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ウィリアム・バードのミサ曲が弾きたい!
今年もまた、3月21日の「古楽の日」がやってきたので(この日についての記事はこちら)、それに合わせて久しぶりに自分のYouTubeチャンネルを更新しました。
こちらが新しい動画です!
今年没後400年を迎えたウィリアム・バード(1540頃~1623)のミサ曲を、リュート独奏用に編曲しました。
暗いところから蝋燭に火をともしたり、曲の切れ目にオリジナルの楽譜を表示したり、画角にもできるだけ凝ってみました。
でも、演奏自体はセクションごとに一発録りです!
![](https://assets.st-note.com/img/1679844631732-v4XVubyYYi.jpg?width=1200)
ウィリアム・バードは、エリザベス一世やシェイクスピアとも重なる時代に活躍し、当時としてはかなり長命を全うして、幅広いジャンルに優れた音楽を多く残しました。
その功績から、没後には「英国音楽の父」とまで称されたほどです。
元より古楽の分野でも人気の作曲家ではありましたが、今年はアニヴァーサリー・イヤーということで、まさに「バード・フィーバー」が起こっています。
(ちなみに昨年末に北ドイツにて、バードの音楽をとりあげたプログラムでの録音を行ったばかりで、今年中にリリース予定です。)
さて、リュート弾きでいるとバードの音楽を演奏したり伴奏したりする機会はそこそこ多いです。しかし、バードはリュートでなく鍵盤楽器の演奏を得意としたため、元からリュートのために書かれたと確実に言える作品というのは、今のところ存在していません。
例えば、私の2枚目のソロ・アルバムに収録したこのバードの作品にしても元は鍵盤曲で、同時代のリュート奏者(フランシス・カッティング)が、自分の楽器で弾きやすいようにアレンジを施したものです。
(タイトルが間違っています・・レーベルがサブスクリプションに掲載する際に、タイトルの順番を間違えて登録してしまったようです。混乱させてしまいすみません!)
「バードの音楽の真骨頂は、ラテン語のミサ曲にある!」という文言を長らく目にしてきました。
バードには、それぞれ3声・4声・5声のミサ曲があり、このたび私がリュートに編曲したのは、最も声部の少ない3声のものです。
そしてこの3曲は、バードの創作の中でも特別な意味を持っています。
なぜでしょうか?
よく知られているように、テューダー朝の英国王ヘンリー8世(1491~1547)は、ローマ・カトリックと決別して英国国教会を立ち上げ、自身をその首長と位置付けました。
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その後、メアリー1世によりカトリックへの復帰が起こりますが、その死後同じくヘンリー8世の娘として即位したエリザベス1世(1533~1603)は、再び国教会体制を確立。
![](https://assets.st-note.com/img/1680041111393-MZRlSp3oxl.jpg?width=1200)
女王よりも10歳ほど若かったウィリアム・バードは、こうした時勢にあってなお、カトリック信者でした。自ら音楽を嗜み、音楽家たちを庇護した父ヘンリー8世の血を受け継いだのでしょうか、エリザベス1世は才能ある音楽家に対しては、たとえカトリック信者であっても積極的に活躍の場を与えました。特にバードに対しては、独占的に楽譜の出版権を与えるなどして相当優遇していました。
バードの出版された作品にも、女王を称える内容の歌曲が見いだされます。そして今回の一連のミサ曲にしても、驚くことにこうして当時の出版譜がちゃんと残っているのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1680046574460-YqHaMqklER.jpg?width=1200)
そもそもミサは、カトリック教会では最も重要な典礼です。
当時の英国内では、例え少人数であってもラテン語でミサを行うことは、相当勇気のいることだったでしょう。
このミサ曲の楽譜にはタイトルページがないという事実から、かなり特殊な出版事情が想像されるのではないでしょうか。
バードのミサ曲については、アカペラでの演奏音源・動画が多数出ていますので、興味のある方は是非探していただきたいのですが、とにかく聴けば聴くほどに惹き引き込まれる作品です。
特に3声のミサ曲は、声部が少ないだけに一切の無駄を切り詰めたと言っても良い構成で、その抑制されたポリフォニーの中に、作曲者の確たる信念が刻印されている気がして、まさにどこをとっても関心するしかない、非の打ちどころのない傑作だと思います。
とにかく楽譜が出版されたのですから、その当時のリュート弾きたち(その中には有名なジョン・ダウランドなど、カトリック信者もいました!)のうちの誰かが、このミサ曲の譜面を何らかの形で手に入れた可能性も全くゼロではないはず。
そして、私がこの曲を最初に聴いて瞬間的にそう思ったのと同じように
「是非、自分の楽器で弾いてみたい!」
ということになったとしたら?
もちろん仮にそうなった場合でも「こっそり編曲して」、「こっそり弾いていた」でしょうから、その痕跡は今日まで残らなかったはず・・
そんな妄想を膨らませつつ、エリザベス朝期にいたであろう、とあるリュート弾きに自分が転生したつもりでやってみたのが、今回の編曲作業と演奏、というわけです。
バードのミサ曲は昔から人気曲なので、既に誰かがリュート用編曲をやっていてもおかしくはなさそうなものなのに、今のところ他にないみたいです。
だいたい、この時代の英国のリュート音楽は、とても一人で全部弾ききれないほど大量の、しかも質の高いオリジナルの作品が譜面で残っているので、わざわざ編曲もので絶対数を増やす必要はないだろう、という気持ちも良く分かります。
ともあれ今回のバードのミサ曲の動画は、公開してから4日で早くも再生数が1000回を突破し、ついでに新規のチャンネル登録者も増えるおまけまでついて、それなりに反響を実感しました。
また、一部のリュートを弾く人たちから動画に、「この譜面は販売しないのか?」というコメントがあったり、あるいはそのことについて私に直接の問い合わせまであったりして、なるほどこれを「弾いてみたかった」人は、やはり一定数存在していたことは分かりました。
弾いてみたいけども、そのために編曲するとなると案外大変・・なのは事実そうでした。それに動画を公開してから、いくつかの部分で細かい修正が必要と思うところが出てきて、これが決定稿だとはまだ言えません。
だいたい、バードのミサ曲の動画自体、これで終わりではありません!
夏にやってくるバードの正真正銘400回目の命日に、続編を公開しようと思っています。
少し先の話ではありますけども、そちらの方も是非お楽しみにお待ちください。