誤して、失敗もして、毎日げらげら笑っています(笑)。
――最後の質問です。先生は「新しい学びのあり方」を広げていく活動をされていますが、いま、新しい学びとはどんなものだと思われますか?
好きなことを好きなように突き詰めていけば、それが学びになると思います。
大人に「そんなことしないで勉強しなさい」と言われても「好き」に蓋をしないで、とことん突き詰めてほしいです。あなたの好きなことを必要としてくれる人がきっとどこかにいますから。
――福大の「新しい学びのプラットフォーム」で、多くの人の蓋が外れますように!
イベントやセミナーをやりたい方、ぜひ福大の教室をご利用ください。
(おわり)
◆編集後記
どんな年齢や立場の人ともフラットに接し、“斜め上”の活動を続けている松隈先生。お会いするたびに、心の風通しがよくなるような心地がします。
今回お話をうかがって、自由な学び・自由な生き方は、「ひとりの力」「ひとりの思い」を過小評価しないことから始まるように思いました。特に自分のことは、「私なんて‥‥」と思ってしまいがちですよね。
今、福大を利用しておこなわれている数々のイベント等も、先生おひとりの呼びかけから始まり、広がっているものです。
教室の利用のサポートを通じて、先生ご自身が新しい学びのプラットフォームになっているようでもありますね!
(イノウエ エミ)