早まるな 過去の自分は 意外と賢い
これ、30年以上前に勤めていた会社で、同僚のシステムエンジニアが言ってた一言。
私はその同僚とは、あまり仲が良い訳ではなかった。というか、当時の私はかなり人見知りが激しく、他人に対しても好き嫌いが結構激しかった。今では、かなりフラットになっているつもりだけれども。(実際、どうなんだか・・・)
彼に対しては、今にして思えば、自分と似たところがありすぎて、どちらかと言えば、近親憎悪みたいなものだったのかも知れない。
その彼が言っていた。
ずいぶんと前に書いたプログラムコードを読み返すと、「何、こんな馬鹿なやり方してるんだ?」と思うことがある。それを「修正」して「きれいなコード」に書き直してしまうと、特定のケースでデータ処理にエラーが出ることがあって、そのエラーをみて突然思い出す。「あ、そうだった、こういうデータがあって、そういう場合にはこういうレアケースが発生し、それがエラーになるから、それを回避するために、わざわざ先にこの処理をするようにトラップを入れたんだっけ。」と。
滅多に起きないけれど、だけど、論理的にはあってもおかしくない、そういうレアケースは、プログラムすると一見「複雑怪奇な処理」になってしまうことがどうしてもある。特に生体データの場合、10人のデータがうまく処理できたと、自信たっぷりに(社員など)100人近いデータを取らせてもらうと、何人かは想定外の処理結果になる。その100人に対応できるロジックを組み込んで、開発に協力していただいている大学病院などの臨床に持ち込むと、今度は1000人に数人とか、絶句したくなるようなデータが入ってきたりする。おそらく、その先、人数が1万人、十万人と増えると、その都度「例外」データが出てくるものだと思う。
結局、「こういう例外データがあるから、その場合はこういう処理」という例外処理の一覧などを文書化しておけば、まだ良かったのだろうけれど、当時は若くて未経験だったし、「すぐに結果を出せ」的なプレッシャーの中だと、こうした「後々のための文書化」などには全く手付かずのまま、走り書きのメモをどこかに残すなどして、次にいかないとならないケースも少なくなくて、挙句、時間が経つと忘れてしまい、後から「昔のプログラムコードをメンテナンスする」場面になると、「何やってんだ?このプログラム?」ということになる。
職場では先輩だった彼が、その結果発した言葉が、このページの表題で「早まるな 過去の自分は 意外と賢い」だったと思う。
慌てて修正する前に、なぜ、そういうプログラムになっているのか、思い出さないと、修正したつもりが元の「10人分だけならうまく処理できます」的なコードに逆戻りしてしまう。
念の為に書いておくなら、今ならばコンパイラ性能も、ハードディスクの容量も桁違いに大きいけれど、当時はソースコードに長文のコメントなど入れようものなら、主記憶容量が足りなくてコンパイルしてもらえない、なんていうことも少なくなかったから、ファイル容量の削り落としも「重要なスキル」の一つだった。だから、「今の常識」が通用する時代ではなかったことだけ、付記しておく。
思うに、案外とこういうことって、日常でもあったりするのかな?と思ったりした。
世の中、複雑怪奇というか、何と何がどうつながっているか、すぐには顕在的にわからないことも多い。
結局先人たちは、「一見非合理」とか、「一見不便」と思えることでも多くのヒントを我々に投げてくれているような気がする。
「なんで、こんな単純なやり方でうまくいくのに、誰も試さなかったんだろう?」的な、「一見うまくいきそうな、すごく単純なやり方」に切り替えた途端に、水面下で連携していた物事が顕在化して、とんでもないしっぺ返しを食らうようなことって、案外多かったりするのかも知れない。
https://www.bbc.com/japanese/articles/cr53vy1q9d9o
米国務省、ほぼすべての対外支援事業の停止を指示 開発・軍事援助などに影響か
表向きは、アメリカにとって「合理的」であるように見えるに違いないけれど、こうした「対外支援」は目に見えないところで「対米感情」に大きく貢献していたように思える。それが今後は欠落する、その結果何が起きるか、ちょっと予測不能な気がする。
中国は「国家情報法」を成立させ、海外の中国人も中国政府に協力すべきだとしている、と私は理解している。その結果、以下のような論説も派生した。
「中国、易々と日本の情報を窃取」
――日本の国家安全を考えると、中国人労働者や中国人留学生に対して、重要技術や機密情報を扱う企業で働かせたり学ばせたりするのは問題がある…。
さらに言えば、ディープシークをめぐるAIの利用規制について、
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250210/k10014718641000.html
「AIアクションサミット」 仏で開幕 安全な活用など議論
ディープシークの生成AIをめぐって、中国外務省の郭嘉昆報道官は10日の記者会見で、中国は世界のAIの発展に積極的に貢献していると強調した上で、「イデオロギーに基づいて線引きをしたり、国家の安全保障を引き合いに出して経済や貿易を政治問題化したりすることに反対する」と述べ、欧米などで広がるディープシークの利用制限の動きをけん制しました。
これは、無理な主張だと思う。海外にいる中国人は、その滞在国の法律に従うべきであって、例えば、日本にいる中国人は日本国の法律を中華人民共和国の法律よりも優先して守るべきだと、私は考える。それを「簡単に覆した」そのしっぺ返しは、今後あらゆる形で噴出すると思える。
海外にいる中国人が、その国の法律や、雇用された企業の「守秘義務契約」に基づき、中国政府への情報提供を拒むことができるようにしない限り、中国人自体を警戒する、あるいは、中国製の製品や技術を警戒することは避けられない。ある意味で自縄自縛だと思う。今に至ったなら「国家情報法」がその原因を作っていると、さすがに理解しているに違いないとは思うが。
技術力に自信のある技術屋ほど、安易に(自信たっぷりに)「なんで、こんな非合理的なやり方しているんだ?」とばかりに、「合理的」な修正をした途端に、システムがうまく動かなくなったり、することがあると思う。
案外、システムエンジニアの「あるある」じゃないか、という気もするんだが。
また、「最高権力者」として何でもできると過信している方ほど、過去のやり方を簡単に改めてしまう。その挙句どうなるか。一度失われた信頼を取り戻すことは、簡単じゃない。と私は思う。
以上