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能傍タルツの実話怪談コレクションその八『現代筑前奇談考』-7月-「異説トンネル怪談」

 昭和時代の怪談の定番、
 いわゆる「トンネル怪談」は
 誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。
 今やほとんど全国的な都市伝説と化し
 各地域によって様々なバージョンがあるが
 オリジナルとされる話のあらすじはこうだ。
 
 関東のとある心霊スポットとされる
 廃トンネルにドライブに出た
 若者数人。
 噂であるようにトンネルの真ん中あたりに
 車を止めてクラクションを三回ならしたが
 なんの異変もない。

 なあんだと、拍子抜けして
 帰路につこうとする彼らの中の
 ドライバー役がこう言う。
 
 「なあ、俺たち友達だよな?」
 「ああ、そうだけど」
 「じゃあ、何があっても見捨てないよな?」
 顔面蒼白なドライバーの
 アクセルを踏むべき足首を
 床から白い手がしっかりと握っていた。 

 半狂乱になって絶叫と共に
 我先に車から逃げ出した若者たち。

 暫くして置き去りにした
 ドライバーの身を案じて
 おそるおそる車に戻った
 彼らの目の前にあったのは
 ガラスというガラスに
 無数の手形のついた
 無人の車だけであった。

 この先は各地域により
 ドライバーはそのまま行方不明とか
 発狂、自殺したなど
 様々な尾ひれがつけられているようだ。

 そしてこの話は
 70年代に人気女性タレントの
 C、Nさんが実際に体験した方から聞いた
 実話であるとされている。

 ところでわたしの仕事先の先輩に
 若き日のこのタレントさんと
 一時期お付き合いされていた方がいる。

 その方にこの話を訪ねてみたが
 怪訝そうな顔で、そんな話はCさんからは
 聞いたことがないとおっしゃった。

 ただ、こんな話はしてくれた。

 若い頃にいわゆる「おくりびと」の
 仕事をしていたが
 深夜に「仏さま」を乗せた車で
 旧道の山越えをすると
 トンネルの真ん中で
 車がいきなり停まることがある。
 
 いくら鍵をひねっても
 アクセルを踏んでもピクリともしない。

 ふと気づくと
 床から出た、何者かの白い手首が
 自分の足首を握って離さない。

 そんな時は
 慌てず般若心経を唱える。

 ぶっせつまかはんにゃしんぎょう
 かんじーざいぼうざ
 ぎょうじんはんにゃはらみたみ
 しょうけんごううんかいくう
 どいっさいくうやく
 しゃありいし

 そうするとだんだん
 足首の気配が消えていく。
 そのタイミングでアクセルを踏み込み
 トンネルを脱出するそうだ。

 「そげな事はようあったバイ」と
 おっしゃっていた。
 「Cさんはハーフやろうが?綺麗かったよ~。
 スタイルがキュキュっとしてね。今はズドンと
 こうバッテンね~」       
 
 先輩は両手を両脇に拡げて
 笑った。

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